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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
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405 王太子と魔法のドレスの乙女

【セドリック視点】


「緊張することはないのよ?セディ。マリナちゃんがいないから他の女の子と踊るでしょうけれど、誰かを『特別』にする必要はないの。あなたの『特別』はずっと前からマリナちゃんですものね」

煌びやかなドレスを身に纏った母上は、僕の背中を軽く押してパーティー会場へと入った。父上にエスコートされているから、三人同時に入った格好になり、司会を務めていたオードファン宰相がぎょっとして僕を見る。

ほら、やっぱり。

僕が入る番ではなかったんだ。慌てて僕の名前を呼んでいる。

「一人で入るより、注目されなくてよかったでしょ?」

母上はいたずらっ子のような表情でウインクする。パートナーなしで公式の場に出る僕を緊張させまいとしているのだ。


――視線が、痛い。

王宮の大広間には、国内全ての貴族の当主が、同伴者を連れて集まっていた。晩餐会などには出席できない男爵家も王宮に来ており、場慣れしていない者が右往左往している。会場内至る所から僕に視線が注がれている。特に、年頃の令嬢を持つ貴族は必死だ。侯爵家以上の家柄ではハーリオン侯爵家以外に年頃の令嬢はいない。僕に注目しているのは伯爵家以下の貴族達だ。伯爵家から王子の妃になった例はないわけではないし、子爵家以下でも公爵家の養子になれば妃にはなれる。要は娘が僕に気に入られればいいのだ。


年頃の令嬢を連れた貴族には、僕から声をかけることは絶対にしない。少しでも危険を回避したい。

人好きのする笑顔で僕を見ているあの伯爵は、確か以前、王立学院に視察へ来た時、僕と馬車の構造の話で盛り上がった男だ。今日は十二、三歳の娘を連れている。目が合っても話しかけないことにしよう。向こうからこちらを鋭く見つめている男は、視察に行った先の領主で男爵だったはずだ。隣の娘は二十代半ばを超えているようだが、まさか僕の妃にするつもりなのか?髪の色を変えたらヴィルソード騎士団長とそっくりじゃないか。僕を上目づかいで見て盛んと瞬きをしている。勘弁してくれ。

令嬢達がどんなに媚態を作っても気に入るわけがない。マリナ以外は皆同じに見えるんだから。


父上が皆の前で新年の誓いを述べ、グランディア王国の発展のために乾杯した。ワインを飲むことが許される年齢の者は皆、軽くグラスに口をつけ、後は知り合いと新年の挨拶をして回る。毎年同じことの繰り返しだ。僕が壇上に用意された椅子に座っていると、レイモンドが遠慮せずに上がってきた。

「暇そうだな、セドリック」

「退屈で仕方がないよ。下手に話しかければ、娘や姪や孫娘を紹介されるから」

「ハーリオン侯爵家が没落すると思っている奴らが、勝手な噂をバラ撒いているんだろう。婚約者……王太子妃候補の座に、自分の縁故者を据えたい者は、今日が最良の機会だとふんでいる。見てみろ。皆いいドレスだ。他より目立とうとしているのが見え見えだ」

「……帰りたいよ」

「いいのか?例の約束を果たせば、魔法を解く方法が見つかるんだろう?」

会場に入ってから、アイリーンの姿を見ていない。

彼女の父は男爵だから、全貴族が集まる機会がなければ王都に来ない。何か不測の事態があって男爵が出席できなければ、娘だけでこの場に来ることはない。何かあったのかもしれない。

「来ていないようだな」

「うん。いないなら好都合だよ。他の方法で魔法を解かせる。僕達の力で、方法が見つかるかもしれないし」

「あの女の要求は呑みたくない、か」

レイモンドはふっと口元を弛めた。

「当たり前だよ。マリナ以外を妃候補にするなんて、考えたこともない」


ザワッ……。

僕達が小声で話していると、会場が一気に沸いた。

「何だ?」

レイモンドが眼鏡を上げて、貴族達の視線の先を追う。

「二曲目が始まったのか。それにしても……」

踊る人々の群れの中で、人目を引くドレス。光沢があるピンク色のドレスは、光の加減によって赤にも金色にも見える。

――アイリーンだ!

魔法をかけたドレスの裾がふわりと広がる。人々はアイリーンに魅了されていく。

「……魔法か?」

「かもしれない。こんな大勢の前で魔法を使うなんて」

「宮廷魔導士はどうした?あいつを止めないのか?」

会場内にフードを着た魔導士を探すが、白も黒も、ローブを着た者はいないようだ。

「半数はフロードリンの復旧作業に出ているし、ドラゴン討伐に加わっている者も多い。残りは交代で休んで、王宮の魔法結界を張っているから……」

「使えないな。エンウィ伯爵も来ているのだろう?」

「キースの両親が出席していたよ。エンウィ家は主属性が光魔法だから、闇属性を持つコーノック先生のように敏感にはなれない。気づいていても無効化できないよ」

「魅了してどうするつもりだ?知らない貴族から好感を持たれても、何の得にもならないぞ」


何人かと踊り終えたアイリーンは、驚いている貴族の間を抜けて、僕のいる壇上へと歩いてきた。

「王太子殿下」

「控えろ。お前が軽々しく呼びかけていいお方ではない」

ぴしゃりとレイモンドが撥ね付けた。アイリーンは淑女の礼をして、ぞっとする微笑で僕を見つめた。

「私とダンスのお時間ですわよ?うふふ」

ギラギラした目を大きく開け瞬き一つせずに、彼女は軽やかな笑い声を上げた。


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