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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 10 忍び寄る破滅
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309 悪役令嬢は魔法で飛ばされる

「パーティーには出ない。学生の頃から、出ないことに決めていた」

「どうして?」

「ダンスは相手と距離が近い。魔力の相性が悪いと、手に触れるのも嫌で仕方がない。特に光が主属性の相手は最悪だ。ダンスの授業中に医務室に行ったこともある」

魔力が高すぎるのも大変だな、とエミリーはしみじみ思った。ダンスを踊ったことがあるのはキースくらいなものだが、彼と踊っても身体に不調はきたさない。自分は鈍感なのだろかとさえ思う。


「……なら、何で私は大丈夫なの?」

「……」

マシューは真っ赤になって俯いた。普段は表情が変わらないが、赤くなるとよく分かる。

――以外と可愛い。耳まで真っ赤だ。

エミリーはマシューを虐めてみたくなった。

「……ねえ、教えて?」

「……らだ」

「?」

「……お前は、特別だからだ。心地よくて、ずっと触れていたくなる」

そっと大きな掌がエミリーの頬を包む。キスの予感に胸を躍らせた時、

「!」

二人は同時にドアの方向を見た。

「この気配……?」

「魔導士だな。それも、大勢……」


バン!

「結界なし!罠なし!」

若い魔導士がドアを開けて声を上げ、階段を上ってくる大勢の足音がした。すぐにドアから溢れて室内に男達がなだれ込んでくる。服装から魔導士と兵士のようだ。

「マシュー・コーノックだな」

「……ああ。俺がマシューだ」

ぎゅっとマシューのシャツを掴むエミリーに、マシューはふっと優しく微笑んだ。

「教室に戻れ。いいな」

トン。

肩を押されてベッドに倒れる瞬間、辺りが白い光に包まれる。

――転移魔法?こんな時に!

「王太子暗殺未遂、並びに傷害罪で捕縛する!」

霞んでいく視界の中、男達が無抵抗のマシューにロープをかけ、鈍く光る魔導具で拘束している。

「やめて!マシューを放して!」

転移魔法を無効化してマシューに駆け寄ろうとするが無効化できない。彼の魔力はエミリーより上だからだ。

――やだ。こんなのって、酷い。

次第に何もかもが真っ白になっていき、エミリーは身体に衝撃を感じた。


   ◆◆◆


絶叫したエミリーが落ちた先は、白いリネンが目に眩しい医務室のベッドの上だった。

物音に気づいたロン先生が、前を全開にした白いローブを着て、ポケットに手を入れたまま気怠そうに歩いてきた。

「いらっしゃい、エミリー。ベッドに飛ばされてくるなんて、実技で怪我でもした?」

「……マ、マシューが……」

起き上がったエミリーの傍に腰かけ、よしよしと頭を撫でる。

「はいはい。泣かない泣かない。ここに飛ばしたのはあいつで間違いないわね?」

「……はい」

「あんたがそんなにボロボロ泣いてるくらい、まずいことがマシューに起こった。で、合ってる?」

「……」

エミリーはこくんと頷いた。大粒の涙がアメジストの瞳から溢れる。


「学院内にまとまった魔力の気配がしたなあと思ったのよね」

「……魔導士と、兵士が大勢きた。マシューが王太子を暗殺しようとしたって言って」

「はあ?んなわけないじゃない。どこに目ぇつけてんだか、最近の騎士団は。魔法でマリナが狙われた話は、リックから聞いてるわ。宮廷魔導士は魔法の治療に当たったり、魔法の影響を調べたりしてるって。犯人の手掛かりは騎士団が追ってたらしいんだけど、見当違いもいいところよ」

ぼふ。

ロン先生は憤慨して枕に鉄拳をお見舞いした。

「マシューを逮捕する気だったから、先生には何も情報が入らなかったんですか」

「そう。あたしにも、リックにもね。……ねえ、エミリー。マシューの無実を証言できるのは、一緒にいたあんただけだと思うよ」

「……」

「聞いてる?」

「……ロン先生、王立図書館の地下書庫に行ったこと、ありますか?」

「重要文献がある部屋のこと?」

「はい。連れて行かれる前に、マシューが言っていたんです。マリナが受けた魔法は危険なもので、術式や呪文を書いたノートは地下書庫に保管されているって」

「……ちょっと待って。マリナが受けたって……『命の時計』を?」

ロン先生は色白な顔を青くして、赤紫色の髪を無造作に掻き上げた。

「はい」

「……嘘でしょ?」

「嘘じゃありません」

はあ、と溜息をついたロン先生は、ベッドから立ち上がってお気に入りの肘掛椅子に脚を組んで座った。


「地下書庫に保管されているノートに書かれた危険な魔法なんて、あれ以外ないと思ったけど……うーん、大変なことになったわね」

「マシューは、地下書庫には王族か公爵家なら入れるかもって」

「公爵家は王家の血族だから。他にも、爵位に関係なく、騎士団長、魔導師団長、王立学院長、王立博物館長は入れるらしいわ。あ、勿論、王立図書館長なら、全館どこでも入れるわよ」

「博物館長!?」

エミリーの目が輝いた。

「そ。あんたのお父様に頼んでみたら?」

「そうします」

ノートがあれば中身を確認すればいい。ノートが失われていたら、それは何者かが盗んで魔法を使った証拠になる。必然的に盗んだのは地下書庫に入れる身分の誰かに絞られる。

――突破口が見えたかもしれない。

「ありがとう。ロン先生。少し希望が持てた気がする」

「どういたしまして。デートついでに王宮の広場に行っただけで逮捕されるなんてねえ。ホント、あいつはついてないわ」

ロン先生は肩を竦めて小さく笑った。


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