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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
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417 王太子と腹黒い大人たち

【セドリック視点】


新年を祝うパーティーの後、僕は父上の私室に呼び出された。そこには,母上とオードファン宰相も待っていた。

「お呼びと伺いましたが」

「畏まらなくていい。お前に尋ねたいことがあってな」

父上は肘掛椅子に座りぐったりしている。社交好きの母上でさえ、今日のパーティーは相当堪えたようだ。国中から集まった貴族の顔と名前を憶えて挨拶をしていたのだから。

「座りなさい」

「はい」

母上とオードファン宰相が座っている長椅子の向かい側に座った。何となく、三人に問い詰められそうな気がして、僕は目を伏せた。

「先ほどの……シェリンズ男爵の娘を妃候補にするという話だ」

「びっくりしたわ。セディはマリナちゃん一筋だとばかり思っていたから」

「私も同感です。彼女と踊る前にレイモンドと何やらお話しされていたようですが、何か理由があって彼女を選んだのでしょう?」

流石、宰相は鋭い。あれだけの貴族と挨拶を交わしながらも、僕や父上の動向に気を配っているとは。

「理由……ですか?」

「あのね、セドリック。私はあなたがあの子と踊るところをずっと見ていたの。あなたの表情は硬いままで、いつ笑顔が見られるのかしらって思っていたけれど……ついに笑わないであの子と離れたわ。将来妻にしてもいいと思える令嬢と踊っているなら、あんな顔はしないでしょう?」

「母上……」

すっかり見抜かれている。父上と母上は、マリナが『命の時計』の魔法にかけられていることを知らない。僕がアイリーンに解呪させようとしていると、どうやって伝えたらいいのだろう。うまい説明が思い浮かばない。


「男爵令嬢の身分では、一度公爵家か侯爵家の養女になってから、お前の妃になるきまりだ。あの娘の振る舞いを見ている限り、王家の一員としては勿論、公爵家の養女としても不適格だと言わざるを得ない」

「そうよ。小さい頃から王妃となるべく育てられたマリナちゃんの足元にも及ばないわ。悪趣味なドレス選びも、品がないもの。……あ、ごめんなさいね、セディ。あなたの想い人にこんなことを言って」

母上は申し訳なさそうに眉を下げた。

「……想い人では、ありません」

隠せない。

僕がアイリーンを嫌っていると、この場にいる全員が気づいている。

「やはりな」

「僕が妃にしたいと思ったのは、後にも先にもマリナ・ハーリオンただ一人です。……マリナを守るために、僕はアイリーンと取引をしました」

正しくは、守るためじゃない。マリナを救うために、だ。

「取引材料が、王太子妃の座か?」

怒られる。絶対怒られる!

父上は目を眇めて顎に手をかけ、うーんと唸った。

「……申し訳、ありません」

「謝るな。お前が手に入れるものは、王太子妃の座と天秤にかけるほどのものなのだろうな」

「はい。……マリナの幸福です。彼女が幸せな一生を送ることができるように。それと引き換えに王太子妃候補にアイリーンを指名したのです」

僕の話に頷き、父上は宰相を見た。

「……フレディ。シェリンズを調べているか?」

「はい。調査は済んでおります。農村一つを領地に持つ、比較的新しい男爵家です。アイリーン・シェリンズの父・マーティンは、これといった才能のない平凡な男です。領地経営に精を出すでもなく、多くも少なくもない量の作物が生産されております。王都に邸は持たず、娘が王立学院へ入学するにあたり、男爵家の出費はかなりのものでしたでしょう」

「田舎貴族か」

「はい。全く、野心の欠片も見えない男でした」

「そのシェリンズ男爵が、娘をけしかけてセドリックの妃候補にしたのではないのか?」

「そのような兆候はありませんでした。特に怪しい者との付き合いもなく、年中領地に籠っているようです」

「アイリーン・シェリンズに指示を出し、操っている者がいるのではないかしら。田舎貴族の男爵令嬢が、自分から王太子妃に立とうなどと考えるかしら?私は王都で育ったけれど、素晴らしい令嬢でなければ王太子妃になんてなれないと思っていたわよ」

「貴族の一般常識に欠けているからこそ、セドリック殿下の妃に立とうなどと考えたのでは?現実が見えていないのです」

「セディは小さい頃から可愛かったし、この頃かっこよくなったものね。あの子があなたに好意を寄せるのも分かる気がするわ」

母上はアイリーンが僕を好きだと誤解している。多分、アイリーンは僕なんてどうでもいいのだ。欲しいのは権力だろう。


「……現実を、見せてやるべきでは?」

オードファン宰相の眼鏡の奥の瞳が光った。狡猾な蛇のような視線に、僕はビクンと背筋を伸ばす。

「そうだな。いいだろう……」

いいって、何がいいんですか、父上?

「私が選んでいいのね?」

「勿論だ。王妃に相応しい教養を身に付けさせてやってくれ」

「きょ、教養ですか?」

「そうよ、セディ。あの子には王太子妃として特訓を受けてもらうわ。マリナちゃんが何年もかかって……十年くらいかしら?あそこまで身に付けた技を、あの子はどこまでできるかしらね、ふふっ」

これは……。

母上は特訓の名の下にアイリーンをどうにかするつもりだ。

「しばらく王宮に留め、一室で妃教育を施す。お前を困らせ、マリナを何らかの方法で脅かしているような令嬢だ。自由に部屋から出すのは危険が大きい」

「有体に言えば、監禁……ですね」

宰相がにっこりと笑った。彼の後ろに黒い闇のようなものが見えた気がした。こういう時の宰相は、怒ったレイモンドとそっくりだと思った。


仕事が多忙につき、執筆時間が取れずこんな時間になってしまいました。

明日以降は書けるかどうかも怪しいです。

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