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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
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415 悪役令嬢の作戦会議 18

スタンリーを客用寝室に案内させ、マリナ達は自室に引き上げた。寝る準備をして各々ベッドに入る。横になったアリッサがマリナの方を向いて話しかけた。

「ねえ、マリナちゃん」

「なあに?」

「ノアの言ってたこと、本当かな」

「アスタシフォンの?」

「うん。リオネル様も私達を疑っていたんでしょう?」

「そうらしいわね」

「……王位継承権争いに、こっちを巻き込むなっての」

エミリーがクッションに風魔法を当てる。ぼふんと音がしてクッションは部屋の隅に飛んだ。

「こう言っては何だけれど、アスタシフォンは王妃の他に、通称第二王妃、第三王妃と呼ばれる妾がいて、王子王女がたくさんいるから、代々王位争いが熾烈なのよ」

「グランディアはセドリック様しかいないものね」

「そうね。国王陛下の妃は王妃様お一人しかいらっしゃらないし」

「……王太子が王に相応しくないポンコツでも王になれる、か」

「エミリーちゃん、言いすぎ」

「セドリック様はポンコツじゃありません。……ちょっと、頼りないだけよ」

「十分ポンコツよ。……隣にマリナがいないと心配」

キッとエミリーを睨みかけたマリナの顔が赤く染まる。にたりとエミリーの口元が歪んだ。

「アスタシフォンの第二王子一派と、グランディアの悪い人達が繋がっていると、リオネル様達は思っているみたいだったね」

「王家や有力貴族と関係の深いハーリオン侯爵が、赤ピオリの毒を輸出することで王太子暗殺に関与したとなれば、長い間平和が保たれていたアスタシフォンとグランディアの関係にひびが入る。ハーリオン侯爵はグランディア国王の親友、娘は王太子妃候補で、アスタシフォンの後継者の暗殺の密命を受けていても不思議はない、とね」

「……密命か。それにしては、ピオリの瓶に義兄の名を書いて……馬鹿じゃないの?」

「私もそう思うわ。あからさますぎて笑いそうになったくらいよ。尤も、そのピオリの種を輸出しているのはグランディア側の誰かだから、その人物が浅はかだってことなのね。とにかく、その瓶のうちで赤ピオリを含むものを輸出した時点で、グランディア側が責められるの。毒入りの品を売ったわけだし……」

「偶然……それがアスタシフォン王太子の薬箱に紛れ込む?」

「そうね。偶然ではなくて故意でも、薬箱に入れた者は『偶然』だと言い張るでしょうね。悪いのは毒を見抜けなかった自分ではなく、薬と称して毒を売ったグランディア……ハーリオン侯爵が悪いのだと」


三人の間に沈黙が流れた。

「お父様は、毒が見つかったから王宮に留められているって、ノアは言っていたわね」

「うん。王宮を出たらかえって危ない、もしかしたら殺されちゃうかもって」

ノアの話では、ハーリオン侯爵と彼を追ってアスタシフォンに入った侯爵夫人は、リオネルの祖父で王太子の伯父にあたる侯爵により、リオネルの部屋近くの王宮内の一室に匿われているらしい。表向きは身柄を拘束していることになっているが、実際は保護下にあると言っていい。

「王宮には第二王子一派もいるのに、危ないと思う」

「リオネル様の警護に当たる兵士が守ってくださっているのだもの、きっと大丈夫よ」

「……何その根拠のない自信。王太子でさえ毒を盛られかけたのに、よそ者なんて守ってもらえるわけないわよ」

「エミリーちゃんはリオネル様を信頼していないの?」

「リオネルがどうとかじゃない。私はお父様とお母様がグランディアに戻らない限り、安全だって言いきれないだけ」

エミリーはぎり、と歯を噛みしめた。お手玉にしていた火の魔法球を握り潰して消滅させる。

「……取り返す」

「え?」

ベッドから下りたエミリーが、机の引き出しを漁り始めた。

「二人を取り返す。ビルクールでピオリの輸出に関わった船を洗い出して、船員を魔法で脅してでも吐かせる。証拠をアスタシフォン国王と摂政の王太子に見せて納得してもらって、お父様の無実を認めさせる」

「何を探しているの?」

「ジュリアが見つけたメモ。……船の運航表」

「そっか……アスタシフォンにいつ、ピオリの種が陸揚げされたか、ビルクール海運と向こうの記録とを合わせて見ればいいのね。うちの船以外で持ち込まれたことが確認できれば……」

「そうね。いい考えだわ。あとは、ピオリの種がエスティアからビルクールまで、どこで加工されてどうやって運ばれたか……フロードリンとコレルダードの事件と、うまく繋がりが解明できればいいわね」

「エスティアやコレルダードから、働く人が強制的に連れて行かれていたから、フロードリンと黒幕は同じだと思うの。でも、ピオリの種をエスティアで生産していたからと言っても、輸出の件と直接関係しているのかなあ?」

「少なくとも売買はしているでしょう?ピオリの種なんて、意図して増やさなければ流通しない品物だし、種を輸出しようと考えた者が、エスティアのニセ領地管理人に持ちかけて生産させたとも考えられるわ。両者の利害関係は一致しているもの。……ハーリオン侯爵を潰したい、ビルクール海運を蹴落としたいって」

「……明日、調べられるかなあ?騎士団が見張っているのに」

熊のぬいぐるみの後頭部に顔を押し当ててくぐもった声を出した。自信がない時の癖だ。

「あら、だからいいのよ。敵の手の者がいても、騎士の皆様が私達を守ってくださるわ」

マリナの弾んだ声にアリッサがくすくすと笑った。

「堂々と出発しましょう。ハーリオン侯爵令嬢が、お父様の領地を調査しに行くのに、何の遠慮がいるものですか。……スタンリー先輩はおまけよ」

「マリナちゃんって、注目されると本領を発揮するタイプだったね……」

「こうなったらきっちり調べて、調査結果を騎士団に突き付けてやるわ。アリッサはビルクールの領地報告書のまとめノートを忘れないでね。エミリーは……」

マリナはアリッサと反対側のエミリーを振り返った。天蓋の中が闇に包まれ、安らかな寝息が聞こえる。

「……おやすみなさい」

「おやすみ、マリナちゃん」

手元の光魔法球に蓋を被せ、アリッサは布団へ潜りこんだ。


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