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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 12
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347 悪役令嬢は褒められて喜ぶ

「只今戻りましてございます、旦那様」

「おお、どうだった?レイモンドの様子は」

オードファン公爵邸の奥、公爵の書斎に現れた男は、ぼさぼさの茶色い髪を後ろに束ね、主人と目が合うとにやりと微笑んだ。

「ええ、それはそれは、メロメロですよ」

「やはりな。アリッサとの婚約は、あいつが望んだ縁組だからな」

公爵は腕組みをして、ふう、と息を吐いた。


「騎士団が各地に散らばり、ハーリオン侯爵領を調べている。まだ具体的に何か証拠が出たわけではないが、ボロが出るのも時間の問題だろう。アーネストは私の幼馴染で、悪事を働くような男ではないと思っている。しかし……異国で捕まるような犯罪を犯した以上、オードファン家としては、彼の娘との婚姻は避けねばならん」

「レイモンド様はお気持ちを変えないと思いますがね……俺に説得できるとお思いですか」

「歳が近いお前ならあるいは、と思わんでもない」

「全然だめですよ。俺なんか、何を言っても坊ちゃんに信用してもらえないクチですからね。今日だって、アリッサ様を可愛いって褒めただけなのに、本気で牙をむくんですよ」

「ほう……」

「旦那様?」

「お前は彼女……アリッサ・ハーリオンをどう思う?」

「どうって……ちょっと頼りないご令嬢、ですかね?坊ちゃんとよく難しい本の話をしてましたが」

「聡明で可愛らしい令嬢だろう?」

「まあ、そうですね。俺の周りにはいないタイプだな」


公爵はゆっくりと笑みを深めた。

「そうだろう、そうだろう。彼女はなかなかいない、魅力的な令嬢だ。お前が夢中になっても仕方があるまいな」

「えっ……?何をおっしゃっているんですか、旦那様?」

「レイモンドがアリッサを手放さないというのなら、別の策で行く」

「ギーノ伯爵令嬢との縁組をお考えになるんですか?当家からすればかなり格下ではありますが、悪くはないかと」

「いずれはそれも考えておこう。……俺が言いたいのは、アリッサの方から別れを切り出させる方法だ」

「アリッサ様は坊ちゃんしか目に入りませんよ?」

「入るようにしてやればいい。誰か、適当な男を見繕って宛てがえ。都合がいい者がいなければ、お前が誘惑するんだ」

「へぇえ?俺が、ですか?」

驚いた執事見習いは、自分の顔を指さして固まっている。

「やらなければ、辺境の狩猟小屋の番人にするぞ」

「旦那様まで坊ちゃんみたいなこと言わないでくださいよぉ……」

エイブラハムは頭をかかえ、広い背中を丸めて項垂れた。


   ◆◆◆


校舎の前で、怪しい風貌の長身の男がうろうろしている。

「アリッサ、変な男がいるわ。一度教室にもどりましょう?」

鋭く視線を走らせたマリナは、誰かを探しているような彼の様子を注意深く観察した。

「あれは……レイ様の執事なの」

「レイモンドの?」

「名前は、確か、エイブラハムっていってね。レイ様が危険な目に遭わないようにって、公爵様が送って寄越した護衛なの」

「寮には決められた数の使用人しか連れて来られないはずよ?」

「うん。だからね、今だけ特別らしいの。……フローラちゃんの一件で、ね?」

フローラの名を耳にし、マリナの顔が曇った。アリッサが悲しげに微笑む。


「あ、アリッサ様!お待ちしておりました」

エイブラハムは恭しく礼をした。マリナはどうしたらいいか分からない。アリッサは執事と言ったが、ぼさぼさの髪を後ろでちょいっと結っているのも、剃りきれていない無精ひげも、着崩した燕尾服も洗練されていない。どう見ても公爵家の使用人らしくない。妙にがっしりした肩や腕が、余計にそう感じさせる。

「レイ様は?」

「そろそろ出てくると思って待ってるんですよ。あんまり遅いようなら、俺がアリッサ様を送っていきますよ。夜道は暗いですから」

「え……マリ……姉も一緒なので、結構です」

「遠慮なさらず。レイモンド坊ちゃんも、可愛い恋人に怖い思いをさせくないと思うでしょう」

ゴリゴリ押してくるエイブラハムを見て、マリナが苦笑している。

「私、先に帰っているわね。アリッサはレイモンドとデートしてくるのでしょう?」

「うん。ごめんね、マリナちゃん」


   ◆◆◆


マリナが寮の近くへさしかかった時、向こうからアレックスが走ってくるのが見えた。かなり焦っているように見える。

「アレックス、どうかしたの?セドリック様に何か?」

「ああ、マリナ。ジュリアを見なかったか?」

「ジュリアは見ていないわ」

「そっか…・・。実はさ、レナードを呼び出して、どっか行ったみたいなんだよな。マリナは外周を抜けてきたんだろう?」

「そうよ。アリッサはレイモンドと一緒に中庭に行ったわ。もしかして、あっ!」

「何だよ」

「レナードとジュリアも中庭を通っているかもしれないわよ」

アドバイスを受けて、アレックスは大きく頷いた。

「ありがとうマリナ。やっぱお前は妹のことをよく分かってるな」

褒められて嬉しい。マリナは気をよくしてアレックスに笑いかけた。


2018.2.17 誤記修正

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