表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 3 攻略対象の不幸フラグを折れ!
64/616

48 悪役令嬢は恐怖に震える

夜が更けても、ジュリア達の行方は掴めなかった。

王立学院へ寄ったコーノック先生は、マシューの不在を告げられ、マリナと共に侯爵邸へ到着した。

「あいつの部屋に、ここまでの転移魔法陣を置いてきたから。用事が済み次第駆けつけてくれると思うよ」

「ありがとうございます、先生」

すぐに家族が待つ居間へ入る。新しい情報は入っていないらしい。

「街道の検問からも手がかりは掴めなかったようだ。こちらが検問をする前に、通り過ぎてしまったのかもしれない。騎士団やヴィルソード家の皆が王都をくまなく探したが、何の収穫もなしだ」

ハーリオン侯爵が悔しそうにテーブルを叩いた。

「ジュリアちゃん……どこへいったのかしら」

アリッサが半べそをかいている。侯爵夫人は娘の背中を撫でて落ち着かせようとしている。

「コーノック先生。お願いできますか」

「はい。それが……私より捜索に長けた者がおります。今夜の内にはこちらに参りますので、その者にやらせてはいただけないでしょうか。私よりも高い魔力を持っております」

長椅子におとなしく腰かけていたエミリーの顔色が変わる。

――先生より、高い魔力……。

三属性持ちのコーノック先生は、エミリーが会ったことがある魔導士のうちで最も高い魔力を持っている。彼より優れた魔導士とは、まさか……。いや、そんなはずはない。ゲームの攻略対象者の一人、魔法科教師のマシュー・コーノックは、普通科に在籍する悪役令嬢とは接点がないはずだ。入学まで出会うことはないのだから。


   ◆◆◆


夜も遅い時間となり、侯爵夫人は娘達に寝室へ行くように促した。

「嫌よお母様、ジュリアの行方が分からないのに、のうのうと寝ているなんてできないわ」

マリナが母のドレスを掴む。

「ジュリアちゃん、きっとご飯も食べてないんだよ?食いしん坊なのに」

「硬い床で寝ていると思う。可哀想だ」

「私達もここで無事の知らせを待ちたいの。お願い、お父様、お母様!」

侯爵は静かに首を横に振った。

「いいから寝なさい。お前達が心労で倒れたら、ジュリアが帰ってきた時に悲しむだろう。笑顔で迎えてやれるように、今日のところは休むんだ。いいね」

侯爵夫人は頷くと、娘達の背中を押して廊下へ向かわせた。


ベッドに入り、しばらく三人で話していたが、次第にアリッサの返答がなくなり、隣のベッドのマリナは寝息を立てていた。

「王宮に行って、疲れたか」

エミリーは姉二人に、安息を得られるように闇魔法をかけた。自分もベッドに横になり、天蓋の中を闇で満たす。大きな窓から部屋を照らしていた満月の明かりも届かない。真の暗闇に身体を包まれ、エミリーは深く息を吸い込んだ。


――結界が、破られた?

身体がビリビリする。

侯爵家を覗く不届き者から皆を守るため、強力な結界を張り巡らしていたのだが。容易く破られた衝撃に、エミリーは冷や汗が止まらない。

「いつもと、違う?」

遠見魔法の気配とは異なる、さらにもっと強い力を感じ、エミリーは恐怖に慄いた。生まれてこの方、あまり外に出たことはないが、自分より強い魔力の気配を感じたことはなかった。魔法の家庭教師であるコーノック先生であっても、絶対的な魔力量はエミリーに敵わない。

自分が作ったテリトリーに何者かが入り込み、いいように蹂躙されている。

――嫌だ、怖い。

エミリーの方が魔力で劣るため、相手の魔力を推し量ることができない。感じたことのない絶望感。

……いや、怖がっていてはダメだ。こちらから打って出て叩きのめしてやる!


エミリーは天蓋の闇魔法を解き、ふんわりした飾り気のないネグリジェ姿のまま、魔法の気配を辿って廊下を進む。

他人が放つ魔法の気配は、エミリーには匂いで感じられる。マリナは石鹸のような清潔な香りがするし、アリッサは蜂蜜を垂らしたホットケーキのような甘ったるい香りがする。どの属性の魔法を使っても、同一人物なら同じ香りがする。

エミリーと毎晩対決している覗き見野郎は、柑橘系とミントが合わさったような清涼感のある香りがする。決して不快な香りではないが、何分覗き見しているような奴だ。碌でもないに決まっている。

廊下の先にある客間から、特に強い気配を感じる。

「ミントの香り……」

むせ返るほど強い香りに、エミリーは甘い痺れを覚え、眩暈がしそうだった。

魔力の主は父が連れてきた客なのだろうか。そう言えば、コーノック先生が魔導士を呼ぶと言っていた。先生の知り合いなら、同僚の宮廷魔導士か。覗き見するなんて、選ばれし者しかなれない宮廷魔導士の風上にも置けない。

――お父様の前でバラして、王宮にいられなくしてやる!

エミリーは力を込めて客間のドアを開けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ