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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 13
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378 悪役令嬢と手荒な魔法陣

コレルダードの荷物用魔法陣は、穀物を運ぶために大型だった。外側の円に沿って並んだら、二クラスでフォークダンスができそうだとジュリアは思った。人が移動するための通常の魔法陣は、バスケットボールのフリースローサークル程度の大きさである。

「誰もいないな。……行くぞ」

足元の魔法陣が光り、レイモンドとジュリアはふわりと浮く感じがした。


ドサ。

「……ったぁ」

転移先は確かに王都の市場にある魔法陣だった。が、転移先の座標設定が荒く、ジュリアは床から一メートルほど空中に転移し床に落ちた。そこへ、レイモンドが降って来たのである。

「……っ、はあっ」

「ちょっと、レイモンド!どこ触ってんのよ!」

「ぐぅ」

即席豊胸術で寄せて上げられたジュリアの胸を、どさくさに紛れて鷲掴みにしているレイモンドの腹に、ジュリアの膝蹴りが決まった。


   ◆◆◆


「単なる事故だ。……決して疾しい気持ちはない」

「どうだか」

「喧嘩をしている場合ではない。俺達は協力しあわなければ、問題が解決しないだろう?」

頭では分かっているが、納得できない。仮に相手がアレックスだったとしても、事故でそういうことになるのは悔しい気がする。

ジュリアはスカートの裾を持ち上げて、膝の上でぎゅっと結んだ。

「……何をしている?」

「走るのに邪魔なんだもん。……ねえ、向こうでしょ、人の声がする」

「やはり、行き先は王都ではなかったか。魔法陣の光が収まったら、どこへ行く魔法陣か確認して追いかけよう」


しばらく息を顰めて様子を窺う。

大勢の人間を転移させるため、魔法陣は何度も続けて光っている。人間用魔法陣は荷物用と違って丁寧に運ぶ。手を縛られた人達も転ばずに移動できているようだ。

「……行ったか?」

「うん。光るのが終わったね」

そっと光っていた魔法陣へと近づく。看板に書いてあった町の名は……。

「……フロードリンだと?」

「マリナとアレックスが行ってる街じゃん!」

「なるほど……フロードリンは工業の町だ。働き手は多いほどいいというわけか」


再び荷物用の魔法陣に戻り、ジュリアはレイモンドの手を握った。

「お、おい」

「こうしないと、また上から落ちて来られたら嫌だもん」

「嫌、か。まあいい……俺としても不本意な言いがかりは避けたいところだからな」

足元の円からパアッと白い光が出る。あまりの眩さに二人は瞼を閉じた。


   ◆◆◆


「どこへ行ったのかしら……」

黒ずくめの男達に連れ去られたアレックスを追い、大きな通りまで来たものの、マリナは彼らを見失っていた。おそらく片側に続く塀の中に入ったのだろうが、どこに入口があるのかすら見当がつかない。夜中で暗いのも捜索を困難にしている要因の一つだった。一度『銀のふくろう亭』に戻るべきか、マリナは頭を悩ませていた。

「この街から出ていなければいいけど……でも、もしかしたら……」

知り合いが誰もいないのをいいことに、マリナはスカートの裾を翻して走り出した。比較的身軽な侍女の服でよかったと思う。色が黒っぽいところも闇にまぎれて最適だ。


フロードリン工業会の建物に近づくと、中から光が漏れてきた。

「こんな時間に、荷物を?」

できあがった毛織物の出荷にしても、原料の羊毛の入荷にしても、真夜中に何を運ぶと言うのだろう。廊下の窓を外側からそっと覗くと、大勢の人影が見えた。

――!!

驚いて身を隠す。光った瞬間しか見えなかったが、人数は二十人を下らないだろう。体格から察するに、皆男性のようだ。フロードリン側で待ち構えていた黒ずくめ集団とは、明らかに様子が異なる。一般的な平民の服を着ている。


「工場に働きに来たなら、昼間でもいいわよね。夜の人目に付きにくい時間を選んで、王都から魔法陣で来るなんて怪しすぎるわ」

建物の陰に隠れ、彼らが出てくるのを待つ。この集団が工場へ行くなら、ついて行けば塀の切れ間――アレックスの行先も分かるはずだ。彼が攫われたと知っているのは自分だけだ。助けられるのも自分だけだ。マリナはぐっと奥歯を噛みしめた。


黒ずくめの男六人が、二十人ほどの平民の男達を連れて歩き出した。彼らの腕は皆縛られていて、縄が微かに光っている。魔法がかかっている証拠だ。

「まあ、あんな子供まで……」

中には自分より年下に見える少年も含まれている。マリナは眉を顰めた。

彼らが角を曲がって見えなくなると、建物の陰から道路の曲がり角まで走った。また様子を窺いながら、ある程度の距離を保って追いかける。細い路地に隠れ、また少し先の路地へ隠れる。空を見上げると、月は薄い雲に隠れており、街は薄ぼんやりとしか輪郭が分からない。マリナにとっては、相手に見つからずに追いかけられる絶好のコンディションだった。


――よし、次の角へ!

マリナが通りへ一歩を踏み出した瞬間、

「――んぅっ!」

背後から何者かに羽交い絞めにされた。

布で口を塞がれ、声が出せない。いや、声を出したら黒ずくめ集団に気づかれて、もっとピンチになる。

「ん、んん……」

――私ってなんて無力なのかしら……。ごめんね、アレックス……。

動けないと悟ったマリナは暴れるのをやめた。すると、耳元にくすくすと笑い声が聞こえた。


「こーんなところで何してんのさ、マリナ」

ぐるんと振り向くと、暗闇で白い歯を見せて笑う悪戯好きな妹の顔があった。


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