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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 10 忍び寄る破滅
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297 王太子は婚約解消を打診する

本日夜2話目です。

【セドリック視点】


マリナが魔法弾に撃たれた日の夜、僕は自室で一人泣いた。

疲れているから早く休みたいと言うと、侍従達は僕の気持ちを察して一人にしてくれた。ベッドに入り、今朝の幸せな時間を思い出す。

指の間をすり抜ける艶やかな銀髪。真っ赤になって僕の腕を退かそうとして……。


――胸が、痛い。

二度と彼女に触れられないのだ。

僕が近づいたらマリナの命はどんどん削られていく。僕にできることはただ一つ。彼女の傍に寄らず、遠くから見つめるだけだ。


マリナが倒れてからしばらく、ハーリオン侯爵夫人とエミリー、それからコーノック先生が様子を見ていた。母上が言い含めて侯爵夫人を帰らせ、エミリー達も夕方になる前に帰ってしまった。ステファニーがつきっきりで看病している。外傷はないが、身体の中にある魔法の核がマリナを蝕んでいるらしい。

客用寝室に入った瞬間にマリナが苦しみだした。あれくらいの距離を取らないと、マリナの命が縮んでいくのだろう。学院でも廊下ですれ違うだけで苦しませてしまう。決して広くない生徒会室で話し合うのも難しい。ダンスのパートナーなんて以ての外だ。


銀雪祭のパーティーが十日後に迫っている。王族がいる場合は、パーティーのファーストダンスを踊る習わしだ。相手は婚約者か妃候補と決まっている。何もなければマリナは僕と、皆が見ている前で踊ったのだろう。彼女とファーストダンスを踊らなければ、何事かと生徒達に勘繰られてしまう。危険な魔法にかかったと知られれば、マリナを妃候補から外すように主張する貴族も出てくるかもしれない。


――いや、それが正解だ。

マリナの命を縮めないために、僕は彼女を遠ざけるべきなのだ。父上と母上に相談して、マリナを妃候補から外してもらう。……僕のために、彼女を死なせるわけにはいかない。


   ◆◆◆


翌日の朝、僕は父上と母上に相談を持ちかけた。午前中に公務が入っていなかった二人は、私室で僕の話を聞いてくれた。

「マリナちゃんと、別れる!?」

母上が絶句した。親友の娘であるマリナを殊の外気に入っているから無理もない。

「何かあったのか?昨日の襲撃騒ぎで、あの子を守る自信がなくなったのか?」

父上は椅子から身を乗り出して僕の肩を掴んだ。

父上と母上は、襲撃でマリナが怪我をしたと思っている。魔導士の判断で、『命の時計』が身体の中にあるとは知らされていない。本来、病床にある王を苦しませずに死に至らせるために、禁忌の術式を書いた魔法書が残されていたのだ。父上が不治の病にかかったら、本人に知らせずに『命の時計』の魔法をかける。父上には教えられないと言われた。

僕は将来国王になるが、マリナの命を縮める当事者であり、知らないでいればマリナを殺しかねないから教えたのだと言われた。


「王族になれば当然、狙われることも多くなる。昨日は彼女がお前を庇って怪我をしたから、怖くなったんだろう?」

「いいこと、セディ?マリナちゃんがあなたを庇ったのは、王太子妃なら当然のことなのよ。私だって、陛下が盗賊に襲われた時に身を挺して庇ったことくらいあるわ」

「あれは君が魔法で撃退したんだったな。雷撃で周辺の森が少し焼けた」

「私を敵に回すとどうなるか見せてやったのよ。……とにかく、昨日のことはマリナちゃんがそうしたくてしたんだから、気にやまないこと!『僕のせいで』とか変にウジウジしてるとかえって嫌われるわよ」

母上は僕の目の前に指を突き出した。

「……そうか。あれは嫌われていたんだな……」

遠い目をした父上が、咳払いをして僕に向き直る。


「王太子妃候補から外すということは、実質的に婚約解消だ。お前はさておき、マリナ嬢には不名誉なことなんだぞ。ましてや、巷の噂や昨日の朝の件で、貴族の中には彼女がお前のお手付きだと信じている者もいる。筆頭侯爵家の令嬢と言っても、縁談を持ちかける貴族がいるかどうか……。アーネストは妥協しないだろうが、万が一、年寄りの後妻にでもなってみろ。晩餐会でエロ爺に抱きつかれているマリナ嬢を見て、お前は黙っていられるのか?」

「……あなた。お言葉に気を付けて」

「うむ。だが、言っていることは分かるだろう?セドリック。お前が彼女を好いているなら、手を離すべきではないのだ。幸せにしたいのなら全力で守れ」

父上と母上の話は尤もだ。僕だって、幸せにできるのならそうしたいと心から思う。

――だけど、無理だ。僕は彼女にとって、死神でしかない。


「分かりました。父上、母上」

「よかったわぁ、思い直してくれて」

「自信がなくなる時は誰にでもある。お前達はあんなに民に祝福されていただろう?自信を持て」

父上の大きな掌が僕の頭を撫でた。

「……はい」

二人には二度と、婚約解消なんて言えないと分かった。



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