表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 14
570/616

399 密談

木立の陰で薄暗い窓から、僅かに光が差し込む。

男は重厚なこげ茶色の肘掛椅子に座り、目を閉じて微睡んでいた。


コンコン。

「旦那様、入ってもよろしゅうございますか」

「入れ」

ドアが開いて、若い執事が礼をした。

「各地から連絡が来ております」

「首尾は上々か」

「フロードリンは火災の後片づけが終わり、王家が雇って派遣した職人が、新しい家を建てているそうにございます」

「そうか」

「その他に、ハーリオン侯爵家が食料や衣服、日用品を配って、焼け出された住民の生活を支援しているそうです」

「……何だと?それは確かなのか?」

男は椅子から身を乗り出した。


「はい。現地に入った騎士団に、息がかかった者がおりまして……その者の話では、四姉妹のうち二名と金髪の青年が、街の有志と一緒に物を配っていたとか」

「金髪……ハロルドが帰っているのか?馬鹿な。あいつはアスタシフォンにいるはずだろう」

「アスタシフォンの王宮へ確認を取りました。ハーリオン侯爵夫妻は王宮内に留め置かれているようですが、ハロルドの姿がこのところ見えないそうです」

「逃げ出したか……」

「フロードリンと同様の報告が、コレルダードからも届いております。徴収した年貢を返し、希望者からは麦を買い上げてフロードリンへ運び、支援物資に充てているそうです。コレルダードには職業訓練の施設ができる動きがあるとも」

「……侯爵がいなければ何もできまいと思っていたのに。忌々しいな」

座ったままダンダンと片足を踏み鳴らし、男は悔しそうに奥歯を噛んだ。


「いかがいたしましょうか」

「王宮の動きは?」

「騎士団はハーリオン侯爵令嬢とハロルドを追っているようです。慈善活動の報告も王宮には届いているものと思われます」

「フロードリンにコレルダードか……エスティアとビルクールへも手を出してくると思うか?」

「何とも申し上げられません。騎士団の調査は入ったものの、どちらも住民に被害は出ておりませんし」

「双方に目を光らせるのは無駄だな。……エスティアは捨ておけ。ビルクールに罠を張れ」

「罠……と申しますと?」

「近いうちにハーリオン侯爵令嬢が現れる、と手紙を出せ。宛先は」

カツ。

男は肘置きを指先で叩いた。

「ベイルズ商会だ」

御意、と頭を下げた執事に、男はふっと口元を弛めた。


   ◆◆◆


王宮内、国王の執務室では、ステファン四世とオードファン宰相が一対一で話をしていた。

「どう思う、フレディ?」

机に広げられているのは、騎士団から届いたハーリオン領の報告書だった。幼馴染で従兄の宰相を、国王は親しみをこめて愛称で呼んだ。

「あの子達は自分のできる精一杯で、民に尽くそうとしているよ。領主としてあるべき姿ではないかな」

「確かに……そうだが……」

「フレディはまだ、アーネストがやったと思っているのか?オリバーも自信を持って違うと言っていたし、私はアーネストが何かに巻き込まれたのではないかと思い始めているよ」

「……そうだと信じたいが……」

宰相は歯切れが悪かった。ハーリオン侯爵の無実を証明しようと乗り込んだ息子達が、悪事の証人になってしまったことが悔やまれた。揉み消せるものではなく、領主の責任を問わないではいられない。


「アーネストは領主として、かの地を治め、領民を守る義務がある。今回の件では、管理不行き届きで領民を守れなかった。ハロルドやマリナ達が慈善活動をしたところで、親の罪は消えない。落ち着くまで、全てのハーリオン侯爵領を王家直轄にすべきだと思う」

「王家直轄に……」

国王は呟いて口元を手で覆った。事実上の領地取り上げである。領地からの収入がなくなれば、ハーリオン侯爵家は今の生活を維持するのが難しくなるだろう。贅沢は勿論できず、使用人を解雇し、邸を手放さなければいけないかもしれないのだ。

「私は、領地を取り上げるのは……」

「取り上げるとは言っていない。落ち着くまで、一時的な措置だ。現に、アーネストとソフィアはアスタシフォンから帰ってくる気配もない。子供達だけでは管理ができず、また同じような事件が起こりかねない」

「邸を手放し、使用人を解雇するとしたら?」

「ハーリオン侯爵には十分な蓄えがあるだろう?邸を手放すまでには至らないさ。解雇された使用人は、うちやヴィルソード家で雇って、アーネストが戻ったらハーリオン家に帰せばいい」

「……いやに簡単に言うな」

「簡単な話だ。誰かが悪意を持ってアーネストを陥れようとしているのなら、それらしく見せてやればいい。……王家がハーリオン家を見限ったと思うように」

「フレディ!」

椅子から立ち上がった国王は、隣に座っていた宰相の首に抱きついた。

「オリバーには秘密にしておく。あいつはいい奴だがうっかりしているところがあるからな」

「アリシアに話してもいいかな」

「他の人間に話さないだろうが、態度で気づかれそうだ。しばらく、二人だけの秘密にしておこう」

「分かった」

国王は静かに頷いた。

「では、レイモンドに官位を。アレックスは、ブリジットとの婚約の話を先に進めるとしようか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ