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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 13
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376 悪役令嬢と伝説の聖剣

ブルーノを助けてくださいと、件の女性――名前はアントニアと言うらしい――に懇願され、ジュリアは荷物を受け取った。

「捨てられないように隠していました。何も取られてはいないはずです」

「ありがとう」

絶対助けるから、と胸の中で誓い、先に歩き出したレイモンドの背中を追う。


「ジュリア。一度王都に戻るぞ」

「うん。私もそれがいいと思ってた。工事に連れて行かれたのに、誰も見ていないってのがおかしいよね」

「見かけないほど遠くに行ったと見るべきだな。ここから遠くに、それも大勢の男を連れ出せば、絶対に目につくはずだ。街道沿いで目撃情報があってもいい。だが、誰も見ていないとすれば、考えられるのはただ一つ」

ジュリアと視線が合い、緑の瞳が細められる。

「魔法陣!」

「正解だ。彼らの行方を探し、市場でコレルダード産の農産物の流通経路を探る。この土地の者が市場に売りに行っていたのか、それとも、不正に集めた年貢を横流ししているのか」

「調べられるの?」

「問題ない。市場の出店には登録が必要だ。残っている記録と、店主たちの証言があれば……」


話しながら歩いてくると、あっという間に魔法陣のある建物へ着いた。夜中だというのに人の出入りがあるようだ。レイモンドは建物の陰に身を隠すようにして様子を窺う。

「ねえ、行かないの?」

「今出ていってはまずい。……見ろ、ぞろぞろ入っていく男達を」

暗闇で目を凝らす。下を向いて歩いている一団の手は、全員後ろにある。

「……縛られてる?」

「歩かせるために足は自由になっているが、腕にかけられた縄に魔法でも仕込んであるんだろう。逃げ出せば電撃を感じるようだな」

男の一人が走り出し、すぐに身体を弓なりにしならせて道路に倒れた。


「うわぁ……」

「奴隷扱いだな。どこに行くんだ?魔法陣は王都の市場に繋がっているものしかないぞ。あれだけの大人数を連れ歩いたら、人の多い王都でも目立つだろう」

「市場にはいっぱい魔法陣があったから、別な街にも行ける。王都じゃないのかも」

「……行ったな。よし、追うぞ」

「追うって、今行ったら鉢合わせしちゃうよ?」

「忘れたのか?魔法陣は人を運ぶだけではないだろう?」

「あ!荷物用!?」

レイモンドはフッと口の端だけで笑い、ジュリアの答えに満足した。


   ◆◆◆


「夜中に教会を襲うなんて、最低だな」

「見下げ果てた奴らね。牧師様が心配よ」

三人の黒ずくめの男達が教会に入って行って、アレックスはそっと中を窺った。

「暗いな。よく見えない」

「誰もいないの?」

「ああ。三人も、牧師様もいないな。牧師様は別の部屋で寝てるだろうから、あいつらは探しに行ったんじゃないか」

「大変!」

アレックスの背中を押して先に進ませ、マリナは教会の中へと歩みを進めた。


真っ暗な教会の中は、元々民家だったこともあり、あまり天井が高くなく、明り取りの窓もない。ステンドグラスのような華美な装飾は一切なく、大広間がある民家をそのまま使っていた。日中は窓から差し込む光で多少明るいが、ウナギの寝床のような長い家で、両隣にも家がある。真横の窓は用をなさない。道路に面した家の間口により税が課せられていた土地柄、家々は皆このような造りだ。

マリナは人差し指の先に、ほんのり、小さな光魔法球を出した。

「お、いいね」

「私に魔法ができるかって聞いたのは、このためでしょう?」

「違うぜ。まだまだ。これからだって」


二人は物音に気づいた。大広間を抜けた先、廊下のどちら側かで、先ほどの男達が牧師を脅しているのだろうか。

「向こうは三人よ?太刀打ちできるの?」

「剣は偽物だから、あんまり実戦にはなりたくないんだけどな」

「……シッ。出て来るわ」

廊下の曲がり角に隠れて、灯りが漏れてくる部屋を見つめる。黒い服の男達は何事か話しながら笑っている。

――笑う?嫌な予感だわ。

三人目が部屋から出た時、部屋の中から四人目が現れて……。

「牧師様……」

「何で笑ってるんだ、あんな奴らに」

男達に向かって頭を下げ、笑みを振りまいていたのは、昼間クリフトンの父に祈りを捧げた牧師だった。


「引き返しましょう。分が悪すぎるわ」

「ああ、そうし……」

ドアから漏れた光が、二人の影を照らし出した。

「……誰かいるな」

「おい、見てこい」

男の一人がこちらへやってくる。


「やべえ、来る!」

「魔法で援護するわ」

「頼む!……ったああ!」

一人目が来る前に、アレックスは廊下に躍り出た。驚いた男の脳天に、模造の剣で一撃を加える。

「うっ……ぐぅ」

うまく当たった。気絶したようだ。

「やったわ!」

「残りは二人……と」

二人がこちらへ歩いてくる。一対二になるのはつらい。実戦経験がないアレックスには不利な状況だ。


「マリナ、俺が合図したら、魔法を頼むぜ」

「魔法って、何の……」

「ぅりゃあああああ!」

手前の男に一撃を加え、アレックスはさっと間合いを取った。

「お前達、宿屋の主人を殺したな?悪い奴は俺が許さない!」

「何だお前は!」

「俺は通りすがりの正義の味方だ!お前らなど、俺の伝説の聖剣で跡形もなく粉砕してやる!」

――何なのよ、それぇ!伝説の聖剣って、イタイ説明やめてよ!

「マリナ!」

「嘘でしょう!?」

呟いたマリナは、室内に風を起こさせた。

「はははははは。どうだ。俺の聖剣は魔法剣だぞ」

おろおろしている黒い服の二人に、得意になったアレックスが畳み掛ける。

「お前らには雷撃をお見舞いしてやる!」

――雷撃だなんて、そんな高度なの、やったことないわよ!

アレックスは高々と剣を振りかざした。

うろ覚えの呪文を呟き、マリナは宙に向かって手を挙げた。


「はっ!」

……ぷすん。

――失敗!?どうしよう。最近魔法の基礎練習をしていなかったから?

アレックスの顔色が変わった。

「生きのいいガキがいるじゃないか。丁度いい」

「塀の中も、そろそろ補充が必要だからな」

男達はアレックスに近づくと、暴れられないように腕を拘束した。伝説の聖剣が床に転がった。

「やめろ、放せ!」

アレックスを助けたい。だが、自分も捕まってしまっては、助けを呼びに行けない。

物陰に蹲り、マリナは息を殺して彼らが過ぎるのを待った。

――許して、アレックス!必ず助けるから。


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