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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 13
554/616

383 悪役令嬢は自画自賛する

ある街の邸で、その貴族は重厚な造りの机に肘をつき、配下の報告を聞いていた。

「フロードリンの様子は?騎士団は帰ったのか」

「旧市街を見て帰ったそうです」

「中には入れなかったのだな。それでいい。楽しみは後に取っておくべきだ」

男は口の端を上げて笑った。

「生産量を上げましたので、人手不足でコレルダードから補充しました」

「工場の火災はどうなった?予定通りか」

「はい。王都から治癒魔導士と騎士団が向かったようです。ハーリオン侯爵の悪事が露見するのも間もなくかと」

報告に満足し、男は頷いて身を乗り出す。


「エスティアに旅人が来たそうだな。あんな山奥に三人で?怪しいな」

「はい。報告によりますと、口封じをしようとして逃げられたそうです。いかがいたしましょうか」

「……逃げた、か」

「はい。あの急な山道で野垂れ死んでいなければ、町の秘密が漏れる恐れがあります」

「そろそろ頃合いか。秘密が漏れても構わん」

「追わないと仰るのですか?」

「追うふりだけでもしてみるか。ジャイルズに追わせろ。私の代わりとしてな」

「はっ」

「……フロードリンが焼け落ち、コレルダードから連れてきた労働者が訴え出れば、コレルダードも本格的に調査されるだろう。侯爵が課した三倍の年貢も明らかになる。芋づる式にビルクールまでたどり着ければいいが……果たして、騎士団はどこまで……」


配下の者が部屋から出ると、男は本棚に手をかざした。魔法の波動が煌めき、並べられた本がきらきらと光を纏う。

ガタ。……ゴゴゴゴゴ。

本棚が二つに割れて部屋の入口が現れた。

光魔法球が明るく照らす室内へ進み、壁にかけられた肖像画を見つめる。

「……もうすぐだ。もうすぐ、終わるから……」

壁に手をついて項垂れる。肖像画の少女は何も言わず微笑んでいた。


   ◆◆◆


レイモンドは塀の切れ間がある場所へと歩いてきた。ここまで誰一人として街の住民には出会わなかった。黒ずくめの集団も出てきていない。見張りもいないように見える。

「ジュリアはどうやって入ったんだ?」

塀にそっと触れる。実体がない壁は、レイモンドの手首から先を見えなくした。

「……光魔法か。闇魔法で無効化すれば、街の住民も逃げ出せるな」

決心して中に飛び込む。壁の厚さは殆どなく、一歩で塀の内側に着いてしまう。


舞い上がる火の粉が夜空を赤く照らし、炎に驚いた人々が逃げ惑っている。人の流れに逆行すれば押されて道の端へ追いやられた。

「くっ……」

アレックスとジュリアはどこなのだろうか。レイモンドは二人の行動パターンを思い出した。「俺に任せろ!」と言っては後先考えずに危険に飛び込んでいくアレックスと、勢い任せで深く考えないジュリアが、火事の現場に行っている可能性は高い。特にアレックスは、先に捕まって労働者になっているだろう。

「火の勢いが収まれば……」


建物に沿って明るい場所に近づく。工場は住民が暮らす街区より下にあると気づき、ジュリアと同じように降りる方法を探した。

「……っ、なせっ!」

聞き覚えがある声に振り向くと、下の路地で茶色い長い髪を下ろしドレスを捲り上げた女性が、両脇を抱えられて足をバタバタしている。

「はーなーせーっ!このっ、このっ!」

蹴とばされても用心棒らしき男達はびくともしない。

「……ジュリア!?早速捕まったのか……」

レイモンドは辺りを見回し、人がいないのを確認してから、

「うわあああああ!大変だ!街に火が回ったぞ!」

と下に向かって大声で叫んだ。


   ◆◆◆


「……まあ、見てて」

エミリーはにやりと笑った。慌てた様子で出てきたジャイルズが、馬丁が予め用意していた馬車に飛び乗る。老人とは思えない身のこなしだ。

エミリーとアリッサは、庭の木々の間から彼を見ていた。葉の密度が高くこんもりと茂った庭木が、うまく二人を隠している。


馬に鞭を入れ、走り出そうとした瞬間。

「うっ、何だ!?」

数メートルも進まないうちに地面から闇が噴き出す。混乱した馬が嘶き、バラバラの方向に逃げようとするが、馬車の車輪は地面にしっかり掴まれたように進まない。


「……やった。さすが私」

「すごぉい、エミリーちゃん。あの人、馬車で進めないよ」

「三日はあのまま。馬は戻せても、馬車が動かないと追えない」

「ニセ領地管理人は来なかったね」

「ジャイルズは私達を追えと指示された?」

「そうみたいね。領地管理人を捕まえるのはまた今度になっちゃった」

エミリーは頷いた。

「……一度、馬具工房へ行こう。王太……スタンリーと合流して、王都に戻るか決めよう」

「王都に戻るの?」

「エスティアでピオリが栽培された理由も分かった。ニセ領地管理人を締め上げるのは後でもできる。いつまでも隠れていられないでしょ」

「ビルクールを調べる時間も必要だものね」

「そう。……あそこが一番問題ありそう」

「フロードリンとコレルダードに行った四人が、何か掴んでるといいね。大丈夫かな、マリナちゃんとジュリアちゃん」

「へえ、『レイ様』じゃなく?」

「レイ様は大丈夫に決まってるもの。……アレックス君は不安だわね」

ジャイルズが諦めて邸の中へ戻ったのを見て、エミリーとアリッサは邸の庭から出て町へ走った。




体調不良&眼科疾患で、執筆速度が著しく低下中です。

今週土曜日まで更新を1日1回にいたします。

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