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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 2 暴走しだした恋心
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36-2 悪役令嬢は攻略対象に探りを入れられる(裏)

【アレックスの回想】


ジュリアンがヴィルソード家に遊びにくるようになって、何年経ったか。俺達は当然のように剣の稽古をして話をする。

「へえ。マリナが王太子殿下と婚約ねえ……」

ジュリアンの姉のマリナは、いかにもお嬢様って感じの女だ。言葉づかいも丁寧だし、挨拶もうまい。王太子妃になるにはそんなタイプじゃないと務まらないんだろう。ま、俺のタイプじゃないし、どうでもいいが。

「俺達もそんな年になったってことか」

頭の後ろで手を組んで、俺は芝生の上に体を投げ出した。うちの庭はどこでも寝転がれるからありがたい。興味のないふりをしながら、俺はこの間の父上の話を思い出す。伯爵令嬢と婚約しろという。

「まだまだ子供のままでいられると思ったのにさ。十五、六になって婚約者もいないようじゃ、売れ残りって言われても仕方ないんだって」

「大変だな、女は」

「だよね」

顔が日陰になり、ジュリアンが隣に座ったのが分かった。見上げると小奇麗な顔でこちらを見ている。

「お前も婚約したりすんの?」

侯爵家の俺に縁談があるのだから、同じ侯爵家のジュリアンにも縁談がいくつも来ていて不思議はない。人形みたいに綺麗な男だから、社交界に出れば令嬢にモテるだろう。

「しない」

「じゃあ、好きな奴は?」

ふと気になって尋ねる。俺らくらいの歳になると、気になる子の一人くらいいても不思議じゃない。この頃は侍女のエレノアにも馴れ馴れしくしていない。

「あのなあ、アレックス。女みたいに恋の話でもするつもりか」

一般論のつもりで言ったのに、ジュリアンはイラついていた。顔が近くに来ると、紫色の瞳や長い睫毛が気になって胸が高鳴った。

「俺は婚約するつもりもないし、好きな奴もいない!変な勘繰りはよせ!」

小さな赤い唇が動くのを呆然として見ていた。怒りで上気している頬がうっすら赤い。

――まずい。

俺はジュリアンを退かして起き上がった。

「う、うん、分かった。俺が悪かった、ジュリアン」

心臓がやばい音を立てている。何だ?俺はいったい……。

いくら綺麗な顔をしていて、華奢だからって、ジュリアンは男だぞ。

男だ、男。

「……おい、アレックス?」

「あ、わ、悪い。ぼーっとしてた」

「んっとに、やる気あんの?」

ジュリアンは俺の手を引いて立ち上がらせた。

「ぼんやりしてたら、いつまでも勝てないよ?」

笑った顔に見とれている自分に気づき、俺は真っ赤になって奴に挑んだ。


   ◆◆◆


一頻り練習し、中庭のベンチに座る。

ジュリアンは手を動かして、指先を見ているようだった。

「手、痛むのか」

剣がかすった時にでも軽く切ったのか。隣に座ってよく見たが傷はない。

「いや。……小さい手だなと思って」

「そりゃ子供だからな」

ジュリアンが俺の手を引っ張り、自分の手と重ね合わせてくる。俺は手汗が気になって慌てた。

「おい」

「ほら、お前の方が大きい」

こいつの手はなんだってこんなに小さくて白いんだ。同じように外で剣を振り回しているのに。

「うちは父上があんなだから、放っておいても俺もでかくなんだろ。お前んとこは、ま、あんまり……」

ハーリオン侯爵は素敵な男性だが、男らしいかといえばそうでもない。ジュリアン同様綺麗な人だ。

「お父様は優男だから」

「……前から思ってたけど、お前、まだお父様お母様って呼んでんの?」

「おかしいか?」

「んー。学院に入る歳になったら直さないと、冷やかされるぜ」

ジュリアンを冷やかす奴がいても、俺がぶちのめしてやるけどな。

「考えとく。そうだよな、いつまでもお前が注意してくれるわけじゃないし」

「何だよ。学院で剣技科を選ぶんだろ。そうしたら毎日一緒だろうが」

王立学院は、王都に邸があっても全寮制だから皆寮に寝泊まりする。科が同じで幼馴染、同じ侯爵家の子なのだから、俺とジュリアンの部屋は隣の可能性が高い。一年生のうちは相部屋になることもある。距離を置きたがる理由が分からない。

「どうかな。誰かさんが落第するんじゃないか?」

何だと?

「うるせー」

ジュリアンの肩を掴む。どこもかしこも俺よりずっと華奢で細い。白い服のボタンが飛んで、ジュリアンが声を上げた。

第一ボタンが留めていた部分が開き肌が見えた。鍛えているとは到底思えない細い首に、深く影を落とす鎖骨。それから、白い……包帯?

「やめろ!」

「痛っ!」

俺を突き飛ばしたジュリアンは、真っ赤になってベンチに凭れていたが、

「ごめん。今日は帰る!」

と唐突に走り去った。


   ◆◆◆


その後。

俺は寝室でジュリアンのことを考えていた。

考えないようにしようとしても、すぐにあの顔が浮かぶ。紫色の瞳に俺だけが映り、赤い唇がキスされそうなくらい近くにあった。

……いや、何を考えているんだ。ばかばかしい。ジュリアンは男だ。

男だ。……多分。

何だか自信がなくなってきた。

そう言えば、ジュリアンが自分を男だと言ったことがあったか?

騎士になろうと鍛錬を重ねている割には、腕も細いし首も細い。何回思ったか分からない。肩だって掴んだら折れるかと思ったほどだ。またしても感触が蘇り、胸が高鳴る。

俺が男だと誤解していただけなのか?

ジュリアンはやっぱり男で、男にドキドキしている俺がおかしいのか?

次に会ったらどういう顔をしていいのやら。

……待てよ。次の約束はしたか?

ジュリアンが走って帰っただけで、約束はしなかったような。

よし。ここはとりあえず。

次の約束をいつにするか、手紙を書いてみることにするか。


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