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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 13
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396 悪役令嬢は変態発言を脳内から消去する

オードファン家別邸の客間に集まった七人は、皆暗い顔だった。

中央の肘掛椅子にレイモンドが座り、長椅子にジュリアとアレックス、その向かいの長椅子にアリッサとエミリーが座り、対角線上の部屋の隅に置かれた二つの椅子には、それぞれセドリックとマリナが座っていた。

「レイ……僕はここから動けないのかな?」

「それ以上近寄るとマリナが体調を崩すから、堪えろ。離れても会話はできるだろう?」

「マーリーナー!」

大声で愛しい婚約者を呼び、セドリックは大きく手を振った。

「……叫ぶな、煩い」

エミリーが片手に紫色の魔法球を発生させる。黙らせる気満々だ。

「愛してるよー!」

マリナははっと顔を隠して俯いた。

「あーあ、裏目に出てやんの」

「殿下、やりすぎですってば」

アレックスがセドリックに近寄って小声で注意した。


「さて、報告をしてもらおうか。顔を見れば、成果が思わしくなかっただろうとは思うが。……では、エスティアに行った三人から話を聞こう」

「僕が代表で話すよ。……僕しか聞いていないこともあるからね」

「ああ。手短に頼む」


   ◆◆◆


「領地管理人、か……」

「ハリー兄様のお父様とお母様が亡くなってから、お父様はセバスチャンに任せていたんだよね。彼がとっくの昔に亡くなっていたなんて」

「ジュリアちゃん、執事がセバスチャンだからって喜んでいたものね」

「うん。何となくそれっぽいし。いい人だったんだよ、ホント」

ジュリアは涙を拭った。

「セバスチャンの死因ははっきりしていないが、別の奴が執事のふりをして邸に居座っている。さらには領地管理人を名乗る若い男が出入りしている。侯爵はご存知ないのだな?」

「……知らないと思う。ピオリを育てていることも」

「若くて顔がきれいな男と言えばさ、フロードリンを出てくる時、騎士団の人達に助けてもらったんだ。そこで、小悪党共が親玉の名前を知らないで、金髪の顔がいい男だって言ったんだ。騎士団の人達が、それを兄様だって誤解しちゃって」

ジュリアの話にレイモンドが頷いた。

「王都に戻る魔法陣に乗るまで、彼らを説得して誤解を解こうとしたが、聞き入れてもらえなかった。首謀者の名前を白状させて、手柄を立てたとでも思っているんだろう」

「俺も、皆に話したんだよ。ハロルドさんはそんな人じゃないって。皆盛り上がってて、俺の話なんて聞いてなくてさ」

筋肉質の猛者達が、手柄を立てて歓喜を爆発させる様子が目に浮かぶ。エミリーは心底嫌そうな顔をした。

「……これだから脳筋は」

「レイモンドさんと俺があそこにいたことがバレてるのも問題だよ」

「王宮には報せが届いただろうな。……残念だが、ビルクールの捜索は断念せざるを得ない。俺達が下手に動けば、ハーリオン侯爵の悪事を暴いた英雄にされてしまう。……俺は、侯爵家を追い詰めるつもりなどない。ただ、アリッサが幸せでいられるように……」

「レイ様……!」

立ち上がったアリッサが、ひしとレイモンドの首に抱きついた。

「分かっていますわ。私、レイ様が頑張ってくださって……嬉しいです」

「アリッサ……」


「ねえ!」

「ちょっと!」

熱く見つめ合う二人に、部屋の隅から声がかかった。

「私達がこうして離れていますのに、見せつけるなんて酷いですわ!」

「そうだよずるいよ、レイばっかり!僕だってマリナをぎゅってして……なでなでペロペロしたいのに!」


シ……ン……。

室内に沈黙が流れた。

エミリーは白い目で王太子を睨み、ジュリアはちらりと姉を窺った。

――あ、固まってる。

マリナは膝を揃えて椅子に座って動かない。

「ペロペロって……」

「……アレックス、繰り返すな!」

「だって、レイモンドさん……」

「いいから、黙れ。……コホン。セドリック、今の発言は全員記憶から消去することにしたいが、それでいいな?」

「あ……うん。……ごめん」

椅子の上で膝を抱え、セドリックは壁に向かって蹲った。背中が丸い。


「では、話を戻そう。フロードリンとコレルダードの問題は、互いに密接に関連している。コレルダードの住民は工場の労働者として強制的に連れて行かれていた。働き手を失い年貢を納められなくなった家では、娘を娼婦にして金を稼がせていた。侯爵家に納められる倍の量の農産物は王都の市場で売りさばかれていた。そうだな、マリナ?」

「ええ。市場の占い師に話を聞いたわ。コレルダードの農産物は安く仕入れて通常の価格で売られていたわ。儲けの五割を商店組合が受け取る仕組みよ。この数年で市場の設備投資がされた形式はないから、誰かにお金が流れているんでしょう。全部が王都の市場に流れているとも限らないわね」

「五割か。大きいな」

「……悪の資金源になってる?」

「輸出されている可能性も含めて、ビルクールを調べたかったが……」


「フロードリンには、エスティアからも若い人が働きに行っているようだよ」

いじけていたセドリックが口を挟んだ。

「私達にピオリの秘密を知られたから、殺そうとしていたの」

「何だと?許せん!」

「アリッサが説得したの。ボロボロに泣いて」

「グッジョブ、アリッサ。すごいじゃん!神殿とかで困ってる人の相談に乗ってあげたら?そういうの向いてるんじゃない?」

「ジュリアちゃん、簡単に言うね……」

「公爵夫人は奉仕活動も重要な仕事の一つだからな。始めてみてもいいだろう」

レイモンドが言うと、アリッサは頬を紅潮させて瞳を輝かせた。

「レイ様……!私、頑張りますっ!」

「……単純」


「フロードリンの工場は閉鎖されて、皆故郷に帰れることになったのね。コレルダードの重税も元に戻るでしょうし、残るはエスティアね」

マリナはノートにメモを取りながら聞いている。頭の後ろに手を組んで背凭れによりかかっているジュリアとは対照的だ。

「領地管理人を捕まえないと終わらないね」

「あのあたりでは見ない、洗練された男か。王都の貴族だろうか。あそこまで王都から頻繁には行けまい。余程魔力が高いか、何か特殊な手段を持っているのだろうな」

「例えば、魔法陣とか?」

「アレックス、いいこと言った!私もそう思うよ」

「王都まで出られる魔法陣があったら、僕達が利用しているよ。手段がないからエミリーの魔法に頼らざるを得なかったんだ。疲れさせて申し訳なかったね」

「……別に」

エミリーは王太子がかなり役立たずだったなと振り返ったが、それ以上言葉を続けなかった。先ほどの迂闊なペロペロ発言で大きな心理的ダメージを受けた彼を追い込むのは可哀想に思われたのだ。


「魔法陣と言えば……王立図書館の魔法陣を使って、ノアがこっちに来ていたよ。オードファン公爵邸の別邸まで案内してくれたのもノアなんだ」

「一緒にいなかったな」

「リオネルに頼まれた用事があるらしくてね。皆によろしくと」

「そっかー、残念。リオネルの話を聞こうと思ったのにな。ルーファスとどうなったの?って」

ジュリアはイケメン騎士のノアを密かに気に入っていた。アレックスに悪いからと褒めることはしなかったが、また会いたいとは思っていた。


「私は図書館から出てくるアイリーンを見たわ。朝日は昇っていたけれど、開館前なのにおかしいと思わない?」

「僕達はアイリーンが入っていくところを見たんだ。見たのは夜明けよりかなり前だから、三時間程度は中にいた計算になるね」

「何してたんですかね?俺、図書館に三時間もいられないっすよ」

「お前は本を読めば寝るからだろう。ノアが魔法陣で転移してきたのなら、アイリーンはどこかへ行っていたのかもしれないな。何故鍵を持っていたのかも気になる」

「誰かにもらったんだよ」

「司書さん達は皆責任感のある方ばかりよ?アイリーンにホイホイ鍵を渡しちゃうような人は一人もいないわ」


「……司書はそうでも、副館長はどうかな」

「セドリック様?」

落ち着いた様子のセドリックに皆が注目する。

「リオネルを招いた晩餐会を覚えているかい?マリナ。あの時、エンフィールド侯爵は君やハロルド、ハーリオン侯爵を貶める発言を繰り返していたね。酔っていたとしても許される内容ではなかったようだし、あれは彼の本心とみていい。彼がアイリーンを手駒にしているなら、貴重な魔法の本を閲覧できるように、自由に図書館に出入りさせていても不思議はないよね」

「……『魅了』の本?」

「エミリーちゃん、心当たりがあるの?」

「魅了の魔法について書いた本は、危険だから三冊しか残っていない。一冊はキースの家、一冊はマシューの家。残りの一冊は、図書館の奥深くにある」

「アイリーンが魅了の魔法を使い始めたのは入学してすぐよね。そんな前からエンフィールド侯爵とアイリーンは繋がっていたの?」

「……分からない。キースやマシューが本を見せていないから、多分」


「侯爵か……軽々しく手出しはできないな」

腕を組んだレイモンドが脚を組み替えた。アリッサは彼の堂々とした態度に惚れ惚れしている。アレックスも真似をして脚を組み替えたが、誤ってジュリアの膝を蹴ってしまった。

「ごめん」

「気にしないで」

「……馬鹿」

エミリーがボソッと呟いた。


「もっと証拠を集めないと、侯爵を追及できないわ。……私達だけでもビルクールへ行きます!」

「えっ、マリナ、危ないよ!」

「セドリック様達は王都から離れられませんから、四人で行くしか」


ドタタタ。


「……今の音……」

「廊下から聞こえたな」

「俺、見てきます!」

「私も!」

アレックスとジュリアが部屋を飛び出していき、すぐに絶叫が聞こえた。

マリナとセドリックがそれぞれ違う部屋の端のドアから廊下を見ると、そこにはパンツ一丁で気絶しているスタンリーがいた。


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