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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 15
612/616

441 悪役令嬢は永遠の誓いを立てる

エスティアは小さな町だ。中心部と呼べる一角にだけ建物が並んでいる他は、広大な農地を隔てて民家が点在している。アレックスが探す間もなく、この町の教会が見つかった。

「なーんだ、超近いじゃない?」

手を繋いだままのジュリアが、アメジストの瞳を細めてニッと笑った。

「そうだな……」

自分から誓いを立てようと提案したが、アレックスは緊張を隠せなかった。いつもよりきつく握られた手に気づき、ジュリアがくすくすと笑う。

「……何だよ」

「緊張してる?だーいじょーぶだって。二人とも初めてなんだから、間違ったって分かんないよ」

「間違ったらくすぐりの刑って言ったのは誰だよ」

「さあ?」


他愛もない話をしているうちに、二人は教会の前に着いた。他の町で見た教会や神殿よりもはるかに小さく、木造でかなり古びている。

「雨漏りでもしそうだな」

「後でお父様に言わなきゃ。ハリー兄様のお父様とお母様が管理していた頃は、こんなじゃなかったんだろうなあ」

「知らない間にエスティアが乗っ取られかけてたって聞いたから、そいつが悪いんだろ」

ギイ……。

ジュリアが木製のドアを押すと、蝶番が軋んで音を立てた。

「うわあ……取れそう」

「壊すなよ」

「分かってるって。……すみませーん、誰かいませんかー」

室内にジュリアの声だけが響く。木製の長椅子が並び、奥にある祭壇が天窓から射す光で確認できる。

「暗いねえ」

「教会ってもっと、こう……キラキラしたガラスがあってもよさそうなのにな」

ステンドグラスを知らないアレックスは、必死にジュリアに伝えようとしている。確かに、質素すぎる造りではある。


「誰もいないぜ?」

奥を見てきたアレックスが肩を竦める。

「うーん。折角来たのに残念だなあ。……そうだ。誰もいないけど、二人で誓っちゃう?」

「いいけど、お前、台詞分かってんの?」

「何となく。アレックスは?親戚の結婚式に呼ばれたりしないの?」

「うちは父上も母上も兄弟がいないからな。遠い親戚の結婚式には父上が出れば十分だし」

「だよねー。うちもそう。ほら、私達の誰か一人を連れて行くとなったら不公平だから、行くなら四人とも行かないとダメだってお母様が言うの。エミリーは出不精で嫌がって、結局四人とも行かないことになるんだよ。結婚式に出たこと、ないんだ」

「そっか。じゃあ、適当に合わせろよ?」

ジュリアの手を引き、アレックスは祭壇の前に立った。隣にジュリアが立つ。

「こっちでよかった?」

「いいんじゃないか?……コホン。始めるぞ」

「ん」


「汝、アレックス・ヴィルソードは」

「ちょっと、待って。それ違う、神官さんのセリフじゃない?」

「違うのか?」

「アレックスがアレックスに呼びかけてどうすんの。そこはさ、『私、アレックス・ヴィルソードは』って言うんだと思うよ」

アレックスは一瞬首を傾げ、半分納得したようだった。すぐにまた咳払いをし、

「俺、アレックス・ヴィルソードは」

と言い直した。

「……」

「……コホン」

「……」

「……アレックス、止まってるよ」

「俺は、ジュリア……ジュリア・ハーリオンを妻とし」

頑張れ、とジュリアは心の中で応援した。

「すこや……か?悩む……?あー、もう、分かんねえ!」

逞しい腕がジュリアをきつく抱きしめた。

「アレックス!?」

「すげえいっぱい幸せにする!……って誓う」

顔を上げると金色の瞳が愛しさをこめて見つめている。ジュリアは満面の笑みを返し、

「私、ジュリア・ハーリオンは、アレックス・ヴィルソードを、もっともっと、ずーっと一生笑顔にします!誓います!」

と叫んで彼の首に抱きついた。

「ねえ……誓いのキスは?」

「えっ……」

動揺したアレックスの足元がふらつき、二人分の体重を支えようと半歩後ろに踏み出した時、バランスを崩して背中から祭壇にぶつかった。


ガタ!

「痛っ」

「大丈夫?ごめんね、私がいきなり抱きついたから」

「こんくらい、痛いうちに入らねえよ」

「嘘。今、痛いって言ったよ?」

「地獄耳め」

剣の練習でタコができている手が、そっとジュリアの耳を撫でた。くすぐったさに首を振ると、ふと祭壇に視線が留まった。

「……あ」

「どうした?」

「やば……あそこ、壊しちゃったんじゃない?」

「何だって?」

振り返ったアレックスは、自分がぶつかった場所を見た。木製でできた祭壇は、なぜかそこだけ板が薄くなっていて、凹んで割れていた。

「うわあ。謝って弁償だな。誓いを立てたのに、幸先悪くなっちまって……」

ブツブツ言っているアレックスを置いて、ジュリアは祭壇に近づいて凹んだ箇所を見た。目を眇めて薄い板の割れ目から奥を覗く。何やら赤いものが見える。

「ねえ、アレックス。あれ見える?何か赤いのがあるんだけど」

「祭壇の反対側にあるやつだろ?」

「ううん。裏側を見ても……赤いのはないね。何だろう。この壇の中に入ってるみたい」

「お宝発見か?」

期待感に声が上ずる。『俺、やっぱツイてる!』というアレックスの心の声が聞こえてきそうだ。

「町の人に聞いたら何か分かるかも。宿屋に戻って聞いてみようよ」

アレックスの背中を叩いてすぐに立ち上がり、ジュリアは銀のポニーテールを靡かせて教会を走り出て行った。


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