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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 13
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393 悪役令嬢はベッドに誘われる

「んじゃ、俺は寝る。行くときは声かけてくれ」

「あ、あの」

目の前で女物の服を脱ぎ始めたチェルシーに、マリナは戸惑って背中を向けた。

「何だよ、こんくらいたいしたことないだろ?あんた、男がいるって言ってなかった?」

「言いましたけど、裸は、その……」

子供の頃は服を脱がせてドレスを着せてセドリックを弄んだが、大人の体格になってからは彼の肌に触れてはいない。目の前で若い男が服を脱ぎ始め、深窓の令嬢が照れるのは当たり前だ。


「ふーん。そいつとは、まだ、なんだ?」

「……まだ、よ。当たり前でしょう?」

「そうなのか?俺の姉ちゃんなんか、十五の時に男作って出てったぜ?その前から旅芸人やら旅の商人やら、男をとっかえひっかえしてたから、子供も誰の子か分かんねえってボヤいてたし」

「はあ……」

何と言ったらいいのか。お盛んですこと?

「私はあなたのお姉様とは違いますので、結婚まで純潔を守るつもりです」

「やっぱ貴族のご令嬢は違うねえ。……そういうの、抵抗がないなら、俺のベッドに誘おうかと思ったのに」

「はあっ?」

「ウソウソ。目くじら立てんなって。店先貸してやった礼に抱かせろなんて、極悪非道じゃない?」

「お礼なら、後程……」

ちらりとチェルシーを見る。上半身裸、下ばきの上に膝下丈の薄い布を巻いただけである。毎日占いをしているだけなのに、鍛えらえた細くしなやかな身体が眩しい。筋肉好きのジュリアが見たら涎を垂らしそうだとマリナは思った。


「礼、ねえ……何でも叶えてもらえる?」

「善処しますわ」

「俺の弟子に会いたいんだわ。歳は……あんたと同じくらいで、銀の髪を後ろで結ってて」

――ん?銀の髪?

「ジュリアっていう名前の奴。しばらく会ってないんだ」

「……はあ」

「どうした?」

「……ジュリアなら、よく存じていますわ」

妹はいろいろな人と面識があるようだが、まさか市場の占い師と懇意にしているとは思わなかった。それも、弟子とはどういうわけだろう。

「ジュリアに会って、どうなさるおつもり?」

「話がしたいだけだ。……内容は、あんたには教えない」


   ◆◆◆


「あの指輪は……!」

「虹色の光を放つ、王家の指輪か!」

若い騎士達はその場に膝をついてひれ伏した。ざわめいていた街の人々も、彼らにつられるようにしてその場に膝をつく。押し合いへし合いしていたため、場所がなくて立っている人もいる。

「火事も消し止められ、皆、ここから必ず抜け出せる。故郷まで帰る者は送らせる。慌てずにゆっくりと進むんだ!」

レイモンドは群衆に向けて叫んだ。


「アレックス……どうする?」

「レイモンドさん、正体バラしちゃったな。俺らも見つかるのは時間の問題な気がする」

「変装してるのに?アレックスは労働者の服だよ。紛れて抜け出せるんじゃないかな」

「あそこに立ってる騎士、前にうちで父上にみっちりしごかれてた連中なんだ。俺のことも可愛がってて……あ、ほら」

アレックスが彼らを見ると、視線が合ったらしい。騎士の一人が赤髪の少年目がけて走ってくる。

「アレックスも来ていたのか」

「……はは、まあ、そうっす」

「あそこにいるのはオードファン宰相の御子息だろう?自ら危険を冒しても悪を根絶しようと立ち上がられたのだな」

「は……こんぜ……?」

「素晴らしい心がけだ。是非とも、団長を通じて陛下に奏上しなければ!」

特別部隊のリーダーは目をきらきらさせてレイモンドを見つめている。

「彼が混乱を沈めてくれなければ、俺達も巻き込まれていただろう。……不甲斐ないところを見せてしまったな」

「いえ……このことは、内密に……」

「ははは、照れることはない!君と彼の功績は後に語られることになるだろうね。ハーリオン侯爵の不正を暴いた英雄だと」

「え、えいゆぅう?」

若い騎士は軽く会釈をして去っていく。取り残されたアレックスは、恐る恐るジュリアを見た。

「まずいぞ、ジュリア。父上と、オードファン公爵様に伝わったら……」

「調べるのをやめさせられるでしょ。ビルクールを調べる前に、王都に強制帰還だよ。……レイモンドの奴、あそこで身分バラさなくてもいいのに!」

ジュリアは髪を鷲掴みにして掻き毟った。


   ◆◆◆


「このような場所に、このような時刻に、セドリック王太子殿下がいらっしゃるとは……」

ノアはひれ伏して苦しげに呟いた。低く艶のある声で苦しそうに言われると、アリッサとエミリーは多少ときめいた。

――レイ様の方が素敵だけど、これはこれで素敵!

――こいつの声、記憶になかったけど……結構好きかも。

前世で声フェチだった乙女二人がほわーんと顔を赤らめている隣で、セドリックはノアに厳しい目を向けていた。


「君は国へ帰ったはずだね。ここにいるのはリオネルの指示なのか?」

「……いえ。私が……自分の判断で参りました」

口ごもったところを見れば、恐らくリオネルの指示なのだろう。ノアが自分からリオネルの傍を離れるはずがない。任務を達成しなければ口を利かないとでも言われたのか。

「船で来ればいいよね?定期便も毎日のように出ているし、図書館の魔法陣を使う理由がないよ」

「はい。殿下の仰ると……は、失礼!」

ノアは立ち上がって三人を壁際に押し、自分がその前に立った。

「何、何なのぉ」

アリッサが怯えて涙声になる。

「……静かに。人の気配がします。足音を立てずに建物の……向こう側へ」

セドリックは頷き、ノアが指さした方向へと歩き出した。三人は光が当たらない建物の陰に隠れ、ノアが続いて向こう側を見つめる。

「……あれは……」

「?」

彼の陰から裏口を覗いたセドリックは、驚いて目を瞠った。

月光にふわふわとしたピンク色の髪を輝かせ、アイリーンはそっと裏口のドアを開けた。


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