表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 4 グランディア怪異譚?
88/616

71 天才少年は企む

【レイモンド視点】


窓辺で庭園を眺めていた父上は、俺を振り返って言った。

「アーネストに話した」

「アリッサのことですか」

「ああ。あいつも頑固だから、すぐにうんとは言わないと思っていたが……」

父上の顔が曇る。

――ダメだったのか。

「お前達が図書館にいるところを見たらしい。節度ある交際をと言っておった」

「一線は越えていません」

「そりゃそうだろう。しかしなあ……」

息子がいる前で、居間でいちゃついている人が何を言っているのか。

「僕は欲しいものは必ず手に入れる主義です。父上もそうではありませんか?」

「狙った女は逃がさないと我が父上も言っていたな。裏の家訓のようなものだが」

父上は笑っていた。俺の話を真面目に考えているとは思えない。

相手の出方を待つような父上のやり方では、いつまで経ってもハーリオン侯爵から許しを得られそうにはない。

「またアーネストに……ふむ、今日から領地へ行くと言っていたかな。戻ってきたら話してみるか」

「お願いします、父上」


   ◆◆◆


何の収穫もないと思われた父上との話ではあったが、心の中で俺は小躍りしていた。ハーリオン侯爵は王都にいない。つまり、馬車でアリッサを誘いに行けば、図書館で誰にも邪魔されずに二人きりの時間を過ごせる。

彼女に宛てて手紙を書き、従者に持っていかせた。

すぐに支度を整えると、俺はハーリオン侯爵邸へ向かった。


支度が途中だったアリッサを待ち、客間で時間を潰していると、使用人達の話し声が聞こえる。どうやら侯爵は、領地の港町から船に乗ってアスタシフォンへ向かったらしい。何の用事かは聞き取れなかったが、最低でも三日は帰って来ないだろう。

これはいいことを聞いた。

明日も明後日も、アリッサを誘えるということだ。

「お待たせして、申し訳ありません……」

はっと顔を上げると、可愛らしいクリーム色のドレスに身を包んだアリッサが、頬を薔薇色に染めて俺を見ていた。

――何て可愛らしい。

椅子から立ち上がり、俺はアリッサを抱きしめる。困惑した彼女が「あの……」と何か言いかけたが、俺は唇を塞ぎ、続きを言わせなかった。


   ◆◆◆


図書館の書架の間でアリッサとの時間を楽しむ。本を探しに行くのではなく、明らかに追い込まれてキスされると分かっているだろうに、毎回騙される彼女を見るのは楽しい。

「レ、レイ様っ……こんなところで……」

どこだろうと知ったことか。泣きそうになった顔もまた、いい。

壁に押し付けるようにして唇を奪う。

「人が、人が来てしまいますっ……ん、んっ」

誰に見られてもいい。アリッサが俺の物だと、国中に知らしめたいのに。

「はあ、あ、あの、レイ様?」

「分からないか?こんな風にキスできるのも、あと半年もないんだぞ。王立学院に入学したら、俺が図書館に来ることもない。君が入学するまで二年ある。耐えられないだろう?」

王立学院は全寮制だ。公爵家の息子と言っても寮に入らねばならない。卒業まで学院から出る機会は殆どない。アリッサは俺の二歳下だ。一年間は重なるが、二年間は離れ離れになってしまう。

「レイ様……」

何を泣きそうになっている。……俺と離れることを想像して泣くのか。

それもいいな。

「俺は別に、二年くらいどうってことはないが、君は俺を恋しがる。忘れられないように、君の身体に教え込ませてやろうか。アリッサ」

正式に婚約もしていない関係では、俺が学院にいる間に、他の男に盗まれそうだ。恋愛小説に蕩ける彼女のことだ。甘い台詞を囁かれたらひとたまりもないだろう。

――そいつらより先に、俺がいただくがな。

図書館でいけないことをしている背徳感がたまらない。

知らず知らずのうちに俺は舌なめずりをしていたようだ。小動物のように震えるアリッサは、つぶらな瞳を揺らして俺を見つめていた。

――食べてくれと言っているようなものだな。

「抵抗しないのか?……ふっ、そんな期待した目で見て、煽るなよ」


王宮で魔法事故がなければ、俺はアリッサに何をしていたのだろう。

この頃歯止めが利かなくなってきている。彼女を求める気持ちと折り合いをつけたい。

王立学院へ入学してもこのままでは、俺はおかしくなってしまう。


   ◆◆◆


マリナと間違えられたことに気づいたアリッサは、精一杯姉の真似をした。部屋に閉じ込められている妹を探したいのは分かるが、名前も知らない下っ端兵士に色目を使うな。

「連れて行っていただけませんこと?……ね、お願い、ですわ」

彼女を見て真っ赤になっている兵士を、この場で抹殺したい願望が俺を支配する。顔は覚えたから後で父上に、サボっている兵士がいたとでも言ってやろう。

「ご、ご案内いた、たします。さ、どどう、ぞ、こちらに……」

戸惑っているようだな。当たり前だ、俺のアリッサは、下っ端のお前なんかが話していい相手じゃない。アリッサもおとなしくついていって……腹立たしい!

兵士の姿が曲がり角に消え、俺はアリッサを壁に縫いとめる。

「レイ様……」

「黙れ」

「ん……う……」

苦しそうな彼女の表情が愛しくて、つい口づけが深くなる。

――何度言ったら分かる?

分厚い歴史書も暗記してしまうくせに、俺が言ったことを忘れたのか?

――君は未来永劫俺のものだ。誰にも渡さない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ