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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 9 王太子の誕生日
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285 悪役令嬢はお泊りに誘われる

「信じられないわ、あの優柔不断男!」

寝室のベッドの上で悪態をついているのはマリナだった。生徒会の話し合いでは、結局ダンスをやめるという判断にはならなかった。セドリックが伝統行事を変えるのは抵抗があると言ったからだ。

「ダンスのパートナー問題も、ドレス問題も、ダンスをしなければ全て解決でしょう?どう思う?ジュリア」

「私はドレスを着なくていいなら、大賛成だけどさ。楽しみにしてる人もいるんじゃない?レナードの友達はパートナーを紹介してくれって頼んできてるようだし、レナード本人も楽しみにしてるっぽい」

「……レナード?」

エミリーが雑誌から視線を上げた。

「ジュリアのクラスメイトよ」

「そう。ちょっとチャラい感じの」

「……ああ。あいつか。魔法科の女子にも声かけてた。剣技科の男とパートナー組まないかって。汗臭そうな男は勘弁」

「それはエミリーの好みでしょ?魔法科の女子の中には、ガタイのいい奴が好きだって子もいるよ」

ジュリアの意見にエミリーは盛んに首を傾げている。


「ダンスパーティーにはなるんでしょうね。私達もドレスを用意しないと」

「行かない」

「行きたくないなあ」

妹二人の意見が一致し、マリナは額に手を当てて俯いた。

「……そんなところばかり気が合うんだから。ジュリアが行かなかったら、アレックスは一人になるのよ?アイリーンに目をつけられても知らないわよ」

「う……」

「……マシューはパーティー出ないから、関係ない」

「あら、そう言えば……バイロン先生からパーティーに出たいとお申し出があったと聞いたわ」

「ダンスなんかするの?あのバイロン先生が?」

ジュリアの脳内では踊るバイロン先生がうまく描けない。踊りのセンスがなさそうに見えるからだ。

「教職員でも参加したい人は参加できるの?」

「お。エミリーがやる気になった?」

「……別に」


   ◆◆◆


翌日の昼にアリッサが学院へ戻り、四姉妹は食堂で語らった。

「どうだった?お父様、何て言ってた?」

「アリッサの気持ちを分かってもらえたの?」

「うん。お父様も変だって思ったから、オードファン公爵様と相談したんですって。レイ様の様子を使用人から聞きだして調べて、アイリーンのことも知ってたの」

「……」

話し込む三人の横で、エミリーは一人、ストローでジュースを吸っている。

「王太子様やアレックス君にも纏わりついてるって知って、お父様から男爵に注意するって言うから、やめてってお願いしたわ」

「それがいいわね。後から脅迫しただの何だのって言われるに決まっているわ」

「婚約解消は保留で、婚約したままってことか」

「レイ様、早く普通に戻ってくれるといいな。いっぱいお話したいことがあるの」

アリッサは瞳をきらきらさせて宙を見つめた。三人には見えない何かが見えているようだ。


「あとね、今朝、お父様とお兄様が出発したんだけどね」

「ビルクールに、でしょ」

「今年中に戻って来られるかしら?」

「どうかなあ?……出発したのはそうだけど、私が言いたいのは違うの」

「ん?」

「何かあったの?」

ジュリアとマリナはフォークとナイフを動かす手を止めた。エミリーは相変わらずジュースを吸っている。アリッサは三人に顔を寄せるように手招きした。

「あのね……お兄様が、アスタシフォンに行くみたい」

「うちの領地から出るの?」

「お話を立ち聞きしちゃって。詳しくは分からないけど、お父様がお願いしてたわ」

「兄様ならアスタシフォン語もできるけどさあ、奴隷同然にただ働きさせられてた街じゃん?いい思い出なくね?私だったら絶対行きたくないな」

「大丈夫よ、ジュリアは」

「……アスタシフォン語ができないから頼まれない」

ボソッとエミリーが呟く。怒ったジュリアがテーブルを叩くと、空になったグラスが揺れた。


   ◆◆◆


「さあ、マリナ。僕と一緒に王宮に行こうね?」

優柔不断な生徒会長が仕切る生徒会活動は、特に作業も進まず、今日は解散することになった。マクシミリアンとキースを生徒会室から追い出すと、セドリックは無駄にキラキラした笑みでマリナの肩に手をかけた。

「セドリック様、休日は明日ですわよ?」

「知ってるよ。僕は朝から何度もバルコニーで手を振らなければならないんだ。実質休みにならないから、今晩君とゆっくり過ごしたいな」

表情を曇らせたまま一度フリーズし、潤滑油が足りないロボットのようにぎこちない動きで、マリナは王太子の手を振り払った。

「……王宮に泊まるのはなしでお願いします」

「ダメだよ。これは期末試験満点のご褒美なんだからね。君の意見は受け付けないよ?」

「どうしても?」

「うん」

――今の『うん』って、絶対語尾に音符がついてるわ。なんて嬉しそうなの?


「出かけるには支度が必要ですし、一度寮に戻らせてください」

逃げ帰って部屋に籠ればこっちのものだとマリナは思った。明日の準備のために、セドリックは王宮にもどらなければならない。マリナをいつまでも待っている時間はないはずだ。

「分かったよ。アリッサと一緒に帰るんだね。僕も支度をして、車寄せで待っているからね」

「……」

返事をせずにアルカイックスマイルで頷く。行くと言わなければ後で言い逃れられる。

「待っているからね、マリナ」

そっと頬に触れるだけのキスをして、セドリックは生徒会室を出て行った。


「マリナちゃん……お泊り、するの?」

頬に手を当て、真っ赤になったアリッサが訊いてきた。目の前で姉が婚約者にキスされた。アリッサとしては猛烈に恥ずかしいのだ。

「しないわよ。帰ったら部屋に籠城するわ。明日のデートは、セドリック様に時間を教えてあるもの」

「うまくいくかなあ……」

不安そうに眉を下げたアリッサは、廊下から物音がしたような気がして、ドアを開けて左右を眺めた。

「誰もいない。……気のせいだったのかな」

首を捻ると後ろから、肩にコートが掛けられる。

「行きましょう、アリッサ」

颯爽と歩き出したマリナを追って、アリッサはコートに袖を通しながら歩き出した。


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