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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 13
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384 悪役令嬢と真夜中の占い師

「助かったよ。いやあ、いきなり後ろから捕まえられてさ。まいったよ」

笑顔で飄々と頭を掻くジュリアに、レイモンドは白い目を向けた。

「……目立つ格好でうろうろするからだ。どこかで服を調達しよう」

「すごいね、レイモンドはいつも落ち着いてるなあ」

「まあな。セドリックの側近を何年もやっていれば、自然とそうなる」


レイモンドが大声を上げ、自分を捕らえていた男達の意識が上の街に向かった瞬間、ジュリアは両脇を抱えていた用心棒を蹴り上げて腕から逃れた。ジュリアを捕まえるより、街の状況確認を急いだのか、彼らは急いでビルの階段を駆けあがり、暗闇の街へと散らばって行った。近くにいなくなったのを確認して、レイモンドは用心深く階段を下りた。ジュリアが逃げた方向へと走り、何とか合流できたのである。


「アレックスの居場所の見当はついたのか?」

「ううん。工場はこのあたりに集中してるっぽいから、どこかにいるとは思うんだ。捕まった時、ここで働かせるみたいなことを言ってたんでしょ?」

「マリナからはそう聞いたな。だが、火事は隣の工場に延焼して、どんどん燃え広がっている。俺達も巻き込まれるかもしれない。闇雲に探してもかえって危険が増すだけだ」

考え込んだレイモンドは、ジュリアがムッとしたのに気づかなかった。

「あーあ、やっぱりか」

「何だと?」

「レイモンドは結局、自分が可愛いのよね。アレックスが心配じゃないの?」

腰に左手を当て、右手の人差し指でレイモンドの顔を指す。

「心配に決まっている!」

「どうだか」

「喧嘩している場合か。まずはジュリア、君のその服装をどうにかしろ」

「どうするの?洗濯物でも盗むわけ?」

「構わん。着替えたらアレックスを知らないか聞いて回ろう。あの赤い髪なら目立つだろう」


   ◆◆◆


マリナは身支度を整え、フロードリン工業会の建物の前に立った。中に入り、魔法陣がある部屋を覗く。塀の向こう側の火事に人手を取られたのか、昼間に魔法陣を見張っていた男はいなくなっている。

「やったわ。今の内なら……」

人間用魔法陣の真ん中に立つと、周りが白く光った。


瞬時に王都の市場にある魔法陣に着く。室内には光魔法球があるが人の気配はしない。真夜中だから人や物の移動がないのだろう。前世の日本のように夜中に物流が動くこともなく、グランディアの人々は基本的に日没までしか働かない。

「朝まで待たないと、話は聞けそうにないわね」

オードファン公爵家の別邸には、事情を知っている使用人がいる。この時間に訪ねて行っても中には入れてもらえるだろうが、邸まで歩いていくのは不安だ。夜中の女性の一人歩きは危険なのだ。

――市場に留まるしかないわ。どこかに休む場所は……。


魔法陣の傍で夜を明かすのは、他に誰かが転移してきた時に気まずいので、マリナは建物の外に出た。通りにある店はどこも閉まっている。休ませてもらえそうな場所はない。

「休憩所でもあればいいのに……あら?」

ふと遠くを見れば、向こうから歩いてくる人影がある。籠に入れた光魔法球をランプ代わりにして、少し大股で歩いている。長いローブの下はスカートで、どうやら女性のようだ。

――市場の人かしら?店先で休ませてもらえないか訊いてみましょう。


「あの……」

女性が近くまで歩いてきた時、マリナはそっと声をかけた。

相手を怯えさせないよう、いつものような強い調子ではない。マリナに気づいた彼女は、真っ直ぐな赤い髪を揺らして、嫣然と微笑んだ。

「あら」

「市場のお店の方ですか?」

「そうだけど、何か用?」

――うわ、不機嫌そう。

声をかけてしまったため引っ込みがつかず、マリナは彼女に微笑んだ。自分よりかなり背が高い。それだけで圧倒されそうだ。

「朝になるまでで構いません。私をお店で休ませていただけませんか」

「……んー。いいけど、俺、寝るよ?」

――え?今、俺って言った?心なしか声が低いような……。

ローブを着た女性は、面倒くさそうに片眉を上げ、首の後ろを掻いている。と、髪の毛がばさりと落ちた。

「おっと、取れちまった」

「かつら……」

「俺の店はあっち。占いの店なんだけどさ、昼頃まで客は来ねえからゆっくりしていきな」

にっと笑った少年は、女性にしては大きい掌でマリナの背中を押した。


   ◆◆◆


「そうか。僕達に追っ手はかからなかったんだね」

セドリックは脚を組み、馬具工房の物置でゆったりと座っている。ここが狭苦しく埃っぽい物置であろうとも、彼は自分のペースを崩さず、世界を自分色に染めている。

――逆にすごいわ。

エミリーは無表情で王太子を見た。

「正確には、ジャイルズが追おうとしたんです。でも、エミリーちゃんが描いておいた魔法陣に捕まって、馬車が動かなくなって」

アリッサが嬉々として説明する。妹の鮮やかな罠に鼻高々だ。

「領地管理人は来なかった?」

「そう」


「一度、王都に戻ったらどうかなって思うんです。さっきエミリーちゃんとも相談したんですけど」

「そうだね。二人がいない間に、ピオリの栽培についていろいろ話を聞くことができたんだ。王都に戻って、フロードリンとコレルダードに行った四人からの話と結びつけて、情報を整理しよう。偽の領地管理人が、エスティアの若者を街へ連れ去ったという話も聞いたからね」

「街?」

「フロードリンだ。……どちらもハーリオン侯爵領だね」

「……うちをはめようとしてる。ホント、嫌」

憎々しげに顔を歪めたエミリーの眉間を指で突き、アリッサは首を傾げた。

「ところでエミリーちゃん。王都までどうやって戻るの?」


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