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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 10 忍び寄る破滅
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304 公爵令息は調べ物をする

【レイモンド視点】


エミリー・ハーリオンに腕輪をつけられてから、俺の頭痛は止むことがなかった。

「レイモンド様!おはようございます!」

ピンク色の髪をふわふわさせて、アイリーンが駆け寄ってきた。

「……ああ、おはよう」

「久しぶりにお顔を見られて嬉しいですっ」

「……そうか」

呻くように言うと、アイリーンは俺の腕に腕を絡めてきた。頭痛の波が酷くなり、思わずふらついてその場で膝をついた。


「きゃあ、レイモンド様、しっかりなさって」

これ見よがしに俺を労る素振りを見せて、アイリーンは俺の隣に屈みこんだ。

「……あら?」

頭を押さえた俺の手を見て、一瞬冷たい表情をして、すぐに作り物の笑顔に変わる。

――作り物?

まさか。この天使のような彼女が作り笑顔など……。

目の前がぐらぐら歪んでいく。

――天使?この女のどこが?


「レイモンド様、このアクセサリー、とっても素敵ですねぇ」

エミリーにはめられた腕輪にアイリーンが触れた時、

「キャッ」

と声を上げて手を引っ込めた。

「な、んですか?これ。ビリビリしましたよ?」

「さあな」

適当に返事をする。アイリーンは悔しそうに唇を噛んだ。


   ◆◆◆


二時間目の授業が終わり、俺はセドリックのいる二年一組へ顔を出した。

「ああ、今日から登校だったね」

「忘れていたような口ぶりだな」

「忘れてなんかいないよ。……ちょっと、他のことで気を取られていてね」

他のこと?

誕生日を境に、また公務が増えたのだろうか。

「公務のことか?銀雪祭には出られるんだろう?」

「うん。パーティーには出るよ。……パーティーの準備は、マックスが滞りなく進めてくれている。僕がいなくても生徒会は……」

「今日は出られないのか」

「用事があるんだよ。皆によろしく」


その時は特段気にも留めなかったが、セドリックは休み時間に教室から一歩も出ていないと後からクラスメイトに聞いた。昼休みも食堂に行かず、侍女に用意させた昼食を持ってきているようだ。

何か引っかかる。

俺を謹慎させたことといい、近頃のあいつは……。


   ◆◆◆


三時間目が自習になった。

銀雪祭のパーティーについて、過去の資料を調べるため、俺は資料室に足を向けた。

王立学院の資料室は、開学以来の膨大な資料を魔法でまとめている。部屋の四方には天井まで続く高い本棚があり、調べたいことを念じながら中央にある半球形の輝石に手をかざすと、本棚にある資料が光を放ち手元に下りてくる仕組みになっている。入学してすぐに生徒会に入って以降、何度も調べ物をした、行き慣れた部屋だった。


資料室の近くで、今朝見かけたアリッサとエミリーが連れ立って歩いていた。アリッサは物言いたげに俺を見つめていた。何故か心が騒ぐが、無視して資料室を目指した。

「銀雪祭、パーティー」

呟いて輝石に手をかざす。

赤い石が緑色に色を変え、光をまき散らしながら反応する。周囲の本棚から関連した資料が下りてきて、俺の前にある机に重なった。

何冊かざっと目を通す。現国王陛下が王太子時代に、学院の銀雪祭パーティーはどのようなものだったのか。王族がいる年といない年、王族の婚約者がいる年、それぞれに少しずつ内容が異なっていた。現国王陛下が王妃殿下を正式に妃候補とする前のパーティーの資料を読んでいた時、ふと気になった。


――セドリックはマリナとダンスをするのか?

あんな高慢ちきな女を妃にするくらいなら、パーティーを欠席したほうがましだろう。

銀雪祭のパーティーでは、国王陛下は王妃殿下と踊らず、この年はハーリオン侯爵夫人と踊っていたらしい。記録にはそう書いてある。ハーリオン侯爵夫人は国王陛下の二番目の妃候補……ん?二番目?

王妃殿下の次点ということではなく、歴代二人目ということか。彼女が王立学院に入学してすぐに妃候補に選んだとある。つまり、一人目との事実上の婚約を解消したのだ。

広げた本の文字を指で辿っていると、突然本が光り出し、活字が宙に舞い並びが変わった。

――これは……!

資料にかけられた魔法は、時折読む者を選ぶ。伝えたい相手が開いた時のみ、真実の情報をもたらしてくれるのだ。

俺はこの資料に選ばれたのだと分かった。光りながら紙にとけ込むように下りて行った文字を目で追う。王太子が最初の妃候補クレメンタインとの婚約を解消した理由がそこには書いてあった。


クレメンタインは『命の時計』により時を失い、転地療養することとなった。


何だ?『命の時計』?聞いたことがないな。

すぐに輝石に触れ、『命の時計』の資料を探す。数冊の本が俺の前に下りてきて、必要な情報が書かれたページを開く。

「……魔法か!」

『命の時計』は、不治の病に冒された王を円満に退位させるために、何度か使われたことがあるらしい。しかし、時として健康な者に使用された例があり、当時は王太子だった現国王陛下の初めの妃候補・クレメンタイン嬢は、何者かによって『命の時計』の魔法をかけられた。突然体調が悪化し、転地療養を余儀なくされた結果、妃候補から外されてしまう。代わりに王太子の幼馴染であったソフィア・モディス公爵令嬢が候補になったと書かれている。王太子が現王妃を見初めた後は、モディス公爵令嬢は妃候補から降り、ハーリオン侯爵夫人となったのだが、モディス公爵は一人娘を王妃にしたかったに違いない。クレメンタイン嬢が魔法にかけられたのも、公爵の仕業ではないかというゴシップ記事が目に入った。


「ん?」

資料の間に白っぽい何かが挟まっている。手に取ると毛糸のようだった。

古ぼけていないそれは、つい最近誰かがこれを調べた証拠だ。『命の時計』の魔法で、王太子妃候補を陥れようとしているのか?

輝石に手をかざし、『命の時計』を調べた者は誰かと問う。

宙に光の板が現れ、見たことがない数名の名前が浮かぶ。調べた時期は十年以上も前だ。

「アリッサ……?」

一番下に、俺の婚約者らしい彼女の名前を見つけた時、手首の腕輪がキンと音を立てた。


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