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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
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403 悪役令嬢への弁解の手紙

レイモンドがクリスを連れて戻り、短い時間ではあったがアリッサは彼との逢瀬を楽しんだ。彼を見送り、うふうふふと笑いながら居間に戻って来た。

「……ちっ」

「エミリー、舌打ちはやめなさい」

「アリッサはいいよ。簡単に会えて。マリナもそう思うでしょ?」

「ジュリアだって、会おうとすればアレックスに会えるわよ。ヴィルソード侯爵様は、交際を禁止なさらなかったのでしょう?」

「どうかなー。レイモンドの隠れ家で会ったのが最後だよね。ハーリオン家に行くなって言われてるっぽい。毎日会ってたのにずっと会ってないって変な感じ」

「寂しいの?ジュリアちゃん」

「当たり前のことが当たり前じゃなくて、ガボッと抜けちゃった感じかな。抜けたところを埋めるってできないよね」

四姉妹は黙り込んだ。胸の中に空白感を感じているのは、マリナもエミリーも同じだった。


「レイモンドはどうしてクリスを連れていったの?」

「うん……私にもあまり話してくださらなかったの。王太子様にクリスを会わせたかったみたいなの。クリスはお行儀よくできたって言っていたわ」

家族以外に褒められて、クリスは鼻高々だった。レイモンドにもアリッサにも褒められ、乳母に連れられて上機嫌で寝室へ向かった。

「よかったじゃん。殿下の前で失敗しなくて」

「……クリスはできる奴だから」

「失敗しても、セドリック様は怒ったりなさらないわよ。ブリジット王女と同じ年頃ですもの。小さい子のすることには目を瞑るわ」

「ふーん。分かったようなこと言っちゃって」

「そうそう。王太子様のことなら何でも、マリナちゃんが知ってるみたいね」

「……ふっ」

にやりと笑ったエミリーの横を通り、アリッサはマリナの手に封筒を手渡した。

「お手紙よ。レイ様がお預かりしたの」

「レイモンドを伝書鳩にする人なんて数えるくらいしかいないよね」


   ◆◆◆


親愛なるマリナへ


しばらく会えていないけれど、元気にしているかな?

王宮に戻ってから、僕は毎日君のことを考えているよ。

ブリジットが君の弟のクリスを気に入っていて、僕は昔の自分を見ているようだった。

あの頃は何も心配することなどなくて、純粋に君を好きでいられたなって。


新年のパーティーには、ハーリオン侯爵家は招かれないと聞いたよ。

侯爵夫妻がアスタシフォンにいる以上、仕方がないことだとレイは言っていたけど、僕はパートナーは君しかいないと思っている。

他の令嬢と踊ることになっても、それは僕の意思ではないからね。


お願いだよ。僕を信じて。


愛をこめて

セドリック


   ◆◆◆


「……どういうことかしら」

「なになに?見せて」

「ダメよ。ジュリアは茶化すから。新年のパーティーに出られない私の代わりに、他の方をパートナーにするようね」

そっと便箋をたたんで封筒に入れる。宛名の文字に触れ、マリナは目を伏せた。

「……出られても『命の時計』がかかってるから無理」

「そうだねえ。王太子様も苦渋の選択ってところね」

「言っておくけど、出られないのは皆も同じなのよ?レイモンドもアレックスも、他の誰かをパートナーにするのよ」

「そっか!」

ジュリアはぽんと手を打った。アリッサが無言で泣きそうな顔になっている。

「だからアレックスはうちに来なかったんだね。気まずいじゃん?」

「アレックスに合う相手なんて、ジュリアの他に誰かいるのかしら……?」


   ◆◆◆


夜遅く。

寝る支度を整えて、四姉妹はマリナのベッドに集まった。

「明日はどこに行くの?エスティアとも魔法陣で繋いだから、状況を見に行きやすくなったよね」

「……変態スタンリーがいなくても、私達だけで十分」

「スタンリー先輩もお兄様役が板について来たよね。そろそろ終わりにしてもいいかなって思うの」

「そうね。とてもお世話になったから、後でしっかりお礼しなくちゃね」

と、三人はエミリーを見た。

「……私?」

「エミリーちゃんがお礼をしたほうが、先輩は喜ぶと思うよ?」

「そ。私なんかより、エミリーの生足で踏んであげたら、すっごく喜びそう」

「……踏んだことは、ある」

やっぱり踏んだんだ、と姉三人は思った。スタンリーは見た目がいいだけに、返す返すも残念な男だ。

「気持ちをこめてお礼を言いましょうね。明後日にでも家に来てくださるよう手紙を出すわ」

「変装しなくて大丈夫?」

「従僕の服装を届けてもらうわ。騎士団の見回りも減ってきているから、怪しまれることもないでしょう」

「よっしゃ。私も気合入れて、料理でも振る舞うかな」

「……死人が出るからやめて」


コン。

ガツン。

「……今、窓から音がしなかった?」

「うん。何だろう……」

「……ひょっとして、お化け?」

にやり。

笑ったエミリーにアリッサがしがみつく。

「私、ちょっと見てくる」

「危険よ、ジュリア」

「いいから、大丈夫だって」

手をひらひらさせて三人をその場に残し、ジュリアはひょいとベッドから下りて窓に寄った。大きな窓を少し開けて、パジャマ姿のまま外に出る。

「うわ、さっぶ……」

自分で自分を抱きしめ、首を亀のように縮める。何か羽織ってくればよかったと思った瞬間、

「ジュリア!」

聞き覚えのある声が、バルコニーの下から響いた。


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