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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 13
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365 悪役令嬢は魔力切れを起こす

転移魔法で、北部の山岳地帯にあるエスティアまで飛んだエミリー、アリッサ、セドリックの三人は、自分達の現在地が分からなかった。

「すごいわね。どこ見ても山しかないわ」

ジュリアがいたら、『ヤッホー』と叫んでいそうな高原である。晴れ男効果ですっきり晴れた青空だが、足元は雪深い。一歩歩くとズボッと入ってしまう。どこが雪の吹き溜まりか分からず、危険な場所だった。

「エミリーちゃん……足、めり込んじゃうよ」

方向音痴のアリッサはもとより、エスティアに来たことがないセドリックは役に立たない。

「困ったな……山の形で方向を確認しようにも、僕の地図にはエスティア自体載っていないんだよ」

「……役立たず」

「なっ……」

「地図、持ってくるならもっと詳しいのにしてよ。どうして王国全図なんか持ってるの」

「将来の国王としては、王国全部を視野に……」

チッ。

エミリーは思いっきり舌打ちをした。


泣きそうになっているセドリックと、おろおろするしかないアリッサは、エミリーの提案でひたすら山を下りる作戦に出た。少し見晴らしがいいところまできて、最も低い場所へと近距離で転移する。何度かそれを繰り返していると、

「……くっ」

とエミリーが膝をついた。

「エミリーちゃん!大丈夫?」

「魔力が……」

王都からエスティアまでの長距離を転移したことと、短距離であっても連続で魔法を使ったことで、エミリーの魔力は回復しないまま減り続けていた。


「向こうに町があるみたいだ。教会の尖塔が見える」

「あと少しね……歩きましょう?」

アリッサがエミリーの手を取り、覚束ない足取りを支えた。

セドリックは二人の前に進み出ると、いきなり背中を向けてしゃがみこんだ。

「王太子様?」

「エミリー。僕の背中に」

「……おんぶってこと?」

「僕はここまで君に連れてきてもらった。だから、今度は僕が君を連れて行く番だよ」

仮にも一国の王太子だ。一貴族令嬢の分際で背負われてもいいのだろうか。子供の頃より鍛えてはいるが、人ひとり背負って丘を下るのはセドリックににもつらいはずだ。エミリーは躊躇った。

「遠慮しないで、ね?」


   ◆◆◆


セドリックがエミリーを背負い、歩くのが遅いアリッサと三人、ゆっくりと町へ近づいていく。途中、街道と思しき所へ出た。

「ここまで来れば、どなたか通りかかると思います。馬車をお持ちでしたら、エミリーちゃんだけでも乗せていただきましょう」

アリッサは背負っていた荷物から大判のノートを取り出して、ペンで『エスティア』と書いた。

「こうしていれば、私達に気づいてもらえると思うの」

「ヒッチハイクか……」

「うん?ひっち……何だって?」


が。

待っても待っても待っても、人っ子一人通りかからない。

「この道は旧道で、今は使われていないのかな」

「どうかしら。詳しい地図があればわかるのになあ」

セドリックは再び項垂れた。自分の荷物は全体的に役に立たないものばかりだ。エミリーは遠くを見渡した。

「雪の上に足跡も車輪の跡もないものね。……待っていても無駄かも」

「どうしよう……」

アリッサは泣きそうになって妹と王太子を見た。


雪の上にシートを敷いて座り、エミリーは腕を組んで考えた。

行動力はあるのに方向性を間違っているセドリックと、行動したくても動けないアリッサ、魔力の切れかかった自分。

「要は……ここに私達がいると気づいてもらえればいいんだから……」

近くには針葉樹の林がある。他の木々は葉を落としてしまい、落ち葉は雪の下だ。使うならこれしかない。

「……二人に相談がある」

エミリーは額に冷や汗を浮かべて笑った。


   ◆◆◆


「まずは今日の宿を予約しよう。野宿はごめんだからな」

レイモンドはずんずん歩いていく。コレルダードの街をゆっくり見ている暇はなく、ジュリアは駆け足で彼の後を追った。

「待ってよレジー。歩くの早いって」

「お前が遅すぎるんだ。ハイヒールでもないくせに、さっさと歩け」

「ちょっとくらい、街を見たっていいじゃんか!」

「旅行で来たのならな。……お前の目的は何だ、ジュリアン。俺達には自由な時間はないぞ」

ジュリアは今さらだがグループ分けに不満を覚えた。戦力を分散して、アレックスとエミリーとは同じ組になれないのは仕方がないが、融通が利かないレイモンドより、マリナと一緒の方が良かったと思う。


宿屋が立ち並ぶ辺りに差し掛かり、ジュリアは周囲の様子に驚いた。

「……ねえ、レジー」

「何だ」

「あの人達……何?」

「ああ……。見るな。視線を合わせるな」

道端の敷石に座り、汚れた壁に凭れて昼間から酒を飲んでいる男達、乱れた服装でレイモンドとジュリアに悩ましい視線を送る女達。どちらも、以前家族で訪れた時には見られなかった光景だった。


「まっとうな宿屋はないのか?皆連れ込み宿のようだな」

「連れ込み……」

「君は男だから、俺と二人、同じ部屋に泊まるのは……」

「まさかとは思うけど、連れ込み宿に泊まる気?あのへんのお姉さん誘って?」

そっと女性達を見る。部屋に泊めたら身ぐるみはがされて一文無しにされそうな、獰猛な視線を感じる。何もしなかったとして、ジュリアが女だとバレたらそれも問題だ。

「いや。別の手段を考えよう。……商店街に戻るぞ。君の好きな買い物をさせてやる」

眉を上げてフッと笑う。楽しそうなレイモンドの顔に、ジュリアは少しだけ嫌な予感がした。


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