囚われていたのはどちらか
ピチャン……ピチャン…
水の落ちる音がコンクリートの部屋に響く。
彼女がすっと息を飲む音が聞こえた。
「もう、こんな事はやめよう。こんな事をされても、あなたを好きにはならないよ」
それは何よりも残酷な言葉。2人の関係に終わりを告げる言葉だ。
「そんなこと言わないで。こんなに愛してるのに…どうして分かってくれないの?」
ガチャッ
荒々しく傍の銃を掴み引き金に手をかける。いつもなら銃が向けられると激しく怯えていた。抵抗も反論もできず、ただひたすらに謝っていた。なのに…
「もうそれでは解決しないよ」
どうして…どうして、今日はこんなに余裕があるのだろうか。分からない。
彼女は強い目で僕を睨みつける。僕も負けじと彼女を見つめる。
「ここから逃げられると思ってるの?」
彼女の目に強い光が灯る。彼女の強い意志を示していた。
「逃げられないよ。これだけ強く縛ってあるんだから」
僕は彼女の目から目を逸らし、縄を見つめた。そうだ。逃げられるわけがない。腕は身じろぐこともできないほどだ。彼女がこの部屋に入ってきたときに強く縛ったから当たり前だ。何度も確認した。
あれから何分、何十分経っただろうか。この部屋には時計がない。
彼女はずっと怯えるようにカタカタと震えている。
僕は彼女に怯えていることを悟られないように唇を強く噛み、体の震えを抑える。
彼女に僕が怯えていることを気づかれるのだけはまずい。
少しずつ手をひねり、縄が緩んでいくのを横目に、僕は全く気にしていないかのように顔を作る。
「何を考えているの」
彼女が怯えながら僕の目を睨みつける。僕がどう動くのか、何を話すのか、彼女は全てに怯えているのがよくわかる。
パサッ
縄が音を立てて床に落ちる。しまった、と言わんばかりの顔をする彼女の顔。僕はすぐさま傍の銃を掴み、彼女に銃口を向ける。
「や、やめて…!」
彼女は目を大きく見開いた後、今度は強く瞑り、ボロボロと涙を流し始めた。
「どうして…!後少しだったのにこんな…ひどい!」
彼女の顔を見つめる僕の顔に感情はない。先に裏切ったのは彼女だ。彼女が何もしなかったら僕らはずっと一緒にいられた。
「もうお別れだよ」
僕は彼女との関係に終わりを告げるために引き金に指をかける。刹那、銃口からは白い煙が上がった。
コンクリートのドアを開き、階段を上っていく。絨毯を踏みしめ、再びドアを開き…僕は地面を踏みしめた。
まぶしすぎるほどの太陽が僕を焼き付ける。ボロボロの格好に銃を握る僕。異様な雰囲気に気づいたのだろう、傍の女性が悲鳴をあげ、僕の周囲から人がいなくなる。
サイレンが響きわたる中、僕は足元に置いた銃を警官に向けて蹴り、取り押さえられた。
これでいいんだ。
次の日の朝刊
「自宅地下室にて監禁 被害者に撃たれ死亡」




