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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 10 忍び寄る破滅
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296 悪役令嬢は贈り物の話をする

襲撃事件から三日後、マリナはセドリック付きの侍従に付き添われて王立学院へ戻った。大事を取って、登校は明日からにすることにしている。

「身体も何ともないのよ?午後からでも出席できるのに」

「まだ本調子ではないと、治癒魔導士の方が仰ったのですから、今日は無理をなさいませんように」

不満を口にしたマリナをリリーが諌める。居間の椅子に座ると、傍らに籠に入って編みかけのセーターが置いてある。

「まあ、綺麗な編み目ねえ」

「アリッサ様が何度も解いてやり直していらっしゃいましたもの」

「私の編んだものに比べたら、アリッサの編み物はずっと上手なのよ?編み直さなくてもいいと思うわ」

「ええ。ジュリア様も同じようなことを仰って、アリッサ様が拗ねていらっしゃいました」

制服の下に着られるように、Vネックのセーターにしたらしい。レイモンドが好きそうなアイボリーの細い毛糸を使っている。編み目が非常に細かいが、この数日でここまで編んだのだろうか。恐ろしいほど手際が良い。

「銀雪祭の贈り物にするのね。……間に合うかしら?」

「あと一週間ですから、アリッサ様なら間に合わせられるのでは?」

「無理して夜更かししないといいわね」


   ◆◆◆


「それは……心配ですわねえ」

「明日から授業に出るってマリナちゃんは言うんだけど、昨日まで立てなかったくらいなの。無理はしてほしくないなって思って」

フローラはうんうんと頷いた。

マリナがいない間、アリッサはフローラと昼食を取っていた。朝はジュリアがアリッサを教室まで連れて行き、教室移動は他の生徒にお願いして声をかけてもらい、かろうじて校内で迷子になるのを防いでいる。ジュリアとエミリーが誘ったが、フローラと食堂に行くことにしたのだ。


「マリナ様は銀雪祭のパーティーにお出になるのかしら?体調が戻らないなら、殿下とファーストダンスを踊るのは無理ですわ」

「そうだよねえ……」

「アリッサ様はどうなさいますの?レイモンド様は謹慎中ですけれど」

「明後日には登校するって、ジュリアちゃんがアレックス君から聞いたの」

伝え聞きの情報ばかりだ。仮にもレイモンドの婚約者なのに情けなくなる。

「レイモンド様が登校なさったら、パーティーのことを聞かれたらよろしいですわ。ドレスの色を合わせるご相談もされていないのでしょう?」

「うん……最近、まともにお話もできていなくて」

アリッサは眉を下げて笑った。彼が登校し始めても、まともに話ができるとは限らない。


「仲直りから始めるおつもりですのね」

「一方的に嫌われちゃったの。……仲直りできるかなあ?」

「きっとうまくいきますわ。銀雪祭で贈り物を交換して……あら、アリッサ様は何をご用意されましたの?」

「セーターを、ね。制服の中に着られるようなものを」

「まあ!もしかして手編み?」

「……うん。銀雪祭までにできるように頑張ってるの」

微かに口元が綻ぶ。フローラはアリッサの手を取り、

「応援しておりますわ。アリッサ様」

とにっこり笑った。


   ◆◆◆


「アレックス、今日の帰り、ちょっと付き合って」

「何だよ」

休み時間が来るたびに机にうつ伏せて寝ているアレックスは、声をかけられてレナードを睨んだ。

「……眠いんだよ。毎晩宿題してるから」

「宿題?」

試験の翌日から、学院は半日授業で宿題は出されていない。レナードは腕組みをして考えた。

「グロリア先輩に宿題出されてたのか?」

「一緒にいたくせに知らなかったのかよ」

「ジュリアちゃんは宿題やったの?」

「私は勉強会の時間で終わったから。……アレックスは予定したところまで終わらなかったから宿題になったの」

レナードは額に手を当てて、口を半開きにして呻いた。

「追試の前でそれはかなりヤバいぞ。明日だろ」

「俺も流石にまずいと思ってるよ。だけど、ここまできたら後は運次第っていうか。……ところで、帰りに何すんの」

「剣の練習をしようかと思ったけど、試験前だしな。やめておくよ。試験が終わったら本気で試合をしよう。……ダンスのパートナーをかけて」


がばっとアレックスが跳ね起きた。

「パートナーだって?」

「勝った方がジュリアちゃんと踊るってのはどう?」

「はあ?ジュリアの相手は俺に決まってるだろ?こ……婚約者なんだから」

「婚約者だからって踊って当然って?」

レナードの猫目が細められた。

「知らないのかな……銀雪祭のパーティーは、自由にパートナーを決めていいんだってさ。兄貴達から聞いた。ジュリアちゃんもアレックスの荒いダンスに疲れたら、俺を選んでもいいんだよ?」

「へー」

机の上で腕を組んでいるジュリアは、どうでも良さそうに呟いた。

「うわ、考えてみるとかないの?」

「んー。アレックスのダンスについていけるのって、私くらいだからさ。私がレナードと組んだら、アレックスが一人になっちゃうじゃない。幼馴染として可哀想な気がする」

「ありがとう、ジュリア。やっぱお前は優しいな」

「可哀想だけど、あのダンスはちょっと……。歩幅が大きすぎるし、動きが大きくて足が痛くなるんだよなー」

顎が外れそうなほどに口を開けてアレックスは泣きそうな顔になっている。

「ジュリア……」

婚約者によしよしと頭を撫でられてだらしなく口元を弛めたのを見て、レナードは机の下で拳を握りしめた。


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