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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 12
521/616

354 公爵令息は事情聴取される

【レイモンド視点】


「では、本当に、君は罠にかかっただけだと言うんだね?」

学院長は何度も念を押した。

「はい。僕には婚約者がおりますから、他の令嬢に……」

「その婚約のことだが……解消したという噂がある。どうなんだね?」

「全く根も葉もない話です。僕はアリッサさんと婚約を解消する気はありません」

世俗の噂に疎い学院長の耳にも、オードファン公爵が息子の婚約を解消させたがっていると聞こえているのだ。心の中では、何てことだと頽れそうになる。

「そうか……。ギーノ伯爵家では、フローラ嬢だけに非があるとは考えていない。君が誘ったと少なからず思っている」

やはりそう来たか。オードファン公爵家に直接ではなく、王立学院に訴えたのか。娘の将来を台無しにされたと。


「誘ってなどおりません。僕は魔法陣に……」

「我々が見たところ、魔法陣は既になかった。エミリーが無効化したと言っていたが、彼女は君の婚約者の妹だ」

「……何を仰りたいのですか?」

「こう言っては何だが……君がフローラ嬢を相手に過ちを犯したところに、殿下とハーリオン姉妹が乗り込んできて、フローラに君の罪をなすりつけたのではないか?」

学院長の瞳は真剣だった。魔法陣があった場所を見分したメーガン先生や、フローラから事情を聞いたフィービー先生は厳しい顔で俺を見ている。大方、女性の敵だとでも思われているのだろう。唯一、バイロン先生は渋い顔で成り行きを見守っている。俺の叔父だから当然だが。

「フローラが、そう言っていたのですか?」

「いいえ。彼女はあなたが好きで、あんなことをしたと言っていたわ」

フィービー先生が一歩踏み出した。

「では、何故?セドリック……王太子殿下もあの場に……」

「殿下の証言を疑うわけではないけれど、あなたと殿下は再従兄弟同士で、殿下にとってあなたは腹心の臣下でしょう。あなたを庇う気持ちは分からないでもないの」

「庇う?セドリックは真実を述べただけです!」

気持ちが昂り、つい呼び捨てにしてしまった。かえって俺達の親密さを強調する形になり、叔父が頭を抱えた。


「我々が得た証言は、殿下の目撃談とフローラの話と、君の話だけだ。証拠として回収した薬瓶は、危険な薬物を根絶するためと称して、翌日には殿下が持ち去ってしまったからね。何も調べる術がないのだよ。ギーノ伯爵は、我々に徹底した調査を求めてきている。娘が君に弄ばれ、ハーリオン姉妹によって罪人に仕立てられ貶められたと信じているのだ」

俺だけではなく、ハーリオン家を逆恨みしているのか?とんでもない勘違いだ。

「だからね、私達は証拠を探しているのよ。……あなたにフローラを誘惑する意思はなかった、その事実を示す何かをね」

フィービー先生は腕組みして、椅子に座る俺を見下ろした。


   ◆◆◆


証拠品の薬瓶はセドリックが持っている。誰かに分析を依頼していたとしても、何日かで回収できるはずだ。それだけではなく、薬を用意したのがフローラだと、店員の証言が取れればいいが。


ギーノ家の追及からどうやって免れようかと考え、教室に戻った俺に、クラスの男子三名が声をかけてきた。

「今帰りか?遅かったな」

「お前達も……ああ、補習か」

彼らは補習組だ。今日が補習の最終日だったはずだ。

「やっと終わったって感じだよ。レイモンドはいつもの事情聴取か?」

意味ありげにニヤニヤと笑う。不快な言い回しに俺は苛立った。

「まあな。なかなか信じてもらえなくてな」

「いい加減、認めたらどうだ?楽になれるぞ?」

「可愛いアリッサちゃんが他の男に連れて行かれて、悔しいから適当な女と遊んでましたってな」

「何だと?」

襟元に掴みかかりそうになる手をぐっとこらえる。ここで不祥事を重ねるわけにはいかない。

「他の男?誰のことだ?」

「お前の『公認』かと思ったが、そうでもないんだな。あいつ、二年の生徒会役員だよ」

「ベイルズ。平民の」

「銀雪祭のパーティーの日も、お前の婚約者をエスコートしてたぜ」


   ◆◆◆


役立たずのエイブラハムが、マクシミリアンにアリッサを渡したと聞き、俺は急いで二人の後を追いかけた。アリッサがマクシミリアンと親しげに会話をしているのを見て、全身の血が逆流した気がした。

マクシミリアンを追い払い、俺はアリッサを問い詰めた。

「君は、マックスとどういう関係なんだ?」


アリッサの瞳から涙が溢れた。

「……っ……」

「アリッサ?」

何も言わず、ぽろぽろと涙を零すだけだった。それが全ての答えなのか?

「……レイ様……ごめ、……なさ……っ」

「泣くな。君に泣かれるのはつらい」

「ごめ、ん、なさ……」

謝り続ける彼女を抱きしめる。俺は訊いてはいけないことを訊いたのだろう。婚約者の俺に謝らなければいけないような関係なのだ。真実を知るのはこれほど苦しいとは思わなかった。

「何があったのか、俺に教えてもらえるか?」

指でそっとアリッサの涙を掬う。大きなアメジストの瞳が潤んでいる。言うのを躊躇っているのだ。

「……言えません。……言ったら、レイ様は私が嫌いになります。汚らわしいって、見るのも嫌になります」

「君を嫌いになったりしないと誓う。……頼む、アリッサ。君の苦しみを分かち合いたいんだ」

「レイ様は……お優しいですね」

そっと俺の胸を押して身体を離すと、アリッサは弱々しく微笑んだ。


体調が戻らず、普段の倍の時間がかかってしまいました。(泣)

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