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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 4 グランディア怪異譚?
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59-2 悪役令嬢と魔性の囁き(裏)

「コーノック先生!大変です、生徒が怪我を」

同僚の魔法科教師が俺の私室のドアを叩く。

「……何があった」

「練習場で魔法の練習をしていたところ、暴走してしまったと……」

魔法科の練習場は、魔力操作が下手な生徒を守るため、威力を六割程度に抑える効果が付与されている。酷い怪我にはならないはずだ。

「怪我の程度は」

「擦り傷は大したことはないのですが、跳ね飛ばされた時に頭を打ったようで」

「そうか」

打ち所が悪ければ、魔法では回復できない可能性もある。

「六属性の魔法が使える先生なら、状態を見て回復させられるのではと」

「……分かった」

俺は頭の中に練習場の風景を浮かべ、転移魔法を発動させた。


練習場の真ん中に人だかりができている。

女子生徒が話す声が聞こえ、倒れた友人を励ましているようだ。

「どけ」

「あ!コーノック先生!」

「先生、助けてください。メイジー、しっかりして、先生がきっと治してくださるわ」

メイジーと呼ばれた生徒が、長い茶色の髪を綺麗に床に流して倒れている。ローブの縁が緑色……魔法科の二年か。凡庸な生徒なのか俺の記憶にはないが。

「私が風魔法を出す方向を間違ってしまって、丁度そこにメイジーが歩いてきたんです」

「事故か」

丁度歩いてきた割には、練習場の真ん中に倒れているが。

「頭を打ったようで、動かすとよくないから寝せておいたんです」

「倒れたままか」

「はい」

倒れたままにしては、髪も服の裾も乱れていない。

――いつもの狂言か。

一通り話を聞いたふりをし、メイジーの頭の傍に膝をつく。顔を覗き込めば、足元からぬるぬると絡みつくような魔力の気配が俺を襲う。何か期待をされているようだが、応えてやる気は毛頭ない。

「気を失っているだけだ。手当ては必要ない」

意識はあるようだ。

「でもぉ、先生、メイジーの頭に当たったんですよ?」

「その割に元気そうだ。……帰る」


転移魔法で職員寮の自室へ戻る。

雨に濡れて身体に貼りつく服のようだ。気持ちが悪い。学院に残っても、学生でいた頃と何ら変わりない。俺の魔力が将来金になると思っている女達が、蠅のように纏わりついてくるのだ。

不快感を少しでも和らげようと、ベッドに寝転がり顔の上に腕を乗せて目を閉じた。


   ◆◆◆


何分も経たない頃だったと思う。

ドサッ。

「……うっ」

何かが俺の隣に突如現れ、小さく叫んだかと思うと荒い息をしている。

「ん……何だ……」

腕を下ろして物音がする方を見る。目が明るさに慣れると、銀色の髪が目に入った。

「……エミリー?」

よく見ようと髪をかき上げて両目で確認するが、顔を逸らされ確信が持てない。夢だろうか。彼女の魔力を浴びたいという俺の願望が、あり得ない白昼夢を見せているのか。身体を寄せる。極上の魔力の感触が俺を満たす。

――ああ、夢じゃない。

喜びに我を忘れてエミリーを抱きしめた。転移魔法を封じ込め、身を捩る彼女の首筋に唇を寄せる。

「放して」

「嫌だ……ん……放したくない」

動揺する度に溢れる彼女の魔力が肌をくすぐる。気持ちよさが全身を駆け抜ける。

「ああ……」

甘い溜息が漏れ、俺はどうにかなってしまいそうだった。


   ◆◆◆


王宮の倉庫に瘴気を放つ何かがあるとエミリーは言う。俺ならばそれをどうにかできると、やれるものならやってみろと。無表情な彼女の瞳に、挑戦的な光が宿る。

――面白い。やってやろうじゃないか。

瘴気、つまり禍々しい魔力は、エミリーには生ごみのにおいに感じられるらしい。俺は魔力を触感で感じ取るが、彼女には匂いになるようだ。俺の魔力はどんな匂いかと訊ねれば、

「あなたの匂いは、シトラスミントの香り」

と答えていた。何だ、それは。とりあえず吐きそうなにおいではないと聞いて安堵する。エミリーに気持ち悪いと言われたら立ち直れない気がする。……何でだ?

「お前と一緒にいれば、瘴気も痛くないだろうからな」

倉庫へ転移すると、警戒しているエミリーを抱き寄せる。こうしていれば彼女は瘴気に負けないだろうし、俺も気持ちがいい。

「触らないで」

無表情で視線を向けられる。アメジストの瞳の奥に不安が見え隠れしている。人並外れた魔力を持っていても、所詮十二歳の子供なのだ。正体不明の魔力に怯えないわけがない。抱きしめる腕に力を入れる。

「……気持ちいい……はあ……全身を絹やサテンやビロードが滑るようだ」

少しだけ冷えた魔力が俺の肌を優しく撫でていき、顔も、首筋も、腕も、脚も、胸も……全身が震え瞳が潤む。どうしてしまったんだ、俺は。エミリーに会うとおかしくなってしまう。


そうだ、瘴気の正体をつきとめるんだった。

「向こうか。……強いな」

光魔法で辺りを確認する。ついでに魔力を発している物が分かるよう、探索の魔法を付加する。隅に置かれた壺が光って見える。

――あれか。

近くに落ちている石が当たり、互いの魔力で何らかの反応を起こし、瘴気が発生したようだ。術者の魔力の相性が良くないのもあるのかもしれない。

「何でこんなところに石が……ん?」

ぞわぞわと全身の毛が逆立つ。石ではなく、魔法石だった。それも、超級の。

「これは……!」

触れた者の魔力に応じて爆発を生じさせる仕掛けだ。戦闘時に魔導士を仕留めるための罠だった。爆発によって魔導士の命を奪うまで、手から離れないのだろう。

俺の魔力が爆発を起こせば、頑丈な造りの王宮でも一溜りもない。危険だ。

「エミリー!俺の周りに結界を張れ!!」

瞬時に張られた結界の中、俺は魔力を抑え込むのに必死だった。

エミリーは無事だろうか。爆風で前が見えない。彼女と離れたせいで、全身を針で刺されるような痛みが襲う。

ドン!

視界に銀の波が広がる。細い腕が俺の首に回される。

「……!」

ベルベッドの肌触りに包まれ、震えた俺の手から魔法石が落ちた。


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