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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
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428 悪役令嬢は弁解をする

ハロルド役のスタンリーを先頭に、マリナとアリッサが通商組合の建物に入ると、中にいた男達が三人を見てざわめいた。

「おい、あれ……!」

「銀髪の……ハーリオン家の令嬢じゃないか?」

「一緒にいるのは?」

受付と思しき場所で、そこにいた職員にスタンリーが話しかける。態度は主役を演じる舞台俳優のように堂々としており、普段の彼からは想像ができない。

「スイッチ入っちゃってるみたい」

アリッサは隣の彼に気後れしているが、マリナは隣に立っても負けていない。流石王太子妃候補は違うと思った。

「お兄様、お話は終わりましたの?」

「ああ。会合はここの二階の広間で行うそうだよ。父上の名代だと伝えたら、君達を伴っての参加も了承してもらえたよ」

「そうですか。では、二階へ……あら?」

階段へ向かう途中で、マリナは廊下の奥に視線を留めた。

「どうしたの?マリナちゃん」

「何でもないわ。見覚えのある方がいたものだから」

「通商組合の皆さんに面識があるのですか?」

「違うわ。……向こうの階段の近くにいた方が、マクシミリアン先輩に似ていたのよ。いいえ、絶対に彼だわ」

マリナが考え考え言うと、アリッサの表情が忽ち強張った。

「嘘……マックス先輩がこんなところに……」

「会いたくないのね、アリッサ」

「うん。……だって怖いもの」

「先輩のご実家はベイルズ商会。うちのビルクール海運と同じく、貿易会社をしているのだもの。先輩のお父様が後継者を会合で紹介することもあるでしょう。ここにいても不思議はないわ」

「そうだけど……会いたくなかったなあ」

暗い表情のアリッサをスタンリーと自分の間に隠すようにして、マリナは二階への階段を上がった。


   ◆◆◆


「ベイルズ君が来ているとなると……少々まずいですね」

ハロルドのふりで丁寧語を使いつつ、スタンリーが小声でマリナに言う。

「ええ。本物のお兄様を知っているから、偽物だと言われれば……」

「彼の注意を引き、会合に参加させないようにできませんか?お二人は生徒会で一緒に活動なさっている仲でしょう?話しかけて、通商組合の建物から離れるか、会合を開く間だけでも一階に引きつけておければいいのです」

スタンリーの提案に、マリナは尤もだと頷いた。しかし、アリッサはマクシミリアンを恐れている。行くとすれば自分だが、二人で会合が乗り切れるものだろうか。

「マリナちゃん……」

「泣かないでアリッサ。ほら、もう涙ぐんでいるじゃない」

「……泣かないわ」

「マックス先輩は私が引きつけるわ。アリッサは……」

「ううん。いいの」

アリッサはぎゅっとマリナの袖を掴んだ。

「先輩が執着しているのは私だもん。マリナちゃんはお兄様と会合に出てくれる?」

「本当に、いいの?」

「……他に方法がないもの。私は二人みたいに堂々とできないし」

「アリッサ……」

「二人で頑張って」

マリナの腕とスタンリーの背中をトンと叩き、アリッサは階段を駆け下りて行った。


   ◆◆◆


「大丈夫っすか?レイモンドさん」

真っ青な顔をしているレイモンドに、アレックスが話しかける。話しかけるなと視線だけで応え、中指で眼鏡を押し上げて顔を背けた。

「酷い道だねえ」

山越えの道は、想像以上に過酷だった。

器用に馬車を操り、エイブラハムはエスティアへ向かっているが、急な上り坂と曲がりくねった道が続き、馬も休憩が必要なほどだ。

ジュリアは全く車酔いしないが、アレックスもマシューもエミリーも多少気持ちが悪くなっている。レナードは横になったままで動かず、レイモンドも倒れる寸前である。

「……休憩、しよう」

「分かりました。あのー、そろそろ休憩しませんかってレイモンドさんが」

御者席に向けてアレックスが呼びかける。短い返事が聞こえ、速度を落として馬車は木陰に停まった。


「失礼しますよ。……おや、坊ちゃん、しんどそうですね」

「こんな道を通るのは初めてだからな。騎乗したほうが楽かもしれない」

「峠は抜けましたし、残りは下りが続きますよ。道中、黒い服の奴らは追って来ませんでしたから、無理をしなくても……」

「解毒剤が必要だ。少し休んだらすぐに出発しよう。先生、無効化の魔法はあとどれくらいもちますか?」

「数時間……解毒薬を作る時間が足りるかどうか」

「先に行って薬を作れないの?」

ジュリアがエミリーを見た。魔法薬の知識があるのは、このメンバーではマシューとエミリーだけだ。エスティアに行ったことがあるのもエミリーだけである。

「エミリーとマシュー……先生で、先にエスティアに転移して、魔法薬を作って待っていたらダメかな?レナードを一緒に連れていければ一番だけど、二人が作業している間に見ている人がいないと危ないし、二人だけでもさ」

「そっか、二人なら魔法で行けるよな?」

アレックスがぽんと手を打つ。彼は魔法で何でもできると思っている節がある。

「エミリー、町の人と知り合いなんでしょ?」

「……一応。前に来た時は、アリッサが頑張ってくれたから……あんまり話さなくてよかったの」

「エミリー。俺を案内してくれないか」

やる気を見せ始めたマシューは、赤い瞳をきらきらさせてエミリーを見ている。熱を含んだ眼差しに、魔法薬作りという大義名分の下、二人きりになりたいのではないかと勘繰ってしまう。

「……うん。分かった。……先に行く」

エミリーが言い終わらないうちに、マシューは彼女の身体を抱き込み、エスティアの町へと転移魔法を発動させた。


   ◆◆◆


目を開けるとそこは、見覚えのある田舎町だった。

セドリックが酔いつぶれた食堂や、馬具職人の工房がそのままある。

「情報を集め……って、マシュー。放して」

「嫌だ」

マシューはエミリーを抱きしめ、腕の力を一層強めた。

「会えなかった時間の分、埋めさせろ」

自分の顎に手をかけて上を向かせ、顔を近づけてくる。

――ちょ、ここじゃ、ダメ!

エミリーは彼の顔面を手のひらでブロックした。

「……どういうつもりだ」

「エスティアではベタベタしないで」

「人目を気にしているのか?旅人が何をしようと気にしないだろう?」

旅の恥はかき捨てだが、エミリーは違う心配をしていた。きょろきょろと辺りを見回し、町の人がいないのを確認し、マシューを道端に座らせた。

「私、前に来た時、既婚者だったの」

「……え?」

マシューの赤い瞳が魔力を帯びて輝いた。魔王化するのではないかと思い、ドキンと心臓が高鳴った。

「私と王太子が新婚夫婦で、アリッサが姉で未亡人の設定だったの。病弱な私に綺麗な空気を吸わせようと旅行に来たことにして、風景のいい場所を求めて……ピオリの群生地を見せてもらおうとしたのよ」

「……王太子、が……」

ゆらりと瞳の奥に何かが燃えた。

「深い意味はないから。……私、金髪碧眼には興味がないの」

「そうか」

唇の端を少し上げて、マシューはふっと笑った。


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