表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 13
566/616

395 悪役令嬢と冬の朝日

「陛下、フロードリンに向かった特別部隊より、急の知らせでございます!」

若い騎士が血相を変えて飛び込んでくる。朝早くから国王の前に集っていたオードファン宰相、ヴィルソード騎士団長、エンウィ魔導師団長は、彼が息を切らして跪くのを見た。

「何があった?」

騎士団長が声を荒げた。フロードリンで大規模な工場火災が発生したとの報を受けてから、彼らは玉座の間に集まっていた。事態収拾のために編成した部隊を、魔導士達の転移魔法によりフロードリンへ送り込み、何か報告が来ないかと待っていたのだ。

「中身は、見て、おりません!陛下と、宰相閣下にと」

「私と、フレディに?」

「私が預かろう」

オードファン宰相は騎士から書状を受けとり、手早く開いて文面に目を走らせた。


「……これは?」

緑色の目を見開いた親友に、国王が玉座から身を乗り出すようにして書状を覗く。

「レイモンドが、街の民を救った?」

「塀で囲まれた工場で奴隷のように働かされていた者達を、アレックスと共に潜入捜査して救ったとあるな」

「アレックスの奴が?……俺には友達と旅行に行くと言っていたが」

「父親に内緒にして、後から驚かせるつもりだったのだろう。潜入捜査をすると言ったら、お前は反対しただろうからな」

ヴィルソード侯爵の親バカぶりを知っている国王は、慌てふためく彼に笑顔を向けた。


「二人の活躍により、人々は混乱なく故郷に帰る手筈が整い、ハーリオン侯爵の悪事も全て白日の下にさらされたとある」

ハーリオン侯爵の三女・アリッサを溺愛している息子が、わざわざ未来の義父を陥れるような真似をするだろうか。オードファン宰相は考え込んだ。

パチパチパチパチ……。

突然沈黙を破って拍手が響いた。

「流石は宰相閣下の御子息ですな」

エンウィ魔導師団長はにんまりと笑い、頬を赤らめて頷いている。

「ご自分がなすべきことをきちんと分かっていらっしゃる。未来の宰相として、守るべきは王家であり、婚約者などではないと」

「それは……」

恐らくレイモンドの本意ではないはずだ。宰相は素直に賛辞を受け取れない。

「あと一年足らずで王立学院を卒業なさる身だ。卒業前ではあっても、彼の貢献は素晴らしいものがある。陛下、どうかレイモンド君に相応の位を……」

膝を折り、頭を下げる。宰相は彼を立たせようとした。


「エンウィ伯爵、私は息子の意思を尊重したいと思う。……陛下、レイモンドはフロードリンに居合わせたのだとしても、功績として認められることはあの子の本意ではありません。官位や爵位など、ゆめゆめお考えになられませんよう……」

「官位、爵位か……」

国王は引き締まった顎に手を当てて考えた。

「……考えておこう。フロードリンのこれからについては、追って指示する」

「陛下!?」

マントを翻し、国王は玉座を降りた。

「どちらに?」

「……急に、息子の顔が見たくなってな」

金色の髪を掻き上げると、国王は姿勢も美しく、颯爽と部屋から出て行った。


   ◆◆◆


「大変です!王妃様」

「あら、何かしら?」

「陛下がこちらへ向かっていらっしゃいます。先にセドリック様のお部屋に行かれて、殿下がこちらにいらっしゃると……」

「まあ、困ったわねえ……」


王妃の前にはパンツ一丁にひん剥かれたスタンリーが、股間を手で隠しながら立っていた。学院祭で彼の堂々とした演技と細マッチョの身体に痺れた王妃は、息子の影武者を務めている彼を時々呼び出しては、「脱げ」と命令して楽しんでいた。影武者を務めればエミリーの使用したガーターベルトをもらえると思い、スタンリーはこのとんでもない命令にも従っていた。

「こんなところ、陛下に見せられないわよねえ」

「王妃様、お願いですから、服を……」

スタンリーが逃げ出さないように、服を一枚脱ぐたびに侍女に片づけさせていた。彼の身体を隠すものは何もない。パンツ一丁で王妃の部屋にいたとあっては、ギロチン直行間違いなしだ。さあっと顔色が変わる。

「ねえ、スタンリー?あなた、魔法は使える?」

「いいえ、魔法はとんとさっぱり……わわっ!」

微かに王妃の唇が動き、スタンリーを白い光が包み込んだ。


   ◆◆◆


すっかり夜が明け、市場は行き交う人々と台車の軋む音が賑やかだ。早々と店を開けているところもある。これだけ人がいれば、自分一人くらい歩いていても不審ではない。マリナは寝ているチェルシーに置き手紙を書き、

「ありがとうございました」

と耳元で呟いた。


オードファン公爵の別邸の場所は分かっている。王都の地図は頭に入っているし、主要な貴族の邸は全て把握している。将来何かに役立つだろうと思い、小さい頃から暗記してきたのだ。

「この通りを真っ直ぐ、だったわよね……」

市場の脇の大きな通りに出る。早朝だというのに、多くの馬車が通っていく。誰か知り合いが通っても、魔法で変装している自分には気づくまい。主人に用事を言いつけられた侍女が歩いているようにしか見えないだろう。


博物館の近くに差し掛かった。冷え込みが幾分和らいで、日差しが出てきたようだ。白い朝日が眩しい。

「この次の角を曲がって、さらに二つ目の角を曲がれば……あら?」

図書館の脇から走り出てきた人影に、マリナは目を疑った。

――アイリーン?まだ開館時間じゃないのに?

振り返っても建物からは人の気配がしない。遠ざかっていくピンクの髪を見つめ、マリナは嫌な予感に震えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ