プロローグ1
世界は終わる。
時は2017年、どうやら世界はモヒカン蔓延る世紀末をぶっ飛ばして終わっちゃうらしい。
ところ、我が家。
リビングというには些か奥ゆかしさのある小さな和室。
眠たい目を擦り、賞味期限ギリギリの少し湿気った食パンに、
誰がこんな中途半端に残したんだ?
という程度にしか残っていないイチゴジャムを塗りたくっている人、イケメンこと俺・時尾翔17歳。
ちなみにこの世界の主人公である俺は、世界が終わるからと言ってタイムリープして世界救っちゃうぜ?
とかない。
いや、全くこれっぽっちもないかと言われたらわからないな。それは世界次第。
はたまた、え?地球無くなんの?じゃあ俺たちで作ろうぜ!と宣うなんでも1からなんでも作っちゃう農家系アイドルの世界でもない。
そしてその斜め隣、いわゆるお誕生日席でイチゴジャムたっぷりの食パンを頬張るのは、妹・時尾巡15歳。
あれ、これやっぱ時をかけ◯少女なんじゃね?お前ら兄妹、時をかけてんな。
とかよく言われる名前だけど、マジでそういう要素ないからねこの世界。
そんな時をかけてそうで、普段生意気なことを言っていても、イチゴジャムを少しは残しておいてくれる、ちょっぴりシャイなあんちくしょうなJKが我が妹である。
口癖は「滅べよ、世界。」特技は「倒置法」。
昨夜も我が妹は、やれ詫び石寄越せだの、やれ死ねクソ運営だの宣った後
巡「は?滅べよ、世界。」
と宣言していました。お兄ちゃんは妹の将来が心配です。
って、世界終わるみたいだし関係ねーか!ガハハ!
と時事ネタを交えた世界ジョーク、どう面白いでしょ?
小さじ一杯にも満たないイチゴジャムをオブラート程の薄さで食パン全面に塗りたくり終えた時、液晶に映るエラソーなカツラっぽい髪型のコメンテーターが言った。
エラソーなカツラ風「世界はあと半年で終わります。」
厚化粧のアナ「それはつまり・・・どういうことでしょう桂さん。」
桂さんだった。
エラソーな桂さん「NASSAの衛星が捉えた映像によりますと、約半年後に地球に衝突することを観測した・・・とのことです。」
厚化粧のアナ「それはつまり・・・どういうことでしょう桂さん。」
今頃ネットの某掲示板や某まとめサイトではきっと
【悲報】地球滅亡のお知らせ・【人類滅亡】こいついつも滅亡してんな・隕石「地球!イくぞ!」地球「ら、らめえ地球・・・壊れちゃうぅぅうう!」
などのスレが乱立し、草が生えたり、自称タイムトラベラーが現れたり、ホモが湧いたりで大忙しだろう。
もちろんオフラインも然り!
かく言う俺もこういうネタは嫌いじゃないし、この繰り返される平凡な毎日に彩りを与えようとテレビの向こうも奮闘してくれている!
ならば俺も乗るしかないだろうこのビックウェーブに。例えそれが使い古されたネタであってもだ。
みんな疲れてるんだよ、この世界に。みんな飽きてるんだよ、この世界に。
それでも「世界滅ぶってよ」と会話を振れば「んなわけねーべww」と笑い合えるしなんか知らんが心が満たされるってのが人間ってもんでしょう。
笑おう!それこそホントに世界が終わるまで。
翔「てことでメグよ、世界滅ぶってよ。」
巡「まだ私貰ってないんだけど、侘び石。」
ガハハ!残念だったな!と笑う俺こと主人公。
微笑を浮かべ「滅べよ、世界。」と愚痴る妹こと巡。
余命半年を宣告された、終わる世界こと地球。
これは壮絶で楽観的な、平凡な世界のお話。