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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 11 銀雪祭の夜は更けて
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【連載7か月記念】閑話 レメイデの日 2

レイモンドが父の宰相に呼ばれて部屋を出て行き、セドリックはアレックスに引き続きレメイデの日とは何ぞやについて講義をしていた。

「レメイデはね、愛の女神なんだよ。神殿は王都にもあってね」

「レメイデの日とか、俺、全然知りませんでしたよ。うちの両親、常にベタベタしてるんで」

「騎士達は噂をしないのか?」

「恋愛の話はタブーなんですよ。モテない奴が可哀想だって、父上は言ってました」


「ふうん。……そうだ、アレックス」

「何です?」

「僕達が確実にチョコレートをもらうためには、どうしたらいいと思う?」

「前もって『チョコください』って言っておくとか」

セドリックは目を伏せて頭を振った。

「全然なってないね、君は。素直に頼んで、チョコをもらっても嬉しくないよ」

「そっすか?俺は嬉しいけどな……」

「こっちから頼んでいないのに、相手がチョコを用意してくれている。……思われているって実感しないかい?」

「よく分かりませんが……びっくりするかも」

「うん!それだよ。驚きはやがてときめきに変わるんだ。僕はうんとときめきたい!」

「頼まないのにどうやって?」

腕組みをして考えたアレックスは、ポーズだけで終わった。何も思い浮かばない。


「言ったよね。レメイデの神殿が王都にあるって」

「……神殿……」

「明日は確実にチョコをもらえるように、女神に祈るんだよ!さあ、今からでも遅くない。すぐに馬車を用意させよう!」

部屋からスキップで出て行ったセドリックを追い、アレックスは廊下に出て左右を見回した。レイモンドはまだ呼ばれたままだ。

「マジか……。殿下と二人で?」

後からレイモンドに知られて、抜け駆けしたと後から言われるのは避けたい。アレックスは近くにいた王太子の侍従に、レメイデの神殿に行くと言づけた。


   ◆◆◆


街に買い物に出たマリナ達は、アリッサが包み紙やリボンを買った店に入った。レメイデの日の贈り物のために、店内には若い女性がごった返している。

「うわー、超混んでる」

「三人でまとまって動くのは非効率的ね。各々気に入ったものを買って、終わったら店の前で待っていることにしましょう。馬車までは遠くないけれど、アリッサがはぐれてしまうわ」

「ごめんね?私も少し買い足したいの。このお店、便箋も可愛いのがいっぱいなの」

「レイ様に手紙書くの?」

「アリッサの手紙は長すぎるから、便箋が余計に必要なのよ」

「だって……レイ様にお話ししたいことがたくさんあるんだもん」


マリナは青に銀で模様が入った包み紙と金色のレース風のリボンを買った。ジュリアは店員に相談し、金色で細かい文字が入った赤い紙袋と、形ができあがっているリボンを選んだ。袋に入れて口を閉じ、リボンを貼れば完成である。不器用なジュリアでも見栄えよくできそうだ。

「お待たせ」

最後まで便箋を選んでいたアリッサが合流し、三人は大通りを歩いて馬車を待たせた場所へと向かった。


「あら?」

「どうしたの、マリナ」

「今、馬車が通ったのだけど……あの紋章は王太子専用車だわ」

「お忍びにしては堂々としていたよね」

「あっちって、山手の方だね。……何かあったっけ?」

丘の方を見てジュリアが目を細めた。山肌に白っぽい建物がいくつか並んでいる。

「確か、神殿がいくつかあったはずよ。公務で行かれるのかしら」

「今日は王宮で晩餐会があるから、王太子殿下とレイ様は王宮にいると思うよ?」

「そうよね……私の見間違いね、きっと。行きましょう。夕暮れが近いわ」

三人は小走りで馬車へと急いだ。


   ◆◆◆


「殿下……帰りましょうよ」

「何を言っているんだ、アレックス。僕達は鋼の意志を持って、この神殿を訪ねているんだよ」

「鋼なのは殿下だけです。俺は別に……」

「アレックスはジュリアからチョコをもらいたいものとばかり思っていたけれど、そうでもなかったんだね」

「ええっ?……俺は、も、もらえるなら、欲しいと思いますよ」

二人が歩いているのは、丘の上の神殿へと続く細い道だった。傾斜がきつく、馬車が通れる幅がないので歩いて上がるしかない。二人の後ろからセドリックの護衛がついてきているのだが、二人は自分達だけで薄暗い道を歩いていると思っている。

アレックスは前後左右に目を光らせて警戒している。夕暮れ時に細い路地で襲われたら、帯剣していない自分ではセドリックを守れない。恐ろしくて仕方がなかった。一方のセドリックは、お化けの類は全面的に苦手だった。薄暗くなってきて、いかにも『出そう』な頃合いだが、日が出ているうちに神殿についてしまえばいいと思い、とにかく急いで移動していた。ずんずん先を歩くセドリックをアレックスが一歩引いて追いかけ、日没前に神殿に入った。


「はあー。やっとですよ」

「小道が長かったね。来る途中で皆に手を振ったからくたくただよ」

「殿下、モテモテでしたね。……そういや、皆女の人ばっかりで」

女性たちは間近で見る美形王太子セドリックにきゃあきゃあと黄色い声を上げていた。

「上は母上と同じくらいの歳の……下は僕達より少し年上かな。若い人が多かったね」

「レメイデの日が明日に迫ってますし、その……こ、ここ、こ、告白とか、するんじゃないですか」

「ふふ。アレックスが鶏になったかと思ったよ」

「?」

「では、行こうか。急がないと晩餐会に遅れるよ」

次の予定があるのに、行き当たりばったりで神殿に来てしまった。セドリックは少しだけ後悔した。


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