表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 4 グランディア怪異譚?
82/616

65 悪役令嬢は手錠をかけられる

「こちらのお部屋にいらっしゃいます」

「そうか」

レイモンドが面白くなさそうに返事をする。

「ありがとうございます」

若い兵士は一礼する。優雅な微笑を浮かべたアリッサを見て頬を染める。

では、と言っていなくなったのを確認し、レイモンドは再びアリッサを壁に追い詰めた。

「レ、レイ様っ」

「新米兵士風情に色目を使うのか、君は」

「色目なんて、そんな」

――マリナのふりをして連れてきてもらっただけなのにぃっ。

「身分の低い男との恋愛に憧れているんだろう?」

また小説の話を持ち出すの?いつまで嫉妬しているのよ。

「違います!……早く、部屋の中にっ」

腕を振り払ってドアを開ける。

「エミリー!」

「うわぁっ」

中を見るとエミリーが、スカートの裾を下着の脚側から入れ、かぼちゃのようなお尻で窓の桟を乗り越えるところだった。驚いて踏み外しそうになり、すんでのところでレイモンドが室内に引き戻した。

「……何をしている。死にたいのか、君は」

「……」

「何か文句でもあるのか」

「いえ。ただ、レイモンドだなあと思って」

恋人の妹とはいえ、初対面で呼び捨てにされたレイモンドは、苛立ちを隠せない。

「失礼だろう。初対面でいきなり名前を……」

「この真面目そうな男が、図書館でアリッサにキスしまくってるんだと思って」

「なっ……」

「ムッツリスケベが」

「エミリーちゃん!」

「むぐっ」

アリッサが慌てて妹の口を手で押さえる。

「……ふん。どうして窓から出ようと?」

「魔法が使えないから」

手首には僅かに光る輪がつけられている。エミリーはスカートを直し脚を隠した。

「……魔導士の手錠か」

「鍵穴はどこ?」

「鍵穴はない。術でかけているんだ。手錠をかけた者は誰だ?」

「名前は知らない。宮廷魔導士の黒ローブだった」

「その人じゃないと外せないのかしら?」

「他にも、方法はある。術をかけた者より能力が高い魔導士に、鍵自体を壊してもらうんだ。エミリーは手錠をかけられている、魔法が使えないから除外する。宮廷魔導士の力の差は俺にもよく分からないが……」

「コーノック先生」

エミリーが呟く。三属性を持つ彼なら、鍵を壊せるかもしれない。

「そうだわ、エミリーちゃん。先生ならできるかも」

「コーノック?誰だそれは」

「私達の魔法の家庭教師です。宮廷魔導士なんです」

「王宮のどこかには、彼はいるんだな」

「……弟のマシューが捕まってる。帰らない」

マシューが苦しむ幻影が頭をよぎり、エミリーは目を伏せた。

「捕まった魔導士の関係者か。この部屋には近づけないだろうな」

ふうむ、と唸ってレイモンドは姉妹を見比べた。


   ◆◆◆


「考えがないのに、アレックスを置いてきてよかったの?」

エミリーを探して歩きながら、マリナは妹に問いかける。途中で兵士に声をかけて案内させようと思ったが、彼はマリナを見るなり、真っ赤になって走り去ってしまった。

「だってさ、アレックスや殿下がいたら、私達の内緒話ができないじゃない」

確かにそうだな、とマリナは頷く。アレックスはジュリアを男のジュリアンだと思っており、作戦会議の場にいては女だと気づく可能性がある。

「マリナこそ、セドリック殿下を置いてきてよかったの?何かの役に立つかもよ」

「役に立たなそうな予感がしたから置いてきたのに」

「私も役立たずだとは思ったけどさ。マリナの役に立ちたいって気持ちだけは汲んであげなよ」

「んー。私ね、考えたのよ。殿下と距離を置こうって」

「距離を置いても変わらないよ。マリナはゲームと同じように王太子の婚約者になるんだよ。嫌われてるか好かれてるか、どっちが没落しないかって言ったら、好かれてるほうがマシだと思う。無理に関係を絶とうとしなくったって……」

「……つらいのよ。殿下がお優しいだけに」

マリナは立ち止まった。

「そっかー。うん……時間だけじゃどうにもならないこともあるよね」

久しぶりに手を繋ぐと、ジュリアは左右に続く廊下を見て、

「よおし……私のカンだと、こっちだね!」

とマリナを引っ張っていった。


廊下をいくらも進まないうちに、マリナははっとした。

「ジュリア、見て。レイモンド様だわ」

「あ、アリッサじゃない?……違うな、アリッサのドレスだけど、あれ」

手を放して駆け寄る。レイモンドの腕にしがみついて歩いているのは、エミリーだ。

「いつの間にあんなに仲良くなったの?」

「さあ?……何やってんの、エミリー」

「シッ」

レイモンドが目でジュリアを制止する。

「久しぶりだね、マリナ嬢、ジュリア」

「私には嬢がつかないのか」

「山猿には要らないだろ」

「何でアリッサが……エミリーに?」

マリナが小声で尋ねる。

「エミリーは軟禁されていたんだ。魔導具の手錠を外すため、魔導士のコーノックを探している。アリッサと入れ替わっているんだ」

「じゃあ、アリッサが軟禁されてるっていうの?」

「そうだ。彼女が望んだことだ」

「腕組んでるのも?」

「手錠が見えないようにだ」

「……組みたくない」

エミリーが嫌そうにレイモンドを見る。

「俺は仕方なく協力してやってるんだ。文句を言うな、カボチャ女が」

カボチャって何?とマリナは首を傾げた。

「……キス魔のくせに」

今度はレイモンドが歯を食いしばる。マリナは喧嘩しそうな二人を見て言った。

「コーノック先生を探すより、確実な方法を思いついたわ。……ねえ、一度アリッサのところに戻りましょう。レイモンド様、お手伝い願えますわね?」

「仕方ない。乗りかかった船だ」

レイモンドは溜息をつき、アイスブルーの髪をかき上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ