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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 11 銀雪祭の夜は更けて
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【連載7か月記念】閑話 レメイデの日 1

バレンタイン特別編です。(2日程度続きます)

王立学院に入学する前の2月が舞台です。

マリナはセドリックの妃候補として王妃の茶会で紹介済み。ジュリアはアレックスに女だとバレた後です。アリッサはレイモンドと婚約しています。


「はあー。近づいてきたねえ」

カレンダーを見ながら、ジュリアが溜息をつく。

「皆どうすんの、今年のレメイデの日」

レメイデの日とは、愛と豊穣の女神レメイデを讃える日である。乙女ゲーム『永遠に枯れない薔薇を君に』略して『とわばら』の中では、所謂バレンタインイベントが起こる日である。


「どうしようかしらね。アリッサはレイモンドにあげるんでしょう?」

「うん。プレゼントは用意したし、後はチョコだけ」

「こっちの世界さ、チョコはチョコなんだよねえ」

「私もそれ、不思議に思ってたの。お菓子のチョコレートはそのまま同じ名前なのね」

「プレイヤーが分かりやすいようにでしょう。……そう、アリッサは手作りするのね」

「もちろん!」

自信満々のアリッサはうふふと笑う。

「いいなー。作ったら私にも頂戴」

「ジュリアちゃんが食べるの?試作品ならいっぱいできるけど……」

「ううん。包んでアレックスに持ってくの」

「ええー?自分で作りなよぉ」


楽しそうにはしゃいでいる姉達の傍で、エミリーは長椅子に横になっていた。

「……るさい」

「あら、起きたの?」

「いいよね……あげる相手がいて」

「……ごめん」

「ごめんね、エミリーちゃん」

場の空気が暗くなった。エミリーは三人を気遣い、寝るのをやめて部屋から出て行った。マシューは廃魔の腕輪をつけられてどこかへ行ってしまい、エミリーは恋愛にやる気をなくしているようだ。

「作ったら、エミリーにもあげましょう?」

「美味しい物を食べれば元気が出るよね!」

「美味しくできればいいよね……」

一人張り切るジュリアに、アリッサは一抹の不安を覚えた。


   ◆◆◆


ハーリオン侯爵邸の厨房にて。侍女のエプロンを身に纏い、マリナ、ジュリア、アリッサの三人は材料を前にして腕まくりをした。

「いいねー。このナッツ、うまそう」

ぽりぽりぽり……。

「ジュリアちゃん、食べたらダメだよ。材料がなくなっちゃうよ」

「融かして固めるだけだけれど、私達、今世では料理をまともにしていないでしょう?上手にできるか不安だわ」

「マリナは何でもできるじゃん。ヨユーだよ、ヨユー」


王都の店で買った板チョコを融かす。時々お菓子作りをしているアリッサが主導し、マリナが手伝って作業が進んでいく。ジュリアは傍で「わぁお」だの「すっごい」だの「やるねー」だのと囃し立て、二人を鼓舞する係である。

「ジュリア、気が散るから黙っていて」

「……冷やし固めるのに、私はハートの型を使うけど……マリナちゃんはどうする?」

「私は……いいわ。こっちの丸いのにするわ」

「ハートでいんじゃね?殿下が喜ぶよ?あ、それとも兄様にハートのをあげるの?」

義兄ハロルドは王立学院の寮にいて、父や弟のように直接渡すことはできない。使用人の誰かに届けてもらう予定だ。

「どっちも丸でいいの!……もう、ジュリアはどうするのよ?」

「私?こっちの鉄板にちょっとずつ垂らして、そこにナッツを乗せようかなって」

「いいよね、小さくて食べやすそう!ジュリアちゃん天才!」

「でっしょー?思いついた時、自分で自分を褒めたくなったよ」


そんなこんなでチョコレートを冷やす段になって、マリナはふと考えた。

「ねえ、アリッサ。包むのはどうするの?」

「可愛い袋と包み紙を用意してあるよ?リボンもいろいろ。図書館の帰りに買ってきたの」

「準備いいねえ」

三人は別室で、アリッサの包み紙コレクションを鑑賞した。全体的に淡い色合いの、アリッサ好みの色柄である。ジュリアはすぐに不満を口にした。

「赤いのないの?バレンタインって言ったら赤でしょ?」

「女神レメイデは豊穣の神だもの。豊穣って言ったら、緑でしょう?」

「レイモンドは緑が好きかもしんないけど、アレックスは赤一択でしょ」

「あら、それを言ったら青が欲しいわ。ロイヤルブルーの」

二人の意見にアリッサは頬を膨らませた。

「んもう!二人で好きなのを買ってきたらいいじゃない!」


   ◆◆◆


その頃。

グランディア王国の王宮のとある部屋では、男子三人がレメイデの日談義を繰り広げていた。

「明日は僕のチョコレートが一番大きいと思うよ。絶対に!」

「フン。アリッサはいつでも最高の贈り物を俺にくれる。お前には負けん」

バチバチと意味もない火花を散らすセドリックとレイモンドは、王立学院から王宮に来る馬車の中でも言い争いをしていたらしい。王太子の側近として同じ部屋に籠められたアレックスは、はらはらして二人を見ていた。


「あの……何で喧嘩してるんですか?」

「喧嘩ではない」

「喧嘩はしていないよ。僕達は愛情の深さを競い合っているんだ」

「あいじょう……」

「お前には分からないかもしれないが、レメイデの日のチョコレートと言えば、愛のバロメーター。大きさで本気度が分かると言われている!」

レイモンドは腕を広げ、舞台役者のようなオーバーアクションをした。アレックスはもう、どうしていいか分からず、

「そうなんですか?」

ととりあえず相槌を打った。


「僕はマリナから、今年こそ、こーんな、大きなチョコレートをもらうよ!」

部屋の隅から隅まで走り、チョコレートの大きさを表現したセドリックだが、アレックスは

「……意気込みがすごいですね、殿下」

としか言えない。そんな大きなチョコレートがあるならお目にかかってみたいものだと思った。

「うん!去年の雪辱を……」

「俺は去年ももらったがな。セドリックは初めて、チョコレートをもらえると期待しているんだろう。マリナが王太子妃候補として正式に認められて、初めてのレメイデの日だからな」

「信じているよ。僕は、必ず……」

セドリックは鼻息を荒くして、青い瞳をきらきらと輝かせた。


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