表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 12
522/616

355 悪役令嬢と有能な弟

「おかえりなさい!」

玄関ホールを走り抜けてきたクリストファーは、一番先に馬車から降りたジュリアに抱きついた。

「んーっ、クリスぅ。しばらく見ない間に、少し背が伸びたかな?」

顎の下まで伸びた癖のない銀髪をくしゃりと撫で、自分の背丈と比べる。頬を寄せて『すりすり』すると、クリスはくすぐったそうに目を細めた。

「うん、僕、大きくなったよ!明日になったらジュリア姉様より大きくなってるかも」

「ははっ、そりゃあいいや!」

「出迎えありがとう、クリス」

「マリア姉様!」

たたっ、と走り寄り、クリスは屈んだマリナの胸に飛び込む。

「ふふっ……マリナ姉様は、柔らかいなあ」

「ちょっと、クリス!どういう意味、それ?」

「……ジュリアが硬いってことでしょ。筋肉質だから」

後からやってきたエミリーがにやりと口の端を上げる。

「どうせ私は、マリナみたいに胸がないわよ!……あーあ、殿下が見たら、クリスに成り代わりたいって言うよ、きっと」

「……成り代わったら変態だから、それ」


「アリッサ姉様は?」

「まだ馬車から下りないの?」

「さあね。来る途中もぐずぐずしてたじゃん。レイ様に嫌われるーとか言っちゃって」

マクシミリアンにキスされたと、アリッサはレイモンドに告げた。事実を聞いた彼がその場にしばらくフリーズしたと、昨晩ボロボロに泣くアリッサから、三姉妹は聞かされていた。

「実家に帰ってきたから、気持ちをリセットできればいいのにね」

「……面倒くさ……ん?」

眉間に皺を寄せたエミリーは、ローブの袖を引かれて下を見た。

「エミリー姉様、魔法で遊ぼうよ」

六属性持ちの弟の『魔法遊び』は遊びではないよな、とエミリーはどっと疲れが押し寄せるのを感じた。


   ◆◆◆


「王女、さま?」

椅子に座って脚をぶらぶらさせているクリストファーは、ジュリアの提案に首を傾げた。ぱちぱちと瞬きを繰り返すアメジストの瞳も、さらりと流れた銀の髪も、女の子といっても通用する可憐さだ。

「うーんと小さい……赤ちゃんの時に会ったことがあるかもしれないね。クリスより一つ年下でさ、マリナのダーリンの妹なの」

「ダーリンて言わないで」

マリナがさっと頬を染めた。

「王太子殿下の、妹?」

「うんうん。金髪も青い瞳も、そっくりだよ」

「王女様と僕が、お友達になるの?」

「クリスには歳の近い友達がいないよね?アレックスと一緒に行って、王女様に会ってみたらどうかなあ?」


乗り気ではなさそうなクリストファーを説得するジュリアを、エミリーは白い目で見ている。アリッサは部屋に引きこもってべそをかいているため、ジュリアを止められるのは自分しかいない。

「……いい加減にして、ジュリア」

「何よ」

「アレックスの縁談を壊したいからって、弟を使うな」

「クリスに友達ができるんだし、いいじゃんか」

「クリスを連れて行っても、アレックスにブリジット様が降嫁なさるのは変わらないわ。ブリジット様にとって、クリスはこんなに可愛いから、女友達と同じにしか見えないと思うの」

マリナはクリスの頭を撫でた。銀髪に天使の輪ができている。

「マリナ姉様……僕、女の子じゃないよ!」

「だよねー。剣の練習もしてるんだもんね?」

満面の笑みでジュリアは弟を誇らしげに見る。

「将来は魔法騎士になるって決めたんだ!」

「……六属性持ちの魔法騎士か。最強だな」

「王女様が僕を、アレックスよりかっこいいって思ってくれたらいいんだよね?」

「おっ、クリス、やる気になったの?」

ジュリアが椅子から身を乗り出した。エミリーが窓を向いて溜息をつく。

「僕の方が絶対かっこいいよね?アレックスよりも!」

「……ん?」

動きを止めたジュリアの向こうで、エミリーが椅子の背を叩いて爆笑していた。


   ◆◆◆


「アリッサはどう?」

寝室から出てきたマリナに、ジュリアが問いかけた。

「まだぐずってるわ。キスの話を打ち明けられて、独占欲丸出しのレイモンドが気にしないはずはないものね。寮に戻るまで、碌に会話もできなかったらしいし」

「レイモンドも器の小さい男だなあ。キスしたくらいで」

「ジュリアは鋼の心臓だから……」

「っつーか、アリッサも言わなかったらよかったのにねえ。黙っときゃ、レイモンドも知らないでいたのに」

「アリッサがレイモンドに嘘をつけるかしら?レイ様に睨まれたら」

「レイモンド、怖すぎるからなあ。アレックスも怖がってたよ」


「アレックスにクリスを連れて行かせるつもりなの?エミリーは反対しているわよ。お父様がアスタシフォンで逮捕されて以来、ハーリオン家は王宮への出入りを制限されているのよ。邸の周りにも騎士がいたわ。私達の動向を探るために」

「勿論、気づいてたよ。私達が何かすると思ってるんだよ。馬車で出たらすぐに後を追われるね」

「こんな状況でクリスを外に出すのは、危険すぎると思うわ。いくらアレックスが一緒だとしても、ハーリオン家を陥れようとしている者からすれば、侯爵家の後継者を狙ういい機会だもの」

「マリナは反対なの?」

「反対よ。お父様とお母様がいない間に、クリスに万が一のことがあったら……。お母様が陛下の寵姫にならなかったおかげで、あの子は『とわばら』の物語とは関係なく生まれてきた子なの。私達が断罪されて死ぬのだとしても、あの子には幸せになる権利があるのよ」

「マリナ……私、軽い気持ちで、ブリジット様にクリスを会わせようって考えていたかもしれない。あの子もブリジット様も、『とわばら』の物語が予定通り進まなかったから生まれてきたんだよね。私達の破滅に巻き込んだらいけないんだ」

ジュリアはマリナの肩を叩いて項垂れた。


   ◆◆◆


「……いい加減にして」

中庭では、弟に引きずり出されたエミリーが、迷惑そうに眉間に皺を寄せていた。

「エミリー姉様!僕が目いっぱい魔法で撃つから、無効化してね!」

「……やだ。疲れた」

育ちざかりの弟は、五歳だというのにかなりの威力で魔法を放つ。闇魔法で全て無効化しているからいいものの、狙いが逸れれば邸が破壊されかねない。

「ええー?もっとやろうよ」

「クリス、いつの間に混合魔法ができるようになったの?」

「うーん……いつかなあ?エミリー姉様がやってるみたいに、闇と火とか、混ぜて撃てたらかっこいいなって思ったら、できたんだよ」

――思うだけでできたって、どれだけ能力高いんだ。

「……あ、そ」

「頑張ったんだよ?褒めて褒めて」

「……ヨクガンバッタネ」

「姉様、棒読みだよ?」

「今日は疲れたから、また明日にして」


弟の手を取り、部屋に戻ろうと促す。

クリスはまだ練習をしたいようで、体重をかけて手を引き、エミリーを庭に留めた。

「……姉様、あの人に会いたい?」

ドキン。

はっと弟を見る。クリスは天使の微笑だ。

「僕ね、遠見魔法が使えるようになったんだ。姉様が手伝ってくれたら、二人で王宮の中も見られると思うなあ」

――マシューを助けられる?

六属性持ちのクリスと二人なら、王宮の外側の魔法結界も、地下牢に張られた魔法結界も、突破して行けるかもしれない。でも、五歳の弟を危険な目に遭わせるのは……。

エミリーは自分がジュリアと同じことをしようとしていると気づき、何も言わずクリスをぎゅっと抱きしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ