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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 12
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346 悪役令嬢と知られざる婚約

「やったー!冬休みだぁあああ!」

終業式を終え、クラスに戻ったジュリアは両手を握って高々と上げ、三軒隣に聞こえそうな声で絶叫した。

「うるせーぞ、ジュリア!」

ジェレミーが太い腕を振り回して威嚇するが、ジュリアは気にも留めない。

「何よ。あんただって、休みになって嬉しいでしょう?」

「……嬉しい……わけねえだろ!俺は毎日訓練ができなくて悔しいんだ!」

苦し紛れに言ったものの、ジェレミーはそれほど訓練が好きではなさそうだ。剣技科の実技の時間も基礎練習を嫌って逃げ出している。

「そう。それなら学院に残ればいいじゃない。実家に帰らない三年生もいるし、たっぷりしごいてもらいなさいよ」

「ちっ……口が減らない女だな」

睨みながらこちらへ歩いてくる。ジュリアまで残り数歩となったところで、間に二人の騎士、もといジュリア親衛隊が立ちはだかる。

「おっと、ここは教室だよ。剣の練習は訓練場でね」

レナードがやんわりと言い、ジェレミーの腕を掴む。

「練習試合がしたいってんなら、俺が相手になるぜ?」

アレックスは持ち帰るために机の上に置いていた剣に手をかけた。

一年生の中で一、二を争う実力がある二人を前に、ジェレミーは悔しそうに引き下がった。


   ◆◆◆


寒風が吹く冬の帰り道。

三人は並んで、外周の道を歩いていた。この頃三人で帰るのが定着している。

「別に、ジェレミーくらい返り討ちにしてやったのに」

ジュリアは両隣のアレックスとレナードに文句を言った。ラスボス化していないジェレミー相手なら、スピードで振り回せば勝てそうな気がする。

「俺が許せなかったんだ。気にすんなよ」

「私が気にするの!二人に守られてたら、腕がなまっちゃうよ」

「いつでも練習相手になるよ?何なら、今からでもいいよ。……アレックス、先に帰って」

「おい。練習に行くなら俺も行くぞ。お前ら二人だけにできねえし」


――二人だけ、か。

ジュリアの頬が赤みを帯びた。先日、レナードと二人だけで練習をした時のことを思い出す。後ろから抱きしめられ、首筋にキスされて齧られた。

――にしても、齧るか?フツー。


「今日はマフラーをしないんだね」

銀髪を高く結い上げた襟足にレナードの視線を感じる。

「あ。マフラー、教室に忘れた!取りに行くから、バイバイ!」

休みに入る前に取って来ないと、とジュリアは二人に手を振った。髪を靡かせて振り返らずに校舎へ走っていく。


「何だよ……忙しい奴だな」

「アレックスは休み中もジュリアちゃんと会うんだろ?」

「うん。まあな。王宮でパーティーがあるから」

「パーティーか……。ジュリアちゃんは出られるのかな?」

「どういう意味だよ」

「ハーリオン侯爵様が外国で捕まったって噂、どうやら本当みたいだからさ。マリナちゃんも殿下の妃候補から下ろされて……ジュリアちゃんだけが参加できるとは思えなくてね」

「それは……」


父・ヴィルソード侯爵からは、ブリジット王女との婚約話を進めるため、ジュリアとの婚約を解消するように迫られている。幼い王女をエスコートする必要はないが、ジュリアを公の場に連れ出せない。アレックスは眉を顰めた。

「ジュリアちゃんは図太いから、多少のことでは動じないと思うよ。でもさ、貴族の噂話は怖いからね。酷い非難中傷を受けたら……」

「ああ……そうだよな。俺、考えなしだったかも」

口では肩を落とすアレックスを慰めつつ、レナードの唇は弧を描いていた。


   ◆◆◆


教室に戻ると、自分の席の上に白いマフラーが引っかかっている。

「あった。よかったぁ」

さっと首に巻き、ドアに向かう足が止まる。

――んん?

閉じられた扉の向こうから、何やら人の話し声がする。生徒はとうに帰っている時間なのにおかしいと思い、ジュリアは聞き耳を立てた。


「ええと……あの……」

「あなたがこの教室に用事があるなんておかしいわよね?」

「それは、……その……」

――誰?

聞き覚えがある声だ。ドアを薄く開けて覗くと、そこにはピンク色の髪が見える。

アイリーンだ。もう一人は……。

「ビヴァリーさん、あなた、普通科でしょ?剣技科の教室の前をうろうろして、何かしら?」

「そ、そういうあなたこそ、魔法科ですよね?」

「私は用があったのよ。……帰ったみたいで会えなかったけれど」

「わ、私も、そうです……」

ビヴァリーの胸には、綺麗にリボンがかけられたプレゼントが抱きしめられている。可愛い系ヒロインであるアイリーンは、女子の中では決して背が高い方ではないが、小柄なビヴァリーは常に見下ろされ、びくびくと小動物のように怯えている。


「それ、誰に?」

「えっ……」

「随分大事そうにしているわよね。もしかして、レナード・ネオブリーに渡すの?」

「……っ!」

――ビヴァリーが、レナードを?

学院祭の時からいい雰囲気だったな、とジュリアは思い返した。チャラ男のレナードの言葉は半分嘘だとしても、ビヴァリーが彼を見る瞳は恋する乙女のものだった。アイリーンはレナードも攻略しようとしているのだろうか。ここは是非とも、ビヴァリーを応援したいところだ。


「渡しても無駄よ。レナードはあなたのものにはならないわ」

「わ、分かってますっ……レナード君は、ジュリアさんが好きだから……」

「フン。そんなこと、誰が見ても分かるわよ。……私が言いたいのは、あの二人は近々婚約するってことよ」

「婚約!?」

ビヴァリーは泣きそうな声で唇を震わせた。覗き見をしていたジュリアも、つい声を上げそうになり、自分で自分の口を覆った。

――何だってぇええ!?

アレックスに王女との婚約話が来ているのは聞いたが、何故に自分とレナードが?詳しく聞こうにも両親が不在でよく分からない。アイリーンのほら話であればいいのだが。


泣きながらビヴァリーが走り去り、アイリーンが満足そうに後姿を見送ったのを見て、ジュリアはそっとドアを開けて教室から離れた。

――直接レナードに訊くしかないよね……。

マフラーを巻き直し校舎の外に出る。一際冷たい風が吹き、ジュリアは紫の瞳を細めて、顎をマフラーに埋めた。


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