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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 2 暴走しだした恋心
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37 悪役令嬢はデートに誘われる

ジュリアンへ


よお、げんきか?

かえったばっかりだから、げんきだよな。

さっきはおこってわるかった。だからあやまる。ゆるしてくれ。

はなしはかわるが、いちばのそばにたびげい人がきているそうだ。

父上から、一か月くらいいるってきいた。一しょに見に行こう。


アレックスより


   ◆◆◆


「……下手な字」

「子供の手紙だもの、こんなものだわ」

「アレックスなりに頑張って書いたんだ。バカにしたら悪い」

「ジュリアちゃん優しいね。ところどころ読めないのに。アレックス君は、もう少し文章を書く練習をしたほうがいいと思うの」

アレックスの手紙は、文章のところどころに綴り間違いがあり、黒で塗りつぶして書き直してある。急いでいたのか清書する気はなかったようだ。ひどい出来栄えにエミリーが顔を顰める。

「学院全女子の憧れ、王太子側近でもある騎士団長の息子が、こんなバカとはね」

エミリーがアリッサから手紙を取り上げて、紙の隅を摘んでひらひらさせる。ジュリアがすぐに奪い、マリナは再度文面に目を通す。

「ジュリアが帰ってすぐ書いたのね」

「次の稽古の約束をしてこなかったから」

ふうん、とエミリーが目を細める。

「それだけかしら」

「練習の約束を取り付けるだけで、こんなに焦って手紙を出すもの?」

「アレックス君はジュリアちゃんと練習がしたいのよ、ものすごぉく」

アリッサが手を大きく振っている。読書家の割に、量の表現が幼稚である。

「旅芸人を見に行こうと誘ってきた。旅芸人なんて毎週のように来ているわよ。どうでもいい口実に縋ってでもジュリアとのつながりを絶ちたくないのね」

「デート?」

「ちがっ!そんなんじゃないってば。男同士だっての!」

「返事、出すんでしょう?」

「……出さない」

「えっ!?」

三人が声を上げる。誘われて返事もしないなんて。

ジュリアは椅子の背に放っていた上着を肩にひっかけ、髪を適当に結うと

「出かけてくる!アレックスん家に!」

と姉妹の部屋を後にした。


   ◆◆◆


ハーリオン家の紋章入りの馬車でヴィルソード家の門へ寄せると、使用人が開けるより早く馬車を飛び降りる。玄関に差し掛かると、年若い従僕が慌てて中に走る。ジュリアの来訪を伝えに行ったのだろう。

間もなく奥からアレックスが走り出てきた。

「ジュリアン?ど、どうした?」

「手紙をもらったから来た」

「う、ああ、そうだったな」

アレックスの視線が彷徨う。もう手紙を出したことを忘れていたのか。

「次の約束をしなかったからだろう」

「それもある。だけど、俺……」

歯切れが悪い。言いかけてやめるなんてアレックスらしくない。

「お前が怪我してるの知らなくて」

「ん?」

怪我?何のことだ?

「掴みかかったとき包帯みたいなのが見えた。胸を怪我しているんだろう?」

――見られた!

ってゆうか、見られたのにバレてないの?

ジュリアは胸に巻いた布を見られたことより、自分の胸が女と認識されなかったことに愕然とした。

「ジュリアン?」

ここは勘違いに便乗するに限る。ずっと布を巻いていくことにはなるが。

「ああ、そうなんだ。ベッドから落ちてさ、はは、はは……」

「お前寝相悪いもんな」

小さい頃は二人で一緒のベッドに昼寝したこともある。寝相が悪すぎるジュリアがアレックスを蹴り落とし、ベッドわきの小さい机に顔面を強打したアレックスが床に転がり鼻血を出した。あまりの惨劇に慌てた侍女が父侯爵に報告し同衾を禁じられた。

「……痛かったろ?」

「ううん。大丈夫……うわっ」

ばしっ。

アレックスの少し骨ばった手を摑まえる。傷を労るつもりでも、自分の胸をさすっていたのは許せない。

「触るな」

「ごめん。やっぱり痛いんだな」

そういう問題ではなくて。乙女の胸を軽々しく触るな。

ジュリアはまた、触られても女と認識されない自分の胸が悲しくなった。十二歳の四つ子姉妹の中では、自分の身体が一番凹凸がない気がする。

「心配かけたな、アレックス。俺はもう大丈夫だから」

「そうか。辛くなったら言えよ。練習は健康な身体があってのものだからな」

アレックスは騎士団長である父の言葉の受け売りをした。トレーニングに狂っている彼の父は、部下の前でもよく体が資本だと言っている。ジュリアは頷いた。

「ありがとう。旅芸人一座を見に行く日、いつにしようか」

「そうだな。うちの馬車で行くから、お前の都合がよければいつでも」

「おとう……父上と母上に聞いてみて知らせるよ」

客間に案内しながら、アレックスはジュリアを見つめていた。ジュリアが視線を上げると、必ず目が合う。

「何か言いたいことでもあるのか?」

「いいや」


   ◆◆◆


二人で侍女が淹れた紅茶を飲んでいると、玄関ホール付近が賑やかになった。ヴィルソード侯爵、騎士団長が帰宅したらしい。数分のうちに彼は客間に現れた。

「おう、ジュリアン。来ていたのか」

「お邪魔してます、小父様」

「ゆっくりしていけ、と言いたいところだがな」

騎士団長は赤い髪をかき上げ、ふぅと深呼吸する。服装はいつもの騎士服だが、ところどころ汚れている。何があったのか。

「俺はしばらく王宮に詰めることになった。息子の友達とはいえもてなすこともできない主不在の家に、君を置いていくわけにはいかない。君の父上、ハーリオン侯爵も王に呼び出された。今日のところは家に帰りなさい」

子供だけで過ごさせて、何かあっても責任を負えないということか。閑職についている父まで呼び出しとは、一体何があったのか。ジュリアは騎士団長の言葉に頷き、ヴィルソード家をお暇することにした。

帰りがけにアレックスが、くどいほど旅芸人を見に行く約束を念押ししてきた。見に行くにも同伴する大人が必要である。王宮で何かあったなら、しばらく出かけるのはお預けだろうなとジュリアは思った。


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