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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 4 グランディア怪異譚?
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60 悪役令嬢は般若になる

「お前と一緒にいれば、瘴気も痛くないだろうからな」

王宮の倉庫に着くなり、マシューはエミリーを抱き寄せた。

「触らないで」

「お前も、生ごみのにおいを感じるんだろう?」

「そう。強烈な生ごみのにおいね」

「俺は針で刺されている感じはしないが……」

「そう」

冷静を装いそっけなく答える。家を覗かれなくなったと思ったら、スキンシップが激しすぎて心臓がもたない。魔力が気持ちいいって何?

「……気持ちいい……はあ……」

――あれ?

「全身を絹やサテンやビロードが滑るようだ」

魔力だだ漏れなんだけど。

「お役に立ったようで何より」

美形の無口キャラがだらしなく口を開いて、はあはあと肩で息をしている。

鼻血を止める鼻栓でもしていたら、まさにアブない奴にしか見えない。

「はあ、はあ……俺の……はどうだ?気持ちいいか?においを消せるか」

「混ざって変なにおい」

マシューの瞳が曇る。

「……になるかと思ったけど、大丈夫みたい」

「そうか」

ゲームでは渋かっこいい印象の無表情キャラなのに、こんなに嬉しそうな顔をするなんて。

「イメージ詐欺……」

ちらりと横目で見る。根暗で嫉妬深い男だったと思ったが、誰だこの好青年は。

……訂正。好青年じゃなく変態青年だった。

危うく醸し出す雰囲気に騙されるところだったわ。魔王、そうよ、こいつは魔王なんだから。

「向こうか。……強いな」

エミリーの肩に手をかけて離れないようにしながら、マシューは光魔法で辺りを照らす。

「ああ、魔導具に石が当たったらしいな」

ぎくり。蹴って当てたのはエミリーだが。

「何でこんなところに石が……ん?」

手で拾い上げる。途端にマシューの顔色が変わった。

「これは……!」

突き飛ばしてエミリーを遠ざけ、あらん限りの声で叫ぶ。

「エミリー!俺の周りに結界を張れ!!」

即座に強い結界がマシューを取り囲む。衝撃が結界の内を荒れ狂う。髪の毛が舞い上がり赤い瞳が苦しげに歪む。

――一人でカッコつけるんじゃないわよ。

「私がいないとチクチクするんでしょ」

唇を引き結び、エミリーは結界に飛び込んだ。


   ◆◆◆


廊下でマリナのリボンを見つけたジュリアは、すぐ傍の客用寝室の扉が開いているのに気がついた。これまで歩いてきた廊下には開いている部屋はなく、鍵がかかっていたようだったのに。

――怪しい!

ブーツの靴音も高らかに、突進して一気にドアを押す。

真っ暗な空間に白いものが見えた。光魔法が使えず辺りを照らせないが、白い物を目当てにジュリアはそこへたどり着いた。

「マリナ!」

青いドレスのマリナが仰向けに倒れていた。

白いものだと思ったのは、スカートが捲れ上がり露わになったマリナの脚と……。

「起きて、マリナ!起きてよ!パンツ丸見えだってば!!」

首の下に腕を入れて抱きかかえ、ジュリアは姉の名前を呼んだ。

へそまで隠れる手作りの前世風下着、すなわち白いパンツをスカートで隠そうとするが、ドレスが破れて深いスリットになっており、隠しきれない。

「マリナ!パンツ見えてるよおおおおお!!!!」

腹筋に力を入れて絶叫した。

「……るさい……」

「マリナ!気が付い……」

「パンツ丸見えとか言うなぁあああ!」

ジュリアの腕の中には、たった今、目覚めたばかりの般若がいた。

バン!

大きく開いたドアから廊下の光が差し込み、暗い部屋が少し明るくなった。

「ジュリアン!」

「マリナ!」

二人を探していたらしい。

「アレックス……よくここが」

ジュリアが親友に問いかけるよりも早く、セドリックがマリナに駆け寄る。

「マリナ、その……、パンツ丸見えって聞こえたんだけど……」

頬を少し赤らめ、もじもじと、仄かに期待を滲ませた瞳でこちらを見る。マリナは心の中で悪態をつき妹を睨み付けると、ジュリアは空っとぼけて天井を見た。

「いででで」

マリナはジュリアの長い丈の赤い上着を無理やり脱がせ、膝にかけて脚を隠した。

「一体何のことでしょう?空耳ではありませんの、殿下?」

渾身の令嬢スマイルでにっこり笑ったマリナの前に、セドリックは何も言えない。

「う、うん……僕の聞き間違いだよね、きっと」

立ち上がろうとすると、床に叩きつけられた背中が痛む。マリナはジュリアの肩を借りる。

「ありがとう。それから、ごめん」

「マリナ……ううん。私も言いすぎた」

小声で会話し、目を見合わせて笑った時だった。

ズオオオオオオオン!

「何!?」

凄まじい衝撃が響いてくる。

「敵襲か?」

「地震?」

四人は一か所に集まって身体を寄せた。

「怖がらなくていいよ、マリナ。僕がついてる」

――って、どこ触ってんのよ!

マリナはにっこりと礼を言うと、王太子の手をつねる。

「……向こうから聞こえたね」

「さっき俺達がいた倉庫じゃないか?」

「コーノック先生が鎧を片づけているはずよ」

「先生が危ない!助けなきゃ!」

マリナをセドリックに押し付けて、ジュリアは鉄砲玉のように部屋を飛び出していく。後からアレックスが追う。

「背中が痛いんでしょう?二人が戻ってくるまで、僕が撫でてあげるよ。こう見えても回復魔法は得意なんだよ」

肩甲骨を撫でまわす手が、ドレスの襟元から下に入って行こうとする。

――だーかーら!余計なとこ触るなっての!

青筋を立てたマリナがギロリと睨み付けると、セドリックははっとして頬を染めた。


   ◆◆◆


ジュリアとアレックスが倉庫のある辺りへ行くと、人だかりができていた。どこの世界でも野次馬はいるようだ。子供の二人には、何が起きているのかさっぱり見えない。

「ジュリアン」

「見えないなー、どう、そっちは?」

「ジュリアン!」

「何だよ」

「肩車してやっから乗れ」

何言ってるんだ、この年齢になって恥ずかしい。

「いらない。ほら、隙間から見えるよ」

ジュリアが大人の脇の下をくぐった時、兵士が黒いローブの二人を連行していくのが見えた。あれは……。

「エミリー!」

呼びかけに気づいたアメジストの瞳がこちらを見る。

ポーカーフェイスがほんの少し笑った。



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