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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 11 銀雪祭の夜は更けて
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333 悪役令嬢は待ち合わせ場所から攫われる

「待ち合わせは……ここでよかったよね……」

講堂へ続く廊下の途中で、アリッサはそわそわしながら柱時計を見つめた。学院の廊下にはところどころに時計があるが、どれもクラシックな柱時計である。ボーンボーンと鳴らないようになっていて、黙々と時を刻んでいる。

朝にレイモンドから連絡があり、ここで待っているように言われたものの、時間が経つにつれて自信がなくなってきた。

「講堂の手前の廊下、時計の前……うん、いいはず……」

目の前を手を取り合って進む男女が、立ち尽くすアリッサをちらりと見ていく。レイモンドから贈られたドレスは品が良く華があり、アリッサの清らかな美しさをこれでもかというほど引き立てている。ドレスが美しいのに、自分は満足にダンスのステップが踏めない。レイモンドが褒めてくれたとしても心は晴れないままだろう。もうすぐ大勢の生徒がいるフロアでダンスをしなければいけないと思うと、アリッサは緊張で足が竦んでいた。


「どうかしましたか、アリッサさん?」

待ちぼうけを食らったアリッサに声をかけてきたのは、待ち人ではなかった。

「あ……マックス先輩……」

彼の目を見ないように視線を外し、アリッサは廊下の向こうに意識を向けた。

「レイモンド副会長なら、先ほど会長と学院長室へ行かれましたよ。来賓を出迎える際の細かい打ち合わせでしょうか」

「そうですか……」

生徒会の代表として来賓に対応するのは、役割の一つだから仕方がない。生徒会長にセドリック王太子が就いたことで、学院行事に国の要人が出席する機会が増えたとも聞いた。未来の宰相と目されているレイモンドが王太子に付き従うのは当然だった。

「時間がかかりそうですから、先に会場に行かれては?」

「私……一人だと迷ってしまうので……」

マリナにここまで連れてきてもらったものの、講堂へ行ける自信がない。手前の廊下を曲がってしまったり、行き過ぎてしまったり……可能性は否めない。

「廊下で立っているのもあまり……婚約者を放置していると、レイモンド副会長が陰口を叩かれると思いますし、私がエスコートしますよ」

「せ、先輩は、パートナーの方が……」

「生徒会の仕事が忙しいと思いましたので、パートナーなど最初からおりません。尤も、平民の私をパートナーに選ぶご令嬢など、この学院にいるとは思えませんが。ですから、あなたは堂々と、私にエスコートされてください」

アリッサの返事を待たずに、マクシミリアンは彼女の手を取った。


   ◆◆◆


「はあ……」

セドリックががっくりと肩を落とした。

「浮かない顔で溜息ばかりつくのはよせ。来賓に失礼だぞ」

「こんな役目、レイに任せてしまいたいよ。僕は会場に行って、僕の天使を遠くから眺めたいんだ。

「天使か。久しぶりに聞いたな。マリナにドレスを贈ったのだろう?」

「勿論だよ。青に金の……」

「またお前の色のドレスか。独占欲もほどほどにしないと呆れられるぞ」

「マリナは青が好きだからいいんだよ!うーん、早く見たいなあ」

「分かっているとは思うが、『見る』だけだからな。近寄ったり、触ったりしたら……」

「『見る』だけにするよ、うん。アイリーンをエスコートしなくちゃならないし。……でもさ、他の子にこっそり変えられなかったのかな?」

「マックスが魔法の箱を使ったんだ。選んだ紙に書かれた内容が、魔法で箱に浮き出るアレだ。お前のパートナーを巡って、後から文句を言われないようにと配慮した結果だろうが、まったく……余計なことをしてくれたものだ」

レイモンドが苛立ちを隠すように、中指で眼鏡を押し上げた。


「マリナとダンス踊れたらよかったのにな。父上からまた、マリナと踊るなって手紙が来たんだよ。レイのところはどう?」

「父上は、何度か俺に使いを寄越した。アリッサとの婚約を解消するから、同意しろと。返事はせずに追い返している。ハーリオン家が家族ぐるみで罪を犯したなどと、一体誰が言い出したのか。侯爵と父上は親友だったはずなのに、掌を返したように罪人扱いするとは」

「そうだよね。普通は、友達を信じようとするよね?ハーリオン侯爵が王都に戻ってくれば直接話が聞けるのに、アスタシフォンに囚われたままだし」

「……誰か、陛下や父上を扇動している人物がいる?」

「え?それって……父上や宰相は誰かに操られて、ハーリオン家をつぶそうとしているってこと?」

「扇動している人物の狙いは、ハーリオン家全体なのか、侯爵本人か、夫人か、はたまた妃候補のマリナか……。『命の時計』をかけられたクレメンタインの関係者が王宮深くに入り込んでいるとは考えにくいが、俺達の知らないところで、何かが動き出しているとみて間違いないだろう」

「リオネルが言っていた通り、僕達とマリナ達の間には、ある種の運命めいたものがあって、逃れられない酷い結末に向かっているのかな。……僕は、マリナを苦しめたくないのに」

拳を握りしめたセドリックが顔を上げると、遠くから「馬車が到着した」との知らせが聞こえた。


   ◆◆◆


「はあ……エミリーさん。とても素敵です!」

「……ありがとう」

「紫色が良くお似合いですね」

キースは頬を染めて、うっとりとエミリーを見つめている。女子寮まで迎えに来ると言った彼に、エミリーは会場まで転移魔法を使うから来るなと言ったのである。その結果、会場の入口で初めて、ドレスアップしたエミリーを見たキースは、完全に舞い上がってしまっていた。


「紫……黒の次に好きなの」

「そうですか!いやあ、喜んでいただけてうれしいです!」

いつもはもう少し穏やかに話す彼だが、今日はやたらと熱血少年風だ。エミリーは熱量を感じる話し方が嫌いだった。

「……少し、静かにしてくれない?」

「えっ……あ、すみません。僕、嬉しくて……」

「婚約者のふり、だからね?」

「はい」

「間違っても、『本当』じゃないから」

「……はい」

「勘違いしないで」

「…………はい」

だんだんと頭を下げていくキースに満足し、エミリーは彼の顎に手をかけた。

「……っ!」

「いつまでしょんぼりしてるの。顔上げて、さっさとエスコートして」

「は、はい!」

顔を上げたキースの瞳はキラキラと輝いていた。また彼の頭の上に尖った耳が、背後にふさふさの尻尾が見えた気がして、

「……ワンコ?」

とぼそりと呟いた。

「何ですか?」

「ううん。何でもない」

不思議そうに首を傾げたキースは頭を掻き、紫色の髪がさらさらと揺れた。


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