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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 15
613/616

442 悪役令嬢は魔導士に発破をかける

6日ぶりの更新です。

「さぁて、話を聞かせてもらおうか。……何やら事情を知っているようだが」

テーブルに肘をつき、手を組んでゾーイは二人に厳しい視線を向けた。問い詰めたいのはマリナの方なのに、取り調べられているような威圧感だ。

「はい。実は私、『命の時計』の魔法に苦しめられております。こちらの世界に来るまで……セドリック様のお父上、ステファン四世陛下の御世においては、ですが」

「僕が近寄るとマリナは苦しむようになって、部屋の隅と隅くらい離れないと会話もできなかった。こちらの世界に来てから、近くに寄っても『命の時計』の魔法は発動しない。何かわけがあるのだろうか」

頷いて話を聞いていたゾーイは、簡単なことだと言った。

「『命の時計』の魔法が影響を与えるのは未来だからだ。君達二人にしてみれば、ここは過去で、魔法……この場合は呪詛のようなものだが、術式が組まれる以前の時空にいる。魔法の影響は受けない」

「命の残り日数を示す魔法は、普通に数字が出ていましたけれど」

「ああ。ただし、この世界で数日過ごしても、君達の命の残り日数は変わらないだろう。この時代に来たことが間違いなのだから、必ず近いうちに自らの歪みを修正すべく、時が君達を元の時代に戻すはずだ。ここへ飛ばされる瞬間にいた場所へ」

「随分、詳しいんだね」

「……時空を超えようと思ったのは、一度や二度ではないからな」

ゾーイは自嘲して溜息をついた。大きな瞳から涙が溢れている。

「超えられなかったということですね?」

「私は過去にも未来にも行けなかった。過去の世界であの人の考えを変えさせることも、未来で彼を救うことも……いや、君達が未来から来たのなら、もしかしたら……」


   ◆◆◆


「ふぅむ。『命の時計』の魔法がなかったら、と思ったらここに来ていたとな?」

「はい」

「いかにも。『命の時計』の魔法を作り出し、初めて使ったのは私だからな」

「えっ?」

「お弟子さんは、あなたが誰かに魔法をかけられたと言っていましたが……」

ゾーイはふるふると首を振った。柔らかな銀髪がさらさらと揺れる。

「私が自分にかけたのだ。……ウォーレスの傍で死にたいと」

「何故?彼はあなたに生きていてほしいと願っているのに」

バン!

何も言わず、古ぼけた気のテーブルを叩き、ゾーイは突っ伏した。腕で表情は読めないが、くぐもった声が聞こえる。

「……私は、ウォーレスと引き離されたくない。だが、彼は平民で三属性持ちだ。私の父が許すはずがない」

「ゾーイさんは、貴族なのですね?」

「貴族と言っても、魔法で他国の侵攻を防いで爵位をもらっただけの男爵家だ。父は貴族であることに固執していて、エンウィ家の血筋に五属性の私が生まれてからというもの、ありえない夢ばかりを追いかけている」

――エンウィ家?キースの先祖なのかしら?

「夢……とは?」

「宮廷魔導士の中から能力が高い者が選ばれる魔導師団長にエンウィ家の者を就かせるつもりだ」

「……世襲じゃなかったのか」

「昔は選ばれていたのですね」

こそこそと会話をするセドリックとマリナに、ゾーイは不信感を募らせた。


「世襲?」

「私達の世界では、騎士団長も魔導師団長も、能力で選ばれることにはなっていますが、実質世襲制に近いのです。魔導師団長にはここ何代かエンウィ家の当主が就いています」

「では、我が父の目論見は成功したようだな。エンウィ家を繁栄させるという大義名分のもとに、私を五属性以上の男と娶せようとしているのだ」

「五属性以上の方はそうそういらっしゃらないでしょう?」

マリナが知る限り、ステファン四世の時代でも五属性以上の魔導士は、マシューとエミリーとクリスだけだ。クリスに至ってはまだ魔力が安定しない子供である。

「祖父の一番上の姉の孫が五属性持ちだと言われていてな。魔力測定器で薄く光る程度なのだが、父は彼が五属性持ちだと信じている。……私より三十歳以上も年上だ」

「ええと……失礼なことを聞くけど、ゾーイはいくつなの?」

「セドリック様!女性に年齢を聞くものではありませんわよ!」

小声で言ってマリナがセドリックの脇腹を小突いた。

「だって、分からないよね。見た目では十三歳くらいだけど、あのウォーレスより年上なんだよ?」

「私は二十八歳だ。ここに来る前は王立学院魔法科の教師をしていた。ウォーレスは教え子で、今年学院を卒業した。担当している生徒が卒業するまではと、結婚を先延ばしにしていたのだがどうにも逃げられなくなってしまって」


「だから、『命の時計』を?」

「……何者かが私の命を削る魔法をかけた。できるだけ王都から離れて静養した方が良いと言ってウィエスタに来た」

「ウォーレスは知っているの?敬愛する師匠が自分を騙しているなんて、僕だったら傷つくよ」

「知るわけがない。私に残されたわずかな時間を共に過ごしたいとついて来てくれたのだ。例えそれがエンウィ家に睨まれることになっても構わないからと。……ウォーレスは魔導師団長の甥なんだ。父は、魔力が高い優秀な魔導士が多い家柄を敵視していて、特に野心がなく爵位を持たないコーノック家から魔導師団長が出たことが面白くないようだ。ウォーレスは何も悪くないのに、宮廷魔導士になれないように悪い噂を流して……」

「……私、あなたは間違っていると思いますわ」

「マリナ?」

「三十歳以上年上の男に嫁がされる?だから何ですの?ウォーレスが好きなら、きちんと気持ちを伝えて、一緒にいたいと言えばよろしいのですわ」

「言えるわけがない」

「僕は、脈ありだと思うなあ」

「ほら、セドリック様の勘がそう言っておりますわ。お父上を説き伏せて、夫が五属性持ちでなくても、優秀な魔導士をバンバン産んでやると啖呵を切るくらいの気概がなくてどうしますの!」

「マリナ……バンバンって……」

「私はただ死を待っているなんて嫌です。死ぬまで自分の幸せを求めて足掻きたいのです。あなたも足掻いていいのですよ、ゾーイさん」

「もう、魔法は発動している!」

半ば悲鳴のようなゾーイの声が響いた。遠くから駆けてくる足音がして、間もなくドアが開いた。

「只今戻りました!師匠、な、泣いてる!?そいつらにいじめられたんですか?」

「違う」

「じゃあ、何故?」

「……お前と一緒にいられる時間がないからだ。私が、自分で、……馬鹿な真似を」

「師匠?」

ウォーレスは抱えていた紙袋をテーブルに置いた。椅子から立ち上がって本棚に手を伸ばしたゾーイは、一冊の本を取った。

「これは、『命の魔法』の術式が書かれた本だ」

「え……?」

「私の命が尽きるまでに、『命の魔法』と完全に対になる魔法を編み出せ」

「ど、どういうことですか?術式って……」

「師匠から弟子へ、最後の課題だ。対になる魔法を編み出せなかったら、お前は生涯他の魔導士に師事することも弟子を取ることもまかりならん。いいな?」

ゾーイは頬を染めて本をウォーレスの鼻先に突き付けた。


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