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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 4 グランディア怪異譚?
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63 悪役令嬢は手付金を支払う

「こちらです」

無口な兵士に連れられ、エミリーは王宮内の一室に閉じ込められた。

手首には魔導士専用の手錠がかけられている。手錠と言っても両手を一つにして拘束するものではなく、魔法を使わせないようにするバングルのようなものである。発する魔力を蓄え、より一層自分を強化する魔法効果が付与されており、エミリーが魔法を使えば手錠はもっと硬くなるのだ。

「困った……」

倉庫から出されたところで、マシューは自分とは別のどこかへ連れて行かれてしまった。貴族令嬢であるエミリーはこうして客用寝室に通されているが、平民であるマシューはおそらく牢に繋がれていることだろう。自分が言いだして彼を倉庫へ誘ったのに、迷惑をかけてしまったと思う。

――魔法石が発動した時、私を守ろうとして……。

爆発は大きな被害を出さなかった。結界で範囲を狭めていたため、倉庫の一部が破壊しただけに留まったのである。しかし、二人がいた結界の中はすごい衝撃だった。魔力で身体が引きちぎられそうに思えた。マシューの首に回した手が離れそうになったところで、彼の腕がエミリーを抱え込んだから、正気を保つことができたように思う。

「私と離れたら、チクチクして痛いだろうに」

自分もあれだけ強烈な悪臭を感じた。触感で魔力を感じる彼には、どれだけつらい痛みだったのだろう。マシューは痛みに耐えても、エミリーを守りたかったのだろうか。

――悪いことをしたな……。

牢に繋がれ、どんな仕打ちを受けているか分からない。

――助けたい。

でも、魔法がないと部屋から出られない。

生まれてこの方、魔法に頼って生きてきた。こうしたいと思うだけで指先から魔法が放たれる。それが当然で、死ぬまできっと魔法を使って生きていけると思ったのに。

「魔法がないと、私って役立たずね」

人形のように美しいポーカーフェイスを歪めて、エミリーは自嘲した。


   ◆◆◆


「大変だ、マリナ!エミリーが捕まった!」

「エミリーが?コーノック先生はどうしたのよ」

全速力で走ってきた妹を受け止める。衝撃が背中に響き、マリナは顔を顰めた。

「先生は倉庫にいなかったみたいだ。兵士がエミリーと、もう一人黒髪の……多分マシューを連れて行ったんだ」

「マシューって?」

セドリックが二人を見た。

「コーノック先生……宮廷魔導士コーノック氏の弟です」

「誘拐された時、ジュリアンと俺を見つけてくれた人です。命の恩人です」

「そうか。二人の大事な人なのだな。……よし、釈放してもらえるよう、僕から父上に話をしてみるよ」

決意を込めた目をした王太子をマリナは頼もしく思った。……が。

「……殿下、手を放していただけません?」

「お願い……マリナ、僕を助けて」

――ああ、もう!

腕をしっかり握ったセドリックに引かれ、玉座の間へついていく羽目になったのだった。


玉座の間へ急ぐ途中、向こうからオードファン宰相が歩いてくるのが見えた。手には王家の紋章が入った古めかしい青い木箱を抱えている。

「怪しいね」

ジュリアがマリナに耳打ちした。

「いわくありげよね。……殿下」

「うん?」

「公爵様は何をお持ちなのでしょうね。今回の一件に関わるものでしょうか。何かご存知です?」

「ううん。中身は知らないけど……あの青い箱はね、国宝級の宝物を入れるものにしか使わないんだよ。普段は宝物庫に収められていてね……」

と、王太子は一人でスタスタと宰相へ近寄ると、

「それなあに?僕にも見せてよ」

と強引に蓋を開けた。生まれながらに権力を持った子供は怖いものなしである。

「殿下、すげー」

アレックスが呟いた。

「行きましょう」

三人は宰相と話をするセドリックを追った。


   ◆◆◆


オードファン家の馬車は、例によって王宮の門を楽々スルーだった。アリッサはレイモンドと図書館を出た後、すぐに王宮へ向かったのである。

「どうするつもりだ、アリッサ」

馬車の中でレイモンドが問いかける。策はあるのか、と。

「子供の君が来たところで、皆の無事を確認するだけで精一杯だろう?家で待っていた方がいいんじゃないか」

彼の言うとおりだ。私がいても何も役に立てないかもしれない。回復魔法が得意なわけでもないし、事故現場を見たら倒れてしまう気もする。何より方向音痴である。城内で迷ってしまうだろう。

「皆の危機に、私だけ何もしないではいられないんです。マリナちゃんは自分が辛くても他の人を助けようとするんです。ジュリアちゃんは危ないところへも飛び込んでいくし、魔法事故だというならエミリーちゃんは力の及ぶ限りそれを食い止めようとしたはずです。無茶をする三人を止められるのは私だけなんです。……行かせてください、レイ様」

レイモンドは黙ってアリッサの頭を撫でた。

「……着いたようだな。迷わないように君の案内役を務めてやる」

「ありがとうございます」

「……ふっ。何、後で礼はもらうぞ」

そういうとアリッサの顎を上向かせ、小さく音を立ててキスをすると、手付金だと囁いた。


四人に早く作戦会議をさせたいところですが、今回の件がなかなか終わらず……。

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