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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 9 王太子の誕生日
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286 悪役令嬢と絡み合う天使

変態王子が少々暴走しています。

ガラガラガラ……。

馬車の車輪が回る音がする。

王家の紋章が入った王太子セドリック専用馬車は、無言の二人と冷や汗を垂らす侍従を乗せて王宮へと向かっていた。


一時間ほど前。

女子寮の自室に帰り、籠城を決め込んでいたマリナの元に、セドリック付きの若い侍従がやってきた。何度か王宮でも見かけている顔なじみの彼だ。

「マリナ様、お迎えに上がりました」

「王宮へは行かず、明日、街でお会いしましょうと、セドリック様に」

「な、なりません!」

若い侍従は半べそをかいてマリナに縋った。

「な、何ですの?」

「お願いです、マリナ様。私をお助け下さい。マリナ様を車寄せまでお連れできなければ、私は殿下の侍従を辞めさせられてしまいます!」


車寄せにある馬車で待っていたセドリックに、マリナは一言、

「この人でなし!」

と顔を見るなり罵声を浴びせた。

「何のことかな、マリナ」

「私を連れていかないとクビにすると言ったそうですわね?彼のご家族は八十歳を超えた寝たきりのおばあ様と、高齢のお父様、病弱なお母様に、社交界デビュー前の若い弟妹が四人、七年前に結婚された奥様は出産間近で、六歳を筆頭にお子さんが四人いるそうですわ。侍従としての破格の収入がなければ、十三人が路頭に迷うのですよ?」

「そうだね」

――知っててやったの!?

「彼なら必ず、マリナを説得できると思ったんだ」

にっこり。

気を抜くと、大量放出されているキラキラオーラと王子様スマイルに騙されそうだが、やっていることはえげつない。

「今度という今度は、あなたを見損ないましたわ、殿下」

マリナは敢えて名前で呼ばなかった。


   ◆◆◆


王宮に着くと、マリナは用意されていた部屋に通された。

調度品から着替えまで用意されているところを見れば、随分前からマリナをここへ連れて来ることを想定していたらしい。期末試験が満点だと分かった日から準備を進めていたのかと思うと、マリナは軽く鳥肌が立った。

天蓋付きのベッドは、マリナの好きな手触りの良いリネンだ。家具類も派手な装飾はないものの、重厚でゆっくりくつろげる形になっている。

――私の好みを取り入れたってことね。

父からの手紙で、ビルクールにあるマリナⅡ号をセドリックが見ていったと聞いた。この部屋にあるものは、マリナ自身がこだわって選んだあの船の調度品によく似ている。たった数日でここまで揃えられたのは、王家の権力があったからだ。


長椅子に座ると、背凭れと座面の手触りの良さに心が弾んだ。セドリックに対し怒っていた気持ちも、次第に薄れていくような気がする。

ノックの音がし、応対に出た侍女がドアを開ける。

「部屋は気に入ってくれたかな?」

制服から白系貴公子ファッションに着替えたセドリックが入ってきた。自分のテリトリーの内だからか、普段よりも堂々として見える。マリナは軽く息を呑んだ。

「……素敵ですわ」

「少しでも機嫌を直してくれるといいな」

姿勢を正したマリナの隣に座り、端に寄ろうとする彼女の腰を抱き寄せた。

――うわ。

がっちりと腕で固定されている。思ったよりもセドリックは力があるようだ。逃げられそうにないと知り、マリナは心を落ち着かせようと天井画に目をやった。


が。

「セドリック様、あの絵……」

「ああ、この部屋、『天使の間』に前からある絵だよ?十一代前の王が時代の寵児と呼ばれた画家に描かせたんだ。天使の絵だね」

セドリックも天井を見上げる。

「私には、天使がじゃれあって……いるようにはとても見えないのですけれど」

むちむちした可愛い子供の天使ではなく、美術室の彫像のような男の天使と、美しい身体の線を惜しげもなく晒した女の天使が絡み合っている。まさに、絡んでいるという絵である。

――なんちゅう部屋に連れてきてるのよ!

マリナは俯いて顔を覆った。ベッドに天蓋があってよかったと心から思う。こんな絵を見ながら眠れる気がしない。

「この部屋が『天使の間』と呼ばれるのは、天井画だけが理由じゃないんだ。ここで過ごした夫婦はね、天使のような子供を授かるって迷信が」

「私達、夫婦ではありませんよね?婚約者でもなくて、あくまで妃候補ですよね?」

食い気味に畳み掛けると、セドリックは屈託のない笑みを浮かべた。


「時計の針が回って、明日になった瞬間に、一番最初に君からおめでとうと言ってもらいたいんだ」

「それはつまり……日付が変わるまで一緒に?」

「うん」

キラーン。

セドリックの背景が輝いた。……ような気がした。

「お部屋にお帰りください」

「嫌だ」

「未婚の令嬢を日付が変わるまで監禁したと王妃様がお知りになったら、どんなに嘆かれるか。思い止まるなら今ですよ」

「嫌だよ。僕はここにいる」


うっとりと蕩けるような表情を向けて、セドリックの顔が近づいてくる。

――この状況でキスとか、あり得ないから!

周りには彼についてきた侍従が三人、マリナの世話係の侍女が四人立っている。衆人環視の中でキスをする度胸はマリナにはなかった。渾身の力でセドリックを押しのけると、彼は簡単に後ろに倒れた。長椅子に仰向けに横たわり、まるでマリナが押し倒したような格好になる。

「あ……違います、これは」

彼の胸についた手は、手首を掴まれて引っ込めることができない。

「積極的だね、マリナ」

「だから、違いますってば!」

期待に満ちてきらきらと輝く海の色の瞳に魅入られ、マリナは頬が紅潮するのを抑えられなかった。


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