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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
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414 悪役令嬢との思いがけぬ再会

夜中の市場は殆ど人通りがなく、市場の外れの食堂だけがかろうじて灯りが点いている。光魔法球がなければ真っ暗な道を、緊張した面持ちのレイモンドときょろきょろあたりを見回しながら口笛を吹いているエイブラハムが歩いていた。

「おい、それをやめろ」

「何です?」

「口笛を吹くな。目立ってどうする」

レイモンドに睨まれ、エイブラハムはおやおやと肩を竦める。

「いいじゃないですか。こうでもしないと怖くてやってらんないんですよ」

「怖いなら邸に帰ればいいだろう。俺は一人でも行く」

はあ、と執事見習いは大袈裟に溜息をつく。

「あのですね、坊ちゃん。オードファン公爵家の一人息子のあなたを、俺が放って帰れるわけがないじゃないですか。それこそ、旦那様に殺されます」

「職務怠慢のツケだろう」

「普段の仕事も真面目にやってますよ、俺は。……で、坊ちゃんのご用事は、この市場で何を?」

「お前は市場の転移魔法陣を使ったことはあるか?」

「まあ、それなりに?」

無精ひげが伸びた頬を指先で掻き、エイブラハムは魔法陣のある建物を見た。

「王都と国内各地を結ぶ便利なものだ。俺に着いてくる以上は、オードファン家のためではなく俺のために働いてもらう。それができないのなら、今すぐ邸に帰ってもらう」

「えーっ、俺、ここまで着いてきたのに追い返されるんですか?」

「オードファン家のために働く、というのだな?」

「いやいやいや、こうなったら俺は坊ちゃんの味方ですよ。いざという時は盾になってお守りしますんで」

「当然だな。用心棒なんだろう?」

ふっと口元を緩め、レイモンドは一人すたすたと建物に入っていく。エイブラハムは頭を掻いて、荷物を背負い後を追った。


   ◆◆◆


ハーリオン侯爵家の裏口から、フードを被った老いた侍女が中に入る。執事の手招きでドアから滑りこむと、

「はあぁ、緊張したぁ」

と一言呟く。

フードを取るとすぐに背筋を伸ばし、侍女は大股で歩き出した。

「レネンデフォール様ですね……女性の服装ですが」

「服装は変装ですよ。夜中なのに申し訳ありません」

「お手紙をいただいて、お嬢様方は客間でお待ちです」

「うわ、なんか、その……待っててもらってすみません」

スタンリーはスカートの裾を持ち上げてジョンに続いた。


「お待ちしておりましたわ」

「寝ないで待っていてくれたのかな。美脚の君」

「……待ってないし、眠いし、……やっぱ部屋に戻」

ぎゅっとエミリーのローブが引かれる。アリッサが首を振っている。ローブの合わせ目からミニスカートとエミリーの脚が見え、スタンリーは目を輝かせた。

「エミリーちゃん、ミニスカートだったんだ……」

「マリナが穿けって言ったの。変態脚本家のスタンリー先輩が来るから」

「僕のために?嬉しいな」

「お手紙では、見当違いの方向を探すようにとありましたけれど、どういうことですの?」

スタンリーに座るよう促し、マリナは話を切り出した。

「レイモンドが魔法陣で探しに行くって言っていたよ。流石に一人では行かないだろうから、誰か協力者を得て。どうやら行き先はあまり安全ではないようだね。剣の腕が立つ二人でも音信不通になる場所なんだから。オードファン家やハーリオン家が動いていると、下手に騎士団に嗅ぎつけられたら、捕まっているかもしれない二人の身の安全が保障できない。僕達は騎士団の捜査を攪乱させるんだ」

「レイ様大丈夫かしら」

「では、明日の朝になったら、動き出しましょう」

「マリナちゃん、い、いいの?」

「手紙にあったように、派手に動くならビルクールが一番いいわ。ついでに、何か新しい情報が手に入ったら一石二鳥よ」

「……私、家に残りたい」

「美脚の君が行かないなら、僕も残るよ」

「帰ってください」

「スタンリー先輩には、再び義兄のふりをしていただきます。義兄を罠にはめた者が噂を聞けば、きっと焦って尻尾を出すでしょう」

マリナが不敵な笑みを浮かべ、エミリーはスタンリーと行動を共にすると思うとうんざりした。

「レイ様大丈夫かしら……」

アリッサは真っ暗な窓の外を見た。


   ◆◆◆


アレックスが邸に侵入して庭を歩いていくと、二階のバルコニーから近くの木へ飛び移ろうとしている人影が見えた。よく目を凝らすと、微かな月光に銀髪のポニーテールが煌めいた。

――ええっ?

「やっぱ、ジュリアはジュリアだな」

アレックスは呟かずにはいられなかった。

続いて、もう一人が木に飛び移る。先ほどの人影よりも幾分大きい。

――あれって、もしかして?

ジュリアが追われていると思ったアレックスは、人影が飛び移った木の下へ走り、するすると下りてくるジュリアを抱きしめた。

「ひっ」

「シッ、俺だよ、ジュリア」

「アレックス!」

上から下りてくる人物に剣を突き付けようと腰に手をかけ、アレックスははたと止まった。

「二人とも、そんなところでイチャついてないで」

一言文句を言って、レナードが鮮やかに着地した。

「なんでお前がここにいるんだ?」

「話せば長い、後でね。とにかくここから逃げよう」

釈然としない表情でアレックスは頷き、自分が入って来た道を教えた。


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