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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 4 グランディア怪異譚?
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72 少年剣士は妖精を見る

【アレックス視点】


「アレックスは首なし騎士の話を知っているか?」

私室でくつろいでいる時に、セドリック殿下にいきなり聞かれた。

「何ですか、それ」

「知らないのか?有名な怪談なのに」

「俺、あんまり本とか読まないんで」

そういうと殿下は呆れた顔をした。

「だろうと思ったよ。……ほら」

手渡されたのは絵本だった。

「ぐらんでぃあおうこくのこわいはなし?」

「首なし騎士について書いてある。首なし騎士は首を探して王宮をうろつくんだよ。だから、それをやってほしい」

「は?」

「僕とマリナが二人でいるところに、首なし騎士になりきって入ってきてほしいんだ」

「俺がですか?」

「他に誰がいる?」

「んー、ジュリアン?」

俺は親友の顔を思い浮かべた。

「ジュリアンと一緒に誘拐されたんだって?」

「はあ、まあ」

「怖かっただろ」

「んー、そうですね」

怖かったかと言えば殺されかけたんだから怖かったが、ジュリアンがいてくれたから俺は怖くなかった気もする。

「アレックスは吊り橋効果って……ああ、知らないだろうけどね。一緒にいて怖い思いをすると、怖くてドキドキした気持ちを恋と勘違いするらしいんだよ」

「吊り橋……」

俺とジュリアンは男同士だ。恋なんか、恋なんかになるわけがない。

殿下は何を言っているんだろう。

「僕も、マリナと吊り橋効果を体験したいんだよ。マリナにドキドキしてほしいんだ。頼むよアレックス、首なし騎士になってくれ」


   ◆◆◆


ジュリアンを誘って俺は王宮の倉庫で鎧を身に付けた。大きい鎧の方がびっくりするだろうと思って、中で一番大きい、うちの父上が着るようなものを選んだら、ジュリアンは持ち上げるのがやっとだった。

二人で何とか鎧を持ち上げて、片足ずつ担当することにしたら、前に進めるようになった。鎧の中でジュリアンと肩がぶつかる。子供二人だけど意外に鎧は狭くて、ジュリアンの細い肩が触れる度、息遣いが聞こえる度に、少しだけドキドキした。怪談をやろうとしているのだから、ドキドキするものなのだろう。


マリナに正体がバレて、ジュリアンはマリナに叩かれた。やっぱりマリナには好きな人がいるみたいだ。セドリック殿下は気を失っていてよかったと思う。


   ◆◆◆


セドリック殿下が俺に指輪を渡した。マリナが王宮内で困っていたら、殿下の指輪を見せればどうにかできると言われた。そういう時は王子なんだなと思う。普段はマリナを頼ってばかりなのに。

部屋を出たのはいいが、マリナ達がどこへ行ったか見当もつかない。王宮の廊下を探すのは大変なので、一度外に出て別の入口から入ってみようと考えた。外を歩いている侍従もいるかもしれないし、マリナを見ていないか聞こうと思った。


客用寝室の続く棟の庭に差し掛かった時だった。

俺は白い妖精を見た。

一瞬こちらを見たが、彼女はすぐに木の下に逃げて行ってしまった。

追いかけると蹲って震えている。

「君、どうしたの?」

できるだけ優しく声をかけたつもりだ。

美しい銀の髪、白い肌……と、その、服は着ていなくて。

「こんなところで……その、下着、で……」

下着、と言うのが恥ずかしい。

だが、白い下着が妖精のようでもあったから。

女性の下着姿を見たことはないように思う。物心がついた頃には、父上をはじめとして騎士達の男臭い集団に混じっていた。着替えている母上を見たのは何回かしかない。

だから、コルセット?を締めた彼女の細い腰や、露わになっている脚に目が行ってしまう。

腕や脚に小さい傷がいくつもついている。何があったのか俺には分からないが、彼女はきっと酷い目にあったんだと思った。

服も見当たらない。

どこかから逃げてきたのかもしれない。

女の子がこんな格好でいたら、変な人に連れて行かれてしまうものだ。

俺は自分が着ていた上着を脱いで、震える彼女の背中にかけてやった。

「何か、あったのかもしれないけど……俺は見なかったことにする。君も、今日のことは忘れたほうがいいよ」

彼女は俺を忘れるだろう。忘れてくれて構わない。

――俺の方は、忘れられそうにないけれど。


次回から新章に入ります。

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