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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 5 婚約騒動と王妃の茶会
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75 悪役令嬢は入試の心配をする

ハーリオン侯爵令嬢の十三歳の誕生日会は、内輪だけでこっそり行われた。侯爵夫人は娘達を大々的にお披露目すべく策を練ったものの、ドレスを着たくないジュリアと人前に出たくないエミリーを中心に、誕生日会ボイコット運動が繰り広げられた。家族だけの会となったのである。

「ふうー、やっぱ、うちのケーキは最高だわ」

ジュリアは満足そうにのけ反った。ケーキを何切れ食べたか自分でもよく分からない。

「ジュリアちゃん食べ過ぎだよ?」

「この後アレックスが来て、剣の練習だもん。運動するから大丈夫」

「太った悪役令嬢なんか見たくないわね」

「私はいいの!それよりマリナ、最近腕太くなってない?」

「なっ……人が気にしていることを!」

喧嘩が始まりそうになり、侯爵夫人が四人に呼びかけた。

「学院への入学まであと二年。その前にマリナが王太子妃候補に正式に選ばれるでしょうね。公式の場に出たらダンスだって礼儀作法だって完璧にできなければいけないわ。今までは子供の習い事で済んでいたけれど、これからは本腰を入れて取り組んでほしいわ」

「分かりました。頑張りますわ、お母様」

マリナが返事をする。残りの三人は顔を見合わせて渋い顔をした。

「特に……ジュリア」

「ひっ」

「あなたは礼儀作法が全く身についていませんね」

「あ、あの」

「明日から授業を抜け出すことは許しませんよ。男の子の恰好も改めなさい。いいわね」

「でも、お母様……」

「剣の練習の時は特別に許します。それ以外の時間はドレスを着ること」

「ああ……」

ジュリアは動きにくいドレスが大嫌いだった。歩くときに脚に絡まって邪魔だし、きついコルセットも締めなければならないし。

「元気出して、ジュリアちゃん」

「つ、つらい……」

「いい加減慣れろ」

エミリーが視線を上げずに呟く。

「私にもできたんですもの、ジュリアだってきっと……」

「マリナはどっかおかしいの!あんなの普通は耐えられないの!」

「そうかしら?」

厳しい礼儀作法の授業も怯まずにこなすマリナには、ジュリアが嫌がる気持ちが分からない。

「一度覚えてしまえば、後は身体が勝手に……」

「できないよぉ。いつもぎくしゃくしちゃう」

運動全般不得意なアリッサは、淑女のように礼をするにもぐらついてしまう。

「マリナが特異体質だ」

「そうかなあ……うん。私もジュリアが貴婦人になれるように協力するわ」

「協力?……うわあ、何か嫌な予感」

マリナは極上のアルカイックスマイルを浮かべ、ジュリアは震えあがった。


   ◆◆◆


ハロルドが帰ってきてから、姉妹は義兄と邸内で会うことがあまりなかった。ハロルドはもうすぐ王立学院に入学する。領地管理人の息子として一般教養は身に付けていたものの、貴族としての常識を学ぶ必要があった。毎日のように家庭教師が入れ代わり立ち代わり彼を指導している。

「ハリー兄様も大変だよね」

「入試の前だからって毎日お勉強じゃ、嫌になっちゃうよね」

「うわー、私、学院に入りたくなくなってきた」

「ジュリアでも入れるから心配するな」

「どういう意味?それ。剣技科をバカにしてる?」

「剣技科と魔法科には学力試験がない」

「それ本当?いいなージュリアちゃんもエミリーちゃんも。私はどっちもできないから普通科に進むしかないもん」

「アリッサなら余裕」

「そうそう。公式設定じゃ開校以来一番の成績で入学したっていうレイモンドと、対等に会話できてるんだからさ、アリッサには入試なんか簡単簡単」

「だったらいいけど……」


三人が居間で雑談をしている頃、マリナはダンスの教師に呼ばれていた。

「……私が、お兄様のパートナーを?」

「ええ、そうよ。四人のうちであなたが一番安定しているもの」

椅子に腰かけているハロルドをちらりと見る。こちらを気にしているようだ。

「お兄様の脚は大丈夫なんですの?」

「心配ありませんよ。長時間踊るわけではありませんし。そうですよね、先生?」

「基本ができればいいのですよ。……さあ、マリナ」

ダンス教師に促され、マリナはホールの真ん中に進み出た。ハロルドが肘置きに手をかけて椅子から立ち上がり、彼女の手を取る。

「よろしくお願いします。……一曲、踊っていただけますか」

美しい微笑も優しい瞳も、以前と変わっていないのに。

瞳の奥に燻っていた炎だけが見えない。

「ええ、喜んで」

曲が始まり、ハロルドの手が腰に回される。

幾つかのステップとターンを終えたところで、彼の様子がおかしいことに気がついた。

「……お兄様?脚が痛むのですか?」

「いえ。脚は痛みません。……ただ」

言い淀むとハロルドは苦しそうな笑みを浮かべて瞳を揺らし

「いや、何でもありませんよ」

とだけ返し、マリナから手を放した。



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