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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 12
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358 悪役令嬢は古着を所望する

ハーリオン侯爵邸に戻った日、エミリーはリリーに服を購入してくるように頼んだ。

「エミリー様、本当に、こんなものでよろしいんですの?」

「うん。完璧」

にたり。

リリーが買ってきたのは、どれも傷みが少ない古着だった。茶色の地味なワンピース、光沢がない白いエプロン、練習用の剣士の服、黒い修道女風の服、流行遅れの黄色いドレス。ドレスにはこれまた流行遅れの帽子が附属品になっている。

「ワンピースに合わせた帽子もある?」

「はい。こちらに。それと、伊達眼鏡でしたよね?」

リリーは布にくるんだ眼鏡を取り出す。エミリーはうんうんと頷いた。


   ◆◆◆


「話って何?エミリー」

「……ぐすん」

「わあ、何これ、古いドレス!」

部屋に入ってきたマリナ、ジュリア、アリッサは、ベッドの上に広げられた服を見て驚いた。

「……変装セットよ」

「変装?」

「騎士団がハーリオン領を調べている。何もしていないのに、お父様が悪いみたいに言われている。……おかしいと思わない?」

目を眇めたエミリーに、三人は息を呑んだ。


「変装して調べに行くつもりなの!?」

「そう。うじうじ悩んでるヒマがあったら、自分から動いて真実を見極めればいい」

「いいこと言うね、エミリー」

「邸の外は騎士団が見張っているわ。私達、ただでさえ目立つのに外出なんて……」

「目立たなくすればいい」

手を挙げて振り下ろす。一瞬漂った紫色の霧に三人が目を閉じる。

「ちょ、今の……え、えええええ?」

「ジュリアちゃん、どうして茶色い髪になってるの?」

ジュリアは茶髪に茶目、顔にはうっすらそばかすが散っている。

「アリッサだって赤毛じゃん。マリナ、いつの間に黒髪に?」

アリッサは赤毛のふわふわ天然パーマに青い目、マリナは黒髪に緑の目だ。

「エミリー、魔法を使ったのね?」

「……ご名答」

見た目を変える魔法は、光魔法では光の加減により錯覚を起こさせるが、闇魔法では周りの人間の精神に作用して錯覚を起こさせる。効果はどちらも同じである。

「服が気に入らなかったら、土魔法で変えてあげる。……派手なのはダメ」


「誰がどれを着るの?」

「私達は田舎から出てきた令嬢御一行よ。令嬢はアリッサ。お付きの侍女がマリナ。用心棒の少年剣士がジュリア。私が修道女」

「え?私、男役なの?」

「……全員女だと狙われる」

「あ、そっか。帯剣できなくてもいいのかな?」

「模造刀で十分。賊は私がヤル」

ヤル、の字は『殺』だよね、と姉三人は思った。

「移動はどうするの?エミリーが転移魔法を使うと、いざという時に魔力が切れてしまうわよ」

「乗合馬車も怖いよねえ……強盗に遭ったりするって聞いたよ」

「うん。……問題は、そこなの。明日、図書館に行っていい方法を調べてくる。……アリッサ、付き合って」

アリッサの返事を聞かずに、エミリーはリリーにメイドの制服を二人分用意するように言った。


   ◆◆◆


魔法を無効化して姿を元に戻し、エミリーは三人に作戦を説明した。

「マリナが王太子妃候補から外されたのも、ジュリアがアレックスとの婚約を解消されそうになっているのも、お父様が捕まったのが原因」

「そうね。全てはそこよね」

「兄様は巻き添えだろうし、お母様はよくわかんないね」

「……うん」

アリッサは歯切れが悪い。マクシミリアンの提案が頭をよぎる。

「だから、お父様の無実を証明すれば、皆の婚約も元通りだし、……マシューもきっと、釈放される」

「エミリー……」

三人はしゅんとした。末妹が抱える問題は、婚約解消どころではない。王族暗殺未遂の罪で囚われているマシューには、下手をしたら一生会えないかもしれないのだ。

「王太子も、レイモンドもアレックスも、表立ってハーリオン侯爵令嬢と会えなくなってる。……全部、お父様が罪に問われたからって気づいたの。黙っていたら、破滅しかないって」

「うん!そうだよ、皆。エミリーが言う通りだ。黙って成り行きを見守るなんて、私達らしくないよ」

ジュリアがきりりと表情を引き締め、胸の前で握りこぶしを作った。

「……マリナの解呪と、マシューの釈放は、ハーリオン家の没落を防いでから」

「いいの?エミリーちゃん。早く釈放してほしいって思ってるのに」

「お父様に国王を説得してもらう。無理だったとしても、うちが没落しなければ、マリナが王太子と結婚する。……恩赦が絶対にある」

「そっか!お父様の無実が分かって、マリナの魔法を解いて、とっとと殿下と結婚すれば、全部丸く収まるってわけだね!」


複雑な顔をしているマリナの脇で、三人は今後の予定を立てていた。一月の半ばに、王宮で新年を祝うパーティーがある。婚約が微妙になっている状態では、恐らく出席しなくていいだろう。パーティーの三日後には授業が再開される。少なくとも二十日以上は調査に時間をかけられる。

「あのね、この間お邸に帰った時にね、お父様とお兄様が何かお話していたの。赤ピオリの種のこととか……一度、お父様の書斎とお兄様の部屋を調べてみたらどうかなあ?」

「書斎はいいけど、お兄様の部屋はヤバいよ」

「……マリナの私物が出てきたりして。マリナへの思いを込めた日記とか」

「あり得るね。……うん、怖いから、それはマリナに任せようか」

「嫌よ、どうして私が!」

「マリナが見たって言えば、兄様も許してくれそうじゃない?『私に興味があるのですか、マリナ。心から嬉しく思います』とかって、一人で盛り上がってさ」

ジュリアの声真似に、アリッサが口元を手で覆い、エミリーが唇の端を上げてにやりと笑う。

「図書館は、私とエミリーちゃんで調べるから、お父様の書斎はジュリアちゃん、お兄様のお部屋はマリナちゃんが調べてね。明日の夕方にもう一度、皆で話し合いましょう」

「賛成!」

「……了解」

「はあ……納得いかないわ」

マリナは髪を無造作に掻き上げて、自分のベッドにもぐりこんだ。


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