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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
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424 悪役令嬢は大名行列を始める

馬車でハーリオン家を出てすぐ、三姉妹とスタンリーは追われていると気づいた。

「マリナちゃん、後ろから馬でついてきてるよぉ」

「並走するつもりかしら。騎士団の目をこちらに向けるためではあるけれど、こんなについて来られたら大名行列みたいだわ」

「ダイミョウギョーレツ?」

スタンリーが首を傾げた。

「ええと、外国の風習よ」

「身分が高い人がたくさんのお供を連れて歩くの」

「なるほど」

マリナとアリッサの説明に、スタンリーは少し理解できたようだ。彼の隣で黙っていたエミリーが、何かの気配にびくりと身体を震わせた。

「どうしたの?エミリーちゃん」

「……すさまじい魔力……王宮の方向から感じる」

「王宮から?」

「痺れるような……この波動は……」

ぎゅっと自分の身体を抱きしめ、エミリーは顔を伏せた。銀色の睫毛が濡れて震えている。

「また騎士が合流してきたよ。一体何人になるんだ?」

「私達を追うのに、こんなに人数が必要なのかしら?買い物に行かせた侍女達に、行き先はビルクールだと、散々触れ回らせたのよ。先回りすればいいのに」

「魔導士の姿も見えるね。エミリーさんに対抗するためかな」

「……私じゃない。急いで、馬車を郊外まで走らせて。そこで私を置いて、三人でビルクールに行って」

「エミリーちゃん、どうして……」

「いいから、急いで!」


エミリーの真剣な表情にマリナが驚き、最速で王都を出るようにと御者に指示を出した。速度優先のため揺れる車内で、エミリーは真っ青になっている。

「エミリー、一体何が……」

「来る。……王都壊滅だけは避けたいけど……ダメだったらゴメン」

「王都壊滅って、まさか……」

「マリナちゃん!後ろ!王宮の上に紫の雲が」

馬車の後ろの小窓から外を見たアリッサが絶叫する。紫色の雲は次第に広がり、こちらへと押し寄せてきている。

「もうすぐ外門を抜ける。少し走ったら止めて。私は下りるから!」

御者へエミリーが声をかけた。いつもの彼女からは想像できない大きな声だった。

「あなた一人を置いて行けないわ」

妹の手を取ったマリナに、エミリーはふっと笑った。

「いてもらっても足手まといなのよ。……さっさとビルクールに行って」

馬車が停まったのを確認し、エミリーは自分でドアを開けてひらりと馬車から飛び降りた。


   ◆◆◆


三人を乗せた馬車が見えなくなった後、エミリーは空を見上げて紫色の雲が自分の上に到達するのを待った。騎士団は八割方馬車を追って行き、残り数名がエミリーを遠くから見守っている。外門から王都を出てきた人々は、散り散りになって街道を走っていく。得体の知れない恐怖に街を捨てて逃げたのだ。

濃い魔力の気配ではあるが、邪気は感じられない。それどころか、エミリーにとっては心地よい波動だ。

「マシュー……」

彼の名を呟いた瞬間、目の前が白く光った。エミリーは咄嗟に目を瞑った。視界が急に暗くなったかと思うと、温かい何かに包まれた。

「……?」

「……見つけたぞ」

低く艶のある声が頭の上から聞こえた。

この数週間、聞きたくて仕方がなかった声だ。

耳が熱い。頬が赤くなっているのが分かる。抱きしめられて全身が燃えるようだ。

「……っ!」

ローブの中に囚われて腕が自由にならないまま、顔だけ上げると、表情を失ったマシューが赤と黒の瞳を光らせて冷たくエミリーを見下ろしていた。

「マシュー……会いたかった……」

「……言葉だけなら何とでも言える。結婚するのか、エンウィの孫と」

――何だって?

「嘘。ありえない」

「平民の罪人より、前途がある貴族の若者の方がいいのだろう?」

「よくない!」

「正直に言え。言わないなら、王都と運命を共にすることになるぞ」

「王都をどうするつもり?どうしてそんなことをするの?やめて!」

腕の中で身じろぎし、マシューの胸に手を当てた。

「お前は……キースと……」

「聞いて、マシュー。私は……」

「こんな世界など、要らない」

マシューの瞳はエミリーを見つめているのに、言葉が通じていないようだった。虚ろな瞳は魔力を発しながら赤く輝いた。

――心が、死んでしまったの?


「お願いよ、マシュー。世界を消さないで」

「……全て、消えればいい」

「私はあなたとこの世界で生きていきたい」

「……消して……やる……」

服の胸元を掴んで揺すっても、背が高い彼はびくともしない。中空を見つめたままぶつぶつと呟いている。エミリーを抱きしめる腕を緩めたかと思うと、右手に魔法球を発生させた。紫色の球体に炎と雷が纏わりつき、急激に大きくなり始める。

「やめて、魔法を……」

――絶対に、助ける!

マシューに向けて腕を伸ばし、頭一つ分以上大きい彼の首に背伸びをして抱きついた。

「あなたとずっと一緒にいるから。……誓うわ!」

魔法球が弾けるより早く、二人を白い光が包み、騎士達が遠巻きに見ている前から消えた。


   ◆◆◆


「敵は何人くらいいるんだ?」

「俺がざっと見たところ、二十人くらいですかねえ。この中で戦力になりそうなのは……」

エイブラハムは自分を含めて四人を見回し、はあ、と溜息をついた。

「無理ですね、突破できませんよ」

「随分多いな。追って来ていた連中より増えたか。練習用の剣じゃ、一対一が限度だ」

アレックスは鞘から剣を抜き、ジュリアに見せた。ジュリアは首を振っている。

「使い物になりそうにないよ」

「武器は持っていたのか」

「鞭と剣……魔導士が多いと思いますね。神殿に入るのを躊躇っているんでしょう。中で魔法を放つのは、神の罰が下ると信じられていますから」

「そうなのか?」

「神官さんは魔法でレナードを治療するって言ってたよね?」

「他人に害を及ぼす魔法でなければいいってことなんじゃないですか?俺もよく知りませんが」

「神殿内にいる限り、魔法では手出しできない、か」

「手出しもできないけど、うちらも出られないよ?どうする?……って、ええ!?」

「祭壇が、ひ、光ってる!」

立ち話をしている四人の傍で、神像の前にある祭壇が白く光りはじめた。

「何だ?奇跡の前触れか?」

エイブラハムはレイモンドの前に立ち、アレックスはジュリアを抱きしめて光を見つめた。


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