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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
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432 悪役令嬢と目ヂカラ役者

「提案……だと?」

通商組合の重鎮と思われる、最も年を取った男が渋い顔をした。

「はい。船の運航と積荷の受付を、通商組合で一括管理する方法です」

「何?」

「一括管理とは、どういうことだ?」

「どれだけ運んでも利益は平等に分配されるのか?頑張っただけ損だろう?」

手のひらを上下に動かし、スタンリーはまあまあと皆を宥めた。

「ご説明いたします。決して損はさせません!」

決意に満ちた瞳に、室内の空気が一変した。


マリナが補助をしながら、スタンリーは計画を説明した。

昨晩アリッサが中心となり、マリナと共に考え出した通商組合の改革案である。

それぞれの会社で顧客から注文を受けるのは以前と同じだが、輸送は全ての会社が共同で行う。出航前の検査も同様だ。積荷の内容が類似するものをまとめることで、管理経費を節約できると見込んだのだ。急ぎの依頼があって、その会社の船がアスタシフォンなどの他の港へ行っている時にも、別の会社の船で運ぶことができる利点がある。それぞれの会社は、受注した荷物の量と運んだ荷物の量により、通商組合から利益を得る仕組みになっている。

「そんな甘い話があるか。要は、他の奴の注文を奪って運べば儲かるって寸法だろう?」

「船をたくさん所有しているビルクール海運が有利じゃないか」

「最も効率が良い方法で輸送するのです。依頼される件数が少ない会社でも、定期的に輸送は割り当てられますから、ある程度の収益は確保できます。通商組合全体で輸送を引き受けることで、信用が上がり取扱量が増えると見込んでいます」

スタンリーは落ち着いた声でしっかりと発言した。

――目ヂカラすごいわ。

マリナは隣でひたすら感心していた。脚本家より役者の方が向いていると思う。

「そんなにうまくいくはずねえな」

「いや、うちのような零細企業はぜひお願いしたい。新規顧客の獲得に苦戦しているんだ」

「向こうの港で船が足止めをくらった時に限って、急の依頼があることがある。皆で補い合えるならいいんじゃないか?」

「通商組合が責任を持って積荷を管理するんだろう?船に乗せる積荷の種類を減らせば、王都から来た検査官の手間が減る。出航までの時間が短縮できるな」

「大口の取引ほど早く運べるというわけですかね。取扱量も増えそうだ」

皆口々に意見を述べる。新興の会社ほど改革案に乗り気だ。

ハーリオン家はビルクールの領主ではあるが、港町では通商組合の力が強い。父はあまり彼らの運営に口を出さずに見守り、港湾施設を中心に町のインフラを整備してきた。王都以外ではここだけが舗装道路になっており、タダ同然の金額で診てもらえる病院や無償で通える学校などの施設もある。ビルクールが繁栄しているのは貿易会社だけの力ではなく、侯爵家が下支えをしてきたことに理由がある。街の人々も侯爵家がどれだけ貢献しているか感じていて、滅多なことでは口を出さない侯爵に、通商組合の面々は一定の敬意を表している。……一名を除いては。


「……ふっ。くだらんな」

通商組合の重鎮、先ほどの老紳士が、杖を頼りに椅子から立ち上がった。

「改革案だと?聞いて呆れるな。自分の会社に利益を上げさせたいだけに思える。流石はハーリオン家というところか」

「なっ……!」

目くじらを立てたマリナを、スタンリーが手で制した。

「では、代案をお願いいたします。代案なき反対は、駄々を捏ねる子供と同じでは?」

「……ほう。なかなか言うな、小僧」

老紳士は目を眇めた。喧嘩を売ったスタンリーの隣で、マリナはおろおろして二人を見ていた。

「では、代案を出そう。……港町ビルクールは、領主を置かずに我々通商組合による自治を行う。会社の利益の一部を供出し、港や町の整備に充てる。……これでどうかな?」

「なるほど。……では、それぞれの会社は、利益の額を隠すことなく適正に申告し、町の発展に寄与するというわけですね?」

「何が言いたい?」

「受注と輸送を一括管理できないままでは、実がないと思いますが」

「煩い。わしは隠さずに申告するぞ」

杖を振り上げてスタンリーを威嚇する。

「落ち着いてください、ベイルズさん!」

「彼はあなたを疑っているわけでは……」

激昂する老人を二人の中年紳士が宥めるが、かえって火に油を注いでしまった。

「ふん!お前達、ハーリオンの小僧に騙されているんだ。こいつは、薬と称して毒を売っているような奴なんだぞ!」


室内がシンと静まり返った。

「……失礼ですが、毒、とは?」

言葉を失ったスタンリーの代わりに、マリナが一歩進み出て老人の前に立った。

「わ、わしは知っているんだぞ。ハロルド・ハーリオンの名をつけて、アスタシフォンで売っている薬は、何の効果もないどころか、毒薬だとな!」

「どこにそんな証拠があるのです?」

解毒作用があるユーデピオレと偽って何の効果もないピオリのことを指しているなら、毒を売っているとは言わないはずだ。

「義兄も父も、あなたが仰っている薬について調べました。確かに、解毒作用のあるユーデピオレではないと確認されていますが……毒とは、穏やかではありませんね」

「ユーデピオレに見せかけて毒を売るなど、友好国であるアスタシフォンとの国交に多大な影響があるだろうな。偽薬を売ったのは単なる貿易会社ではない。王太子妃候補の父で、国王の側近の侯爵だ。グランディアはアスタシフォンに危害を加える目的で……」

「ハッ。馬鹿馬鹿しい!」

「……マ、マリナ!?」

ばさりと銀髪が揺れ、マリナは腰に手を当て、顎を上げて老紳士を見据えた。

「誰が考えたシナリオかしら?あまりに陳腐で笑っちゃうわ」

「!」

「ユーデピオレの代わりに売ったのが毒だと言った時に、あなたは自分で落とし穴に嵌っていたのよ。……毒性があることを知っているのは王宮に出入りする貴族の一部だけで、少なくともあなたが自分で知り得た情報ではないわね。誰かに唆されたのかしら?ハーリオン家……ビルクール海運を潰せば、自分の会社が顧客を奪えるとか」

マリナがさらに一歩踏み出すと、老人は杖を滑らせ、よろよろと尻餅をついた。


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