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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 2 暴走しだした恋心
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35-2 悪役令嬢はスコーンをこぼす(裏)

【セドリック視点】


公務が忙しい時期でも、父上と母上は僕と一緒に朝食をお取りになる。だから、僅かな雰囲気の違いにも気づかれてしまう。

「今日は随分ご機嫌なのね、セドリック」

母上は僕がどことなくそわそわしていて、ぼーっとしたり、つい鼻歌を歌ったりしていたのを見てそう言った。

食事中に歌うなんて行儀が悪い。分かってはいるけれど。

「その曲、この間音楽室から聞こえてきたわ」

「マリナが弾いてくれたのです」

半ば強引に事実上の婚約を決めて以来、取るに足らない用事で僕は彼女を何度も呼び出している。本当はこちらから赴きたいが、出かけるには護衛をぞろぞろ引き連れていかなければならず、侯爵家の迷惑になるだろうと思い、王宮に彼女を呼び寄せているのだ。

「仲が良いようで結構なことだ」

「ありがとうございます。父上」

父上は目を細めて嬉しそうだ。この分だと、王立学院を卒業する前に結婚を認めて……。

「どうした、にやにやして。ん?」

「な、んでもありません。」

この国では十六歳で結婚が認められている。結婚できる年齢になる前に、婚約者を見つけておくのが貴族の習わしである。学院への入学が十五歳なのもあって、入学までに婚約していない貴族令息・令嬢は躍起になって学院内で相手を探す。学院が小さな社交界と言われるのはそのためだ。王太子である僕が、学院入学前に婚約していなかったら、嫁ぐ家格のある令嬢はこぞってアプローチを仕掛けてくるのだろう。マリナという完璧な婚約者がいても、あるいは。だから、できれば早いうちに、学院の卒業を待たずに婚約者から夫婦になってしまいたい。

「マリナちゃんが来る日なのよね?」

「はい」

「そうか。つい数日前にも呼んでいなかったか?」

「はい。……その、僕から、会いたいと手紙を……」

「んまあ!」

母上は両手を胸元で握り目を輝かせた後、デザートが運ばれてくるまで僕を質問攻めにした。


   ◆◆◆


中庭に用意させたテーブルで、僕はマリナと向き合った。

一対一はよくないらしく、僕の学友にさせられた騎士団長の息子アレックスと、マリナの妹のジュリアが一緒だ。邪魔だが仕方がない。ジュリアはいつも男の恰好をしていて、女だというのはアレックスには秘密らしい。いつ気づくか、そういうゲームなのだとマリナから聞かされた。

「この間のドレス、王妃様の反応はいまいちでしたね」

二人目の子供を身ごもっている母上は、夜もあまり眠れないらしく、日中も少しぼんやりしていることが多い。晴れない気分を少しでもお慰めしたくて、僕はマリナにドレスを着せてもらい、見せに行ったのだが。

「うん。母上はこのところ、随分とお疲れのようだから。先日も眩暈がしてお倒れになられたんだ」

「心配ですわね。どこかお悪いのでは……」

「そのう……、お腹に僕の弟か妹がいるから。父上はとても心配されて、公務のない時間は常に母上に付き添っておられるんだ。」

貴族の間では王妃の懐妊は周知の事実だが、僕が生まれた時、つまり前回より母上の経過が思わしくないのもあり、国民への発表は控えられている。母上を溺愛している父上は、少しの体調の変化にもおろおろして、公務に身が入らない状態だ。ああ、でも、マリナに子供ができたら、僕も……。頬が熱を帯びる気がする。

「では、なかなかドレス姿をお見せできませんね」

そうだ、ドレスの話だった。

「うん。昨日もマリナがいないときに、侍女にドレスを着せてもらって、母上のお部屋に行ったんだ。そうしたら母上はあまり喜ばれなかったし、僕も、なんだか……」

ドキドキしなかった。侍女がてきぱきと僕にドレスを着せてくれて、マリナに替えてもらうより半分の時間で済んだ。だけど、違うんだよ。

「殿下?」

「……君に着せてもらうほうがいいって思った」

ピアノを軽やかに弾いた君の指が、僕の肌にも軽く触れる。綺麗な桜色に塗られた短い爪が、時々僕を引っ掻いてしまい……。思い出すだけで動悸が早くなる。

「私より、侍女の方が慣れていますわよ」

「うん。だけど、なんか違う」

侍女に触られても何とも思わない。マリナ、君じゃなきゃダメなんだ!

「ねえ、マリナ。お願いがある」

「何でしょうか」

「君の手で、僕の服を、脱がせてみてくれないか」

僕は彼女の手を取って懇願した。心からの期待を込めて。


   ◆◆◆


行儀の悪いジュリアが、口から何かを零したせいで服を汚し、着替えがないとの理由でマリナ共々帰ると言う。僕の持っているドレスに着替えるよう薦めたら、ジュリアは驚いて戸惑っていたし、アレックスはドレスとジュリアを交互に見ながら顔を赤くしていた。ただ、マリナがものすごくきつい目で僕を見たので、それ以上押しつけることはしなかった。もうひと押しすれば、彼女はもっと僕を睨んだだろう。

それはそれで胸が高鳴るのだけれど。

三人が退出した後で、僕は侍従に言いつけて道具を持ってこさせると、マリナに宛ててすぐに手紙をしたためる。

今日のお礼と、それから……心からのお願いを。

――君の手で、僕の服を、脱がせてみてくれないか。


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