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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 13
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375 悪役令嬢は考えを改める

「泣くなよ、マリナ。……泣いてるヒマがあったら、俺達にできることは何か考えようぜ」

「アレックス……」

涙を拭いて顔を上げたマリナは、きょとんとしてアレックスを見た。

「何だよ」

「ううん。ジュリアと同じようなことを言うのね」

「なっ……わ、悪かったな」

「いつも一緒だから、考え方も似てくるのね。……羨ましいわ」

何気なく呟いたマリナを、アレックスは悲しそうに見つめていた。

「……会いたいのか、殿下に」

静かに頷き、マリナは優艶に微笑んだ。


「このままではお父様が罪に問われて、ハーリオン家は没落してしまうわ。侯爵令嬢でなくなったら、私はセドリック様のお傍にはいられなくなってしまう。私が今なすべきことは、お父様を助け出すこと。そうでしょう、アレックス」

「……強ええな」

「そうかしら?」

「マリナはこんなときでもマリナだなって思ったよ。殿下に会いたいってピーピー泣いてるような奴だったら、王妃なんか務まらないだろ」

「褒めてるの……よね?」

「うん。マリナが王妃だったら、俺、近衛騎士もありかなって」

照れくさいのか赤い髪を掻き毟る。マリナはプッと吹き出した。

「笑うな!」

「認めていただけて光栄ですわ、アレックス騎士団長?」

「ま、まだ、騎士団長になれるって決まったわけじゃ……あ、や、絶対なるけど、なるけどさ、そんな風に呼ばれると照れるっつーか」

いたたまれなくなったアレックスは、椅子から立ち上がり窓に向かった。夜風で火照った顔を冷やそうと窓枠に手をかけ、はっと身体を強張らせる。


「……マリナ、ヤバいぞ」

マリナは音を立てずに窓辺に近寄った。室内の光魔法球を消す。

「昼間の、黒ずくめ集団?」

「人数は……三人か。たいしたことはないな」

「またここへ来るのかしら?」

「違うな。あっちに向かってる」

黒ずくめの男達は、僅かな魔法球の灯りを頼りに、人気のない路地を奥へと進んでいる。

「この街、殆ど人は住んでいないわ。目的は何なのかしら」

「分かんねえよ。でもさ、あっちって確か……教会がある方だよな?」

クリフトンの父のために、住民達と共に祈りを捧げた、民家の中の教会は通りの奥だ。

「牧師様はこの界隈の皆の心の拠り所よ。クリフトンや他の皆を絶望させるために、牧師様を狙って?大変だわ、アレックス」

「なあ、マリナ、魔法はどれくらい使える?」

「風魔法と光魔法なら……ある程度は」

「そっか。援護を頼むぜ」


寝ているクリフトンを起こさないように、二人はそっと階段を下りた。模造の剣を腰に携え、アレックスはマリナの手を引いた。

「勘違いすんなよ。暗いから、繋いだだけだからな。……あと、絶対ジュリアに言うなよ」

「分かっているわよ。行きましょう!」

建物の陰に隠れるようにしながら、アレックスとマリナは黒い一団を追った。


   ◆◆◆


二人に警告した少年が去り、窓を閉めたものの、途方に暮れていた。

「どうしよう、エミリーちゃん。王太子様、起きないよぉ……」

アリッサが何度揺すっても、セドリックは目を開けない。泥酔して眠ったままだ。

「逃げたいのはやまやまだけど、私、三人で適当な街まで転移できるほど、魔力が残ってないのよ」

「じゃあ……このまま町の人達に殺されちゃうの?嫌よ、レイ様にもう会えないなんて」

大きな瞳に涙が浮かぶ。エミリーはやれやれと溜息をついた。

「どうしようどうしようじゃなく、少しは解決策を考えてよ。勉強はできるのに、こういう時は役に立たないのね」

「うう……」

エミリーの言うことが尤もだと理解したのか、アリッサはハンカチで涙をぎゅっと拭いて、荷物を解き始めた。

「逃げるのに今から荷ほどき!?」

トランクの中から次から次へと服が出され、本が三冊と熊のぬいぐるみまでもが出てきた。この非常事態にぬいぐるみを取り出したのかと、エミリーは愕然とした。ダメだ、この姉は。


「エミリーちゃん。私、敵を迎え撃つわ」

「……は?」

「逃げよう逃げようって考えるから、道がなくなっちゃうのよ。攻めて来るなら迎え撃ちましょう?」

「正気?アリッサ」

「エミリーちゃんは魔法が使えない、王太子様は起きない、私は方向音痴で一人で行動できない……誰も逃げられないわ」

「そうね。迎え撃つ戦力もないわよ」

「うん。……でもね、これはどうかな?」

指の先が示したのは、老執事が持ってきたお茶だ。


「お茶がどうしたの?」

「よく眠れるように、って言っていたわ。王太子様が眠ってしまったように、私達も眠らせようとしているのよね。このポットのお茶は、ただのお茶じゃないと思うの」

「……お茶を浴びせる気?」

「ううん。ここに町の人が来たら、そのお茶でおもてなししましょう?水を温めるくらいなら私でもできるから」

「大した効き目はないかもよ」

「いいの。私は町の人を傷つけたくない。……交渉して自由を勝ち取るわ」

ぐっと拳を握る。


「アリッサらしくない……何だか、マリナみたい。交渉って具体的に何をするの?」

「任せて、エミリーちゃん。……前にね、マリナちゃんが言ってたの。公爵夫人になるからには、少しのハッタリと度胸が必要よって」

「あ……」

ドアの外から足音が聞こえた。静かに歩く執事の足取りではない。複数人が階段を駆け上がってくるようだ。

「……来た」

「エミリーちゃんはベッドにいて。……私、頑張るから」

熊のぬいぐるみを一度ぎゅうっと抱きしめ、アリッサは妹に手渡した。

――戦闘開始よ!

人々の気配を間近に感じ、アリッサは深呼吸してドアを開けた。


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