第11話 四天王、愉しむ
ギィィィンっという音を上げ、リーリエルが数メートル後方へと吹き飛ばされる。
デガンジャが振り下ろした大斧に大して、リーリエルは拳で迎撃し、衝撃を殺しきれずに飛ばされたのだ。
しかし、驚きの声を上げたのは、吹き飛んだリーリエルではなく、デガンジャの方だった。
「な、なにぃ!? この俺様の斧が、こんなガキに受けられただとぉ!?
しかも、素手ぇ!?」
「ちっ……」
動揺するデガンジャとは対照的に、リーリエルは不服そうに舌打ちした。
(こいつ、トロルよりもずっと力があるようだ。
間抜けな面からは想像できんが、打撃術を使用している状態でこの力の差とは。
いつもの俺であれば、どうということもないのだがな)
リーリエルは大斧を受けた右拳を軽く開いたり閉じたりする。
力負けはしているが、負傷はない。
「お、おいガキ!? てめぇ、ただのガキじゃねぇな!? 一体何者……うおっ!?」
「外したか」
「こ、このっ糞ガキ!? 俺様が喋ってるときに、毎度殴りかかってきやがって!?
まともに話すこともできねぇのか!?」
「魔物と話してどうなる。
貴様の短絡な性質は先ほど十分に見た。死ね」
「てめぇぇぇっぇぇ!!! 下手に出てやればこの糞がああああ!!! ぶっ殺してやる!!!!」
「それはこちらのセリフだ」
斜めに振り下ろされた大斧を、リーリエルは素早く懐へと飛び込んで躱す。
流れるように腰を回転させ、デガンジャの右足の脛を打ち抜いた。
「くおっ!?」
デガンジャが激痛に呻き、左手でリーリエルをはたこうとする。
しかし、リーリエルはすでに十分に間合いを取っていた。
「おぅおおぅ!? 痛っ!? 痛ぇぇっ!?
くそっ、本当に一体どうなってやがるんだ!?
なんでこんなちっこいガキにこんな力が!?」
涙目になりながら、デガンジャが右足をさする。痛みはあるが、折れてはいない。
しゃがみ込むデガンジャに、リーリエルは冷ややかな視線を向けた。
「ぴーぴーわめくな。そんなナリをしていて貴様、情けないにもほどがあるぞ。
俺など、こんな身体になっても自暴自棄にならずにやっているのだ。
まったく、ただでさえ貧弱な身体になってしまったというのに、魔法を使えば女になるだと?
本当にふざけた話だ。
恵まれた体躯を持つ貴様が、どの面下げて泣き言を言うのだ」
「う、うるせぇ!! 何わけのわかんねぇことを言ってやがる!? 痛ぇもんは痛ぇんだよっ!!!
ちくしょう、ふざけがやって!! こうなったら俺様の本気を見せてやる!!!」
「阿呆が、最初から見せておけ」
デガンジャの額に血管が浮き出た。
「うおおおおおおおおお、極剛力!!」
デガンジャの身体が、一回り大きくなる。急激に筋力量が増加したのだ。
デガンジャは大斧を振りかぶり、リーリエルへと力任せに叩きこむ。
パワーもスピードも上がったデガンジャの一撃を、しかしリーリエルは苦も無く避けた。
大斧が地面にめり込むと同時に、リーリエルの拳が再度デガンジャの脛を殴りつけた。
「芸がないな」
「そりゃてめぇだ糞ガキが!!!」
デガンジャが斧を手放し、裏拳でリーリエルの身体を殴打する。
リーリエルは軽々と吹き飛ばされ、樹に打ち付けられ軋みを上げた。
「がははははははぁははは痛っ……はははははっは!!!!
てめぇもちっとは力があるようだが痛っ…………俺様が本気になればこんなものよ!!!
…………っくぅぅ~………………」
「元気に吠える割に、随分と痛そうだな」
「げはははははっははぁ!!! 馬鹿言ってんじゃねぇ!!!
極剛力を使った俺様に、痛みなどあるもの…………え?」
呆然とするデガンジャ。
樹に打ち付けられたリーリエルは、何事もなかったかのように平然と歩いていた。
「今の打撃はなかなかよかったぞ。少しは楽しめそうだな」
(うわぁ……リーくんってば、なんか生き生きしちゃってるよ……
こーっそり近づいて、私も戦おうと思ってたんだけどなぁ)
リーリエルとデガンジャの戦いが激化するのを、ミーナは遠巻きに眺めていた。
(ウォーリアーに殴られたときはどうなることかと思ったけど……リーくん、すんごい頑丈だなぁ。
そういえば、初めて会った時もトロルの棍棒に打たれてピンピンしてたっけ。
ひょっとして、何か特別な加護でもついてるのかな?
大体、リーくんのパンチの威力からして桁外れなんだけどさ。
なんで素手で魔物と戦えちゃうんだろ。
身体能力向上の魔法はあるけど、あんなに出鱈目なパワーは出なかったと思うんだけど……)
ミーナは無意識にリーリエルの背中を凝視するが、特段変わった様子はない。
リーリエルとデガンジャが激しく拳を打ち合う姿が見えるだけであった。
「なんて、私なんかが見たところで、加護の有無なんてわからないよね。
……さて、と」
ミーナはリーリエルから視線を外し、あさっての方向へと進む。
ミーナの近づく茂みの中にはいくつもの気配があった。
「キュ、キュゥ!?」
「……はぁ、やっぱりいた。
そりゃねぇ、コボルトウォーリアーがわざわざ独りで来ることないよねぇ」
「キュキュッ、キュゥキュゥ!」
十数体の武装したコボルトが、ミーナを前にパニックを起こしていた。
コボルト達は、昨日ミーナとリーリエルから逃げ出した仲間から、二人がどれほどの強さの者か聞いていたのだ。
なんとかして不意打ちを狙っていたのだが、あっさり居場所がバレて混乱している。
動揺しながらも一体のコボルトが、至近距離で弓を射ようとして、
「キュウゥゥゥゥ!? キュゥゥゥゥゥウウゥウウウウウ!!!」
近くにいたコボルト達が次々と悲鳴を上げる。
予備動作のないミーナの水平斬りにより、あっさりと首が離れたのだった。




