表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
583/616

412 悪役令嬢はヒーロー気取りを許さない

レナードの顔が近づいた。ジュリアが思わず顔を横に向けると、耳に唇が触れた。

「……ジュリアちゃん」

囁きがくすぐったい。ジュリアはレナードの声がいつもの彼のようだと思った。

「この部屋は見張られている。アレックスは無事だ。敵から逃げたよ」

「……レナード?」

「ちょっと大声出し続けてくれる?」

レイピアに炎を纏わせ、レナードは軽くウインクした。

――あ!魔法剣!

「うわああああああ!やめてえええええ!」

「……いいね、その調子」

ガン!

レナードは鎖を掴み、炎の魔法剣を当てた。

「ぎゃあああああ!」

鎖が切れる音はジュリアの絶叫でかき消された。両手は一緒になったままだが、ベッドからは自由になった。腹筋を使って起き上がり、ジュリアは彼に囁いた。

「どうするの……レナード」

「ここの主は、ジュリアちゃんとアレックスが家出したって知って、すぐに俺に連絡してきたんだ。多分、ヴィルソード家かハーリオン家に内通者がいる。二人がリングウェイに逃げ込む前に、俺との取引材料としてジュリアちゃんを捕まえたんだ」

「私が、取引材料に……」

ジュリアの手首にそっと触れ、レナードは悲しげに笑った。

「ああ……赤くなっちゃったね。ごめんね」

「レナードがやったんじゃないよ」

「でも、俺のせいだから。……あと少し、だね」

手首についている枷同士を繋ぐ輪にレイピアを当てる。鎖を切った時に刃こぼれしているからか、魔法剣の炎は揺らいでいる。

「叫んで」

「うおおおおおお!」

悲鳴らしくない声に、レナードは苦笑いした。

キン。

「よし。そこに窓がある。鉄格子はないから、ジュリアちゃんなら逃げられると思う。ここは二階だから余裕だよね」

「待って、レナードは?どうするの?」

「俺までいなくなったら、偽装工作できないでしょ。俺はここの主の期待通りに、明日までジュリアちゃんを好きにしてると思わせる。」

「明日になったら、レナードは……やりたくない仕事をさせられるんでしょ?ダメだよ、そんなのっ!」

腕を掴んで猫目を見つめる。レナードは目を伏せた。

「逃げてどうなる?俺はハーリオン侯爵の駒として、国王陛下を狙えと言われている。この話を知っている以上、逃げたら追われて殺される」

「お父様の駒?」

「ハーリオン侯爵は娘の婿にしてやると約束し、身分の低い騎士に国王暗殺を遂げさせる……俺は騎士じゃないけど、剣を使えるから」

「レナードは剣士でもないのに」

「ハーリオン家をはめようとしている連中は、それだけ追い詰められているってことだと思う。成否はどうあれ、ハーリオン侯爵を黒幕に仕立てて事件を起こそうと躍起になってるんだ」


「俺はジュリアちゃんが手に入るならそれでもいいと思ってた。でも、違う。……ジュリアちゃんが悲しむ結末は、俺の趣味じゃない。女の子には優しくが俺のモットーだから」

「レナード……」

「だから、ジュリアちゃんは逃げてく……ぐぅふ」

ジュリアの鉄拳がレナードの右頬に入った。

「分かんないの?レナードが一人で背負いこんだら、私が悲しむって。……行こう。安全な場所なんかないけど、皆でいれば方法は見つかるよ」

広げた掌に、レナードの目から雫が落ちた。


   ◆◆◆


「……さっきの黒い奴らは、ジュリアをどこに連れて行ったんだ?転移魔法を使われたんじゃ、探しようがないじゃないか……」

アレックスは頭を抱えていた。魔法が使えないことがこんなに不便だとは。

侯爵邸に乗り込む方法しかないのかもしれない。敵か味方か、多分敵だ。

「戦闘になったら、俺一人だもんな。剣も壊れてるし」

黒ずくめ集団との戦いで、アレックスの剣はボロボロになっていた。見かけ倒しの模造品だから仕方がない。所持金も殆どなく、新しい剣を買うには足りない。

「行くしかないか。突撃して、出てきた警備兵の剣を奪って……やれるのか?俺」

ぐっと拳を握る。やるしかない。

「よぉし、当たって砕けろだ」


アレックスは町の人に聞きながら、その町にある領主の館、つまり短期滞在場所として使う邸の前に着いた。転移魔法で遠くまで飛ぶのは、魔法が得意なエミリーでも厳しいと聞いた。ジュリアを手っ取り早く運ぶならここだろう。門扉には閂がかかっており、周りには石積みの壁が回してある。凹凸があるから足をかけて飛び越えられなくはない。少し下がって助走をつけ、アレックスは壁を数歩駆け上がり、最上部に手をかけた。

「うぅぐわあああ」

叫んで力を籠め、壁の上に上半身を出し、向こう側を覗いた。人気はない。見張りの人間もいないようだ。これなら、敷地内に立ち並ぶ木々に上って二階を覗けそうだ。木登りはやりたくないが、ジュリアを助けるためなら何でもできる気がした。

「待ってろ、ジュリア。俺が必ず、助けてやる!」

足をかけて壁の下に飛び降り、アレックスは足音を立てずに庭を走り出した。


本日体調不良でめまいがし、かなり時間がかかってしまいました。

明日の更新は未定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ