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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
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420 悪役令嬢は強運に感謝する

「うわあ、やっぱ私、運がいいわ」

馬車から下りてきたレイモンドを見るなり、ジュリアはぱあっと喜色満面になった。

「もう少しで轢くところでしたよ」

「うまくよけたな、エイブラハム」

「お褒めに預かり光栄です」

「別に褒めていないぞ。我が家の執事なら当然だろう」

レイモンドは膝を折り、転んだままのレナードとアレックスに手を差し出した。

「立てるか?とにかく中へ」

「レイモンドさん、レナードは怪我をしているんです。布で縛ったけど、薬はつけてないんです。傷薬を持っていませんか?」

エイブラハムが頷く。レイモンドはレナードに肩を貸した。

「馬車の中で手当てしよう。ここにいては目立つ。怪我の理由も聞かせてもらうぞ」

「……はい。ありがとうございます」


   ◆◆◆


幌馬車はゆっくりと動き出した。エイブラハムは馬車が通れる山道へと、巧みな操縦で馬車を走らせた。荷台ではアレックスに背中を支えられたレナードが、肩にかけていた上着を脱ぎ、レイモンドは目を疑った。

「……何だ、この包帯の巻き方は……」

「俺とジュリアでやったんですけど……」

「厚さが均一ではないし、こぶのようになっているな。……解くぞ。薬を塗ったら俺が巻いてやる」

アレックスとジュリアの包帯巻きを酷評しただけのことはある。レイモンドは素早く傷に薬を塗り、魔法球入れから治癒魔法の光魔法球を取り出すと、レナードの肩の辺りで弾けさせた。きちんと固定して包帯を巻き、レナードの腕はかなり動かしやすくなった。

「すげえ……レイモンドさん、何でもできるんですね」

「騎士になるなら、これくらいの応急処置ができないと困るぞ。……さて、レナード。君が怪我をしている理由を聞かせてもらおうか」


「……逃げる時に魔法で撃たれたんです」

「それは直接の原因だな。君がこの街にいて、敵に魔法で撃たれる前に、何かがあったのだろう?」

レナードは視線を逸らした。

「……何から、話せばいいのか……」

「時間はたっぷりある。何せこの山道は蛇行していて長いからな」

「どこへ向かってるんですか?」

「リングウェイだ。アレックス、ジュリア。君達を探しに行くつもりでいたが、こうなると街を出るのが先だからな。追われているんだろう?」

「……俺の、せいです」

俯いたままのレナードが零した。

「俺の家に縁談が来たんです。ある侯爵家の令嬢は、近々婚約者と別れる。できれば騎士を婿に迎えたいと」

「誰からだ?」

「分かりません。最初は父に打診があって。俺も王都で待ち合わせて、そいつの使いみたいな人と話をしたことはありますが……正体は謎です。それなりに高位の貴族で、侯爵家とも繋がりがあると匂わせていました。父はまんまと騙されたんです」

「君のお父上が騎士団を辞められてから結構経つな。顔を知らない貴族も多くなったことだろう」

「はい。脚が動かないことを気にして、邸に引きこもっております。我が家は貴族の中でも下位ですから、剣の腕を見込まれて格上の家に婿入りできると聞いて、願ってもないことだと喜びました。兄達にはそれぞれ相手がいて、俺が……」

「年頃で未婚の令嬢がいる侯爵家は一つだけだ。おかしいと思わなかったのか?」

「それは……」

ぐっと息を呑みこみ、レナードはレイモンドを見つめた。

「アレックスから奪ってやろうと思っていました」

「なっ……」

瞠目したアレックスの口をジュリアが手で塞ぐ。

「んん、ぷはっ。何すんだよ、ジュリア」

「黙って話を聞こう?」

「……分かった」


「二人の間には切っても切れない絆があると知りながら、俺もジュリアの隣に立てるような気になっていたんです。馬鹿ですね。将来は騎士団長になることを約束されたアレックスと、頑張っても小隊長になれるかどうかの俺じゃ、違いは歴然でしょう」

「レナードは強いよ?」

「ありがとう、ジュリアちゃん。気休めはいいから。……レイモンドさん、ご存知でしょう?騎士団は能力主義を謳っておきながら、その実、役職は高位貴族が独占している。……勿論、家柄も実力もある方も多い。でも……」

「だから、ジュリアを横から奪って意趣返しをしようとしたのか?」

レイモンドの声が冷たく響いた。

「身分が足枷だからと端から諦めているようでは、お前は階級を上れまいな」

レナードに対する口調が、丁寧な物から変わった。

「なっ……」

「ジュリアを手に入れたいなら、謎の貴族の策略に乗らず、正々堂々と正面からアレックスを倒せばいい」

「言いたいこと言ってくれちゃって……」

猫目を細めて後頭部を掻いた。

「まあな。……で、ジュリアを捕らえたのは?」

「俺じゃない。俺が呼ばれた時には、ジュリアちゃんは部屋の中で、ベッドに手をくくりつけられていたんだ。アレックスとジュリアちゃんが、王都からいなくなったらしいと、敵は嗅ぎつけたんだな。寮にいた俺に使いを寄越し、市場から魔法陣でここまで来るように言われた。……ジュリアちゃんを褒美にやるから、仕事をしろと」

「仕事?」

「……俺は駒なんだ。国王陛下を暗殺するための」

「何だって!?」

揺れる馬車の中で急に立ち上がり、レイモンドはバランスを崩して尻餅をついた。

「俺の実力じゃ、絶対に暗殺は失敗に終わる。それをあいつは望んでるんです。警備が厳しい王宮に行くこともままならない。怪しい奴が捕らえられて、ハーリオン侯爵との繋がりが明らかになればそれでいいんだと思います」

「お前の口から、ハーリオン侯爵の名が出ればいい?」

「はい。娘を好きにしていいから、国王を殺せと侯爵が命じたと、俺に言わせたいんでしょうね」

隣でジュリアが首を傾げる。そしてけらけらと笑い出した。

「いくらじゃじゃ馬だからって、お父様が私をベッドに縛るかっての」

「ジュリアならなくもないんじゃないか?」

「ちょっと、アレックス。どういう意味よ?」

「喧嘩はよせ。俺達は追われているんだぞ?計画を知って逃げたレナードも、捕らえられて逃げたジュリアも、どちらにしても生かしておかないだろう」

「行き先がリングウェイって、勝算はあるんですか?レイモンドさん」

問いかけたアレックスに、レイモンドはふっと笑った。

「気づいていないのか?先ほどからうちの執事は、崖伝いの細い道を、器用に馬車を操って走らせている。……まるで、次の曲線を知っているかのようだな」



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